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灼熱無双のフレイムハート~創世の獣と聖樹の物語~  作者: 秋津呉羽
七章 星誕祭~無限を冠する女王と浮遊大陸エア・クリア~
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五種族代表会議②

 イスファの問いに対し、最初に立ちあがったのはゴルドだ。ゴルドはヒューマニスの首相からもらってきたカンペを取り出すと、それに目を通す。


「ええと、ヒューマニスとしては――」

「ゴルド、貴様が最前線に立って命を張れ、それで釣りがくる。ここにいる誰も貴様らヒューマニスに期待をしちゃいない。これ以上は時間の無駄だ、次だ、次」

「テメエ、言い難いことをずばずばと……」


 レッカの歯に衣を着せぬ物言いに、ゴルドの表情が引きつる。

 だが事実、レッカの言う通りではあるのだ。

 ヒューマニスは神装者がほぼおらず、国土も貧しく、秀でた技術もない。直接前衛に立つこともできなければ、支援もできないのである……ある意味、レッカは言い難いことを率先して指摘しただけにすぎないのだ。

 ゴルドも納得はできないが、その点は理解しているので、大人しく席に座ることにした。

 そんなゴルドの肩を軽く叩いた後、フェリオが立ち上がる。


「ビースティスとしては最前線であるファンタズ・アル・シエルにおける冒険者達の活動を積極的に支援すると同時に、冒険者の三割ほど本国に引き戻し、防備を固めることとします。他、冒険者達に対する具体的な支援内容等は、別途配布した資料にまとめてあります」

「なんだ、九血族の腰抜けどもがうるさいか、フェリオ」


 何でもない事のように問いかけてくるレッカに、フェリオは頭痛を堪える様に眉間を揉んだ。

 レッカの言ったことはまさに正鵠を得ていたからである。

 ビースティスは過去、大型終世獣ヤマタの襲撃を受けた国であり、終世獣に対する警戒心は人一倍強い。ただ、それは同時に終世獣の恐怖を誰よりも理解していることでもある。

 特にビースティス九血族連合の中でも、保守派のオーク血族を筆頭として三つの血族が本国の守りを固めるべきと断固主張。対して武をつかさどるピューレル血族を筆頭とした迎撃派は、冒険者の支援に力を入れ、ファンタズ・アル・シエルの開拓をより推し進めるべきと主張。

 喧々囂々の騒ぎとなった。

 フェリオはこれを仲裁し、何とか先ほどの意見を折衷案として提案したのである。


「レッカ、お前の言いたいことも分かるが……この防備三割という数字は今のビースティスには必要な物だ。好戦的なドミニオスならばまだしも、我らが民には未だ大型終世獣に対して強い恐怖を抱いている者も多い。九血族連合に連なる者として、私は彼らに安心して生活を営んでもらうために努める義務があるのだ」

「ビースティスの総冒険者の三割程度で、どれだけの間、大型終世獣を足止めできるか見物だな。気休め程度にすぎん」

「おい、レッカ」

「分かっている」


 嗜めようとしたゴルドに対し、レッカはうるさそうに手を振る。


「俺様はビースティスの内情には詳しくないが、フェリオがその案をここに持ってきたという事は、それが最善だったという事なのだろう。このクソ真面目が妥協案を持ってくるとは思えないしな」

「分かってんなら、ちゃちゃ入れてんじゃねーよ!」

「ふん、俺様は言いたいことは言わないと気がすまんのだ」


 そう。このレッカという男、とにかく思ったことを口にしなければ気が済まない性格をしており、学生時代から揉め事が絶えなかった。ただ……逆に言えば裏表がない性格をしているという事であり、癖は強いが慣れてしまえばこれほど付き合いやすい相手もいない。

 この男が不思議と多くの者達に慕われていたのは、そう言う理由があるからだろう。


「では、次はワシじゃの」


 次に立ち上がったのは、イスファ老だ。


「ワシらマナマリオスも未踏都市アルシェールの冒険者達を支援するつもりなのじゃが……どうにも、ワシ等の種族は冒険者に向いとらんからのぅ」


 マナマリオスは、霊術・魔術を行使できる代償として、全種族の中でも圧倒的に身体能力が低い。

 そのため、神装学院を卒業してから冒険者になる者は意外と少なく、半数は故郷に帰り、神装に携わる研究職に付いている。


「じゃから、ワシ等は他種族の冒険者へ有益な道具を提供しようと考えておる。研究者への研究費の増額や、アルシェールで販売されているマナマリオス製の道具の値を下げるとかかの」

「へぇ、そりゃいい」


 イスファ老の言葉に最も早く反応したのは現役冒険者のゴルドだ。

 空間拡張式の道具袋など、マナマリオス製の道具は他と一線を画するほどに使い勝手が良い。他にも水を一千倍まで圧縮携帯できるブルーコアや、土からパンを作り出すことができるノームブレッド、濡れても火が起こせるクイックレッドなどなどがある。

 だが……高い。

 それはもう、目玉が飛び出すほどに高い。新人冒険者は、まず、簡単な依頼をこなして、マナマリオス製の空間拡張式道具袋を手に入れる所から始まるとも言われる程だ。

 マナマリオス製の道具をどれだけ持っているかが、冒険者としての格を現すといっても過言ではない。ちなみにだが、ゴルドは冒険で使用する道具一式をマナマリオス製で揃えている。

