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最終章

あれから5年、3人は仲良く暮らしていました。しかし最近はちーちゃんがふてくされています。

「あーくん、たっくんあそぼーよー」

「あとでね」

「あとっていつさぁ? 遊びたいよ」

「うん、ちょっと待って」

ちーちゃんはついに耐え兼ねてでて行きました。

「もういいよ。1人で遊んでくる」

3人がいたのは研究所でした。いろいろ新しいものができるのはおもしろかったのですが、あーくんもたっくんも研究にかかりっきりで構ってもらえないちーちゃんはやきもちをやいていました。ちーちゃんからあーくんとたっくんをとった研究にです。2人は研究が楽しくて仕方ない様子です。

「私のことなんて興味ないんだ……」

ちーちゃんは1人でベンチに座っていました。遊び道具はたくさんありました。車とか観覧車とか、すごいものはたくさんありました。でもそれで遊ぶ気にはなれませんでした。やっぱり何をしていても3人で遊ぶのが1番楽しいです。おもちゃがなくても3人で走り回るのが楽しいです。ちーちゃんは昔の楽しかった日々を思い出していました。あのときの2人はちーちゃんのためにいろいろ作ってくれました。なのに今は……。ちーちゃんはブランコに座りました。ゆらゆらと小さく揺れていました。ちーちゃんが乗ってたっくんが押して、あーくんが心配そうに見つめている。懐かしい光景が頭の中に浮かびます。ちーちゃんと呼ぶ声が聞こえます。昔は何度も何度もちーちゃんと呼んでくれました。またそんな日が来るのでしょうか。2人は大人になってちーちゃんは子供のままで、ちーちゃんも仲間に入れて欲しいです。しかし今のちーちゃんにはあーくんとたっくんが何を話しているのかすらわかりませんでした。

だんだんちーちゃんの影が伸びていきます。気づくともう夕方でした。西の空が夕焼けに染められています。ふと昔見た夕焼けを思い出しました。あれはもう何年も前のことです。まだ幼かったあーくんとちーちゃんはくまさんの背中に乗せてもらい山を登りました。そして山の頂上で降ろしてもらいました。

「くまさん、こんなところに来てどうするの? 」

ちーちゃんはくまさんに尋ねました。もしかしたらくまさんはちーちゃんの言ったことがわかったのでしょうか。ちょっといたずらな笑顔を浮かべました。それは子どもと遊ぶお父さんのような顔でした。くまさんはあーくんとちーちゃんを肩にのせて立ち上がりました。すると、あーくんとちーちゃんの視界からは四方八方に伸びていた草の上にでます。2人の目に飛び込んできたのは半分の夕日があたりを照らす空でした。地平線から順に赤から紫そして黒へと変わっていく空にあーくんもちーちゃんも心を奪われました。くまさんは満足げに2人の顔を眺めました。

あの光景をちーちゃんは今でも鮮明に覚えていました。

「くまさんどうしてるかな」

ちーちゃんは急にくまさんが恋しくなってきました。会