 マナマリオス製の道具が安く手に入るという事は、冒険の継続時間が伸びるだけではなく、冒険中の衛生面、食料面の質が上がることに直結する。これは意外と馬鹿にできない。

 現役冒険者だからこそ、ゴルドにはそのありがたみが良く分かった。


「可能なら明日にでも安くしてやってくんないか、学院長。新米冒険者が展示されてる道具袋の前で、財布の中身を確認しているのを見るのは、切なくてな」

「ほっほっほ、まぁ、補助金や税に関して色々と詰めねばならんので、もう少し後になるが、早急に対応するように頼んでおくとしよう。それで、何か質問はあるかの」


 イスファの問いに対して、誰も異を唱える者はいない。

 フェリオも、レッカも、一時期は冒険者をしていたこともあるのだ……マナマリオス製の道具の性能や、新米冒険者の財布事情などはよく知っている。


「さて、意見が無いようなら、次は俺様か」


 そう言って立ち上がったレッカは、腰に手を当て、胸を張る。


「ドミニオスは当然攻めに出る。ファンタズ・アル・シエルで活動しているドミニオスに対する支援を手厚くすると同時に、学院生の卒業後の所属ギルドに対してもフォローを行う。ドミニオスの大陸『シャドル』はファンタズ・アル・シエルから最も遠いからな……防御は考えなくていい。それと、これはまだ構想段階だが……種族別に分かれているギルドをすべて解体し、実力と実績に応じたギルド編成を行うべきだと考えている。終世獣が活性化している今、真に実力のある冒険者達が種族という枷に縛り付けられているのは愚策以外の何物でもない」


 ――あーそれを言っちまうかー。


 ゴルドが周囲を見回してみれば、フェリオは難しい顔をし、イスファ老は愉快そうに笑い、ザイナリアは……相変わらず顔をしかめたままだった。

 確かに、今、ファンタズ・アル・シエルにあるギルドは同種族で集まる傾向にある。そのため、ギルドによって実力のある冒険者が散り散りになってしまっているのだ。

 つまり、レッカの言う『実力と実績に応じて冒険者を一括管理して、難易度別にクエストを発注する』という案は確かに正しいのだが……世の中、正しさだけで全てが割り切れるわけではない。

 冒険者は常に命の危機と隣り合わせにいる。

 そのため、命を預けるならば信用できる同種族の者でなければ嫌だという冒険者も多いのである。五種族共学のフェイムダルト神装学院が出来たことで、多少緩和されてはいるが……それでもやはり、同種族同士でいた方が、気安いのは確かなのだ。

 また、シルフェリスのように他種族に対して排他的な者達もいる。ザイナリアはレッカの意見に対して何も反応していないが、内心では面白くないと思っていることだろう。


「ザイナリア・ソルヴィム。貴様はどう思う?」


 ――そして、ここでソイツに振るか……。


 ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべている所を見るに、喧嘩を吹っ掛ける気満々なのだろう。隣でフェリオが頭を抱えている……この男も大概苦労性である。

 だが、レッカの問いに対しザイナリアは全く表情を変えることなく、立ち上がる。


「確かに、貴殿の言うことには一理ある。だが……種族という壁は厚く、高い。また、実力によって冒険者とギルドを仕分けるということは、未踏都市アルシェール特有の『自由』という気風を破壊し、苛烈な競争社会へと作り変えることを意味する」


 そこで言葉を止めたザイナリアは、うすら寒くなるような鋭い視線をレッカに向ける。


「種族の住み分けが出来ているからこそ、アルシェールは小康状態の上に成り立っていられるのだ。そのボーダーラインが壊れ、他者を蹴り落とすシステムが確立されれば、人々の心から余裕は消え、小競り合いが頻発し、治安は一気に悪くなるのは火を見るより明確。結果、冒険者志願の者達は減り、世代に入れ替えに支障が出ることになるだろう」


 そう、ザイナリアが言ったことが、まさに正しさでは割り切れない側面である。

 人の心、そして、理屈や正論では割り切れない感情の領域にある問題である――これを解決するには莫大な時間と、根っこにある価値観の改変が必要となってくる。


 ――意外とこいつもよく見てるな。


 ザイナリアは神装者ではないのだが……さすがというべきか、未踏都市アルシェールに巣食う問題を正確に見抜いている。

 ザイナリアの意見に対し、レッカはスッと視線を鋭くした。


「ならば、その慣れあいという汚泥の中に沈んでいくのを待つのか? 終世獣は刻一刻と迫ってきている。食いちぎってくださいとばかりに、喉元をさらけ出したまま、馬鹿のように呆けるつもりではないだろう」

「『五種族が共存できる』という前提ありきで話している貴殿とは、そもそもが噛み合わない」

「ならば、貴様はどうするというのだ。もしや、シルフェリスだけで大型終世獣と戦うなどと、世迷言を抜かすつもりじゃないだろうな」

「そうだ」


 小馬鹿にしたような笑みを浮かべていたレッカだったが、迷いなく言い切ったザイナリアの言葉に絶句した。ただ……それはレッカだけではなく、ゴルドやフェリオも同じことだ。

 そんな一同を見回したザイナリアは、見せつけるようにゆっくりと口を開く。


「シルフェリスはフェイムダルト神装学院の生徒を含む、全ての神装者を『エア・クリア』へと引き戻させ、独自の防衛策を講じる」


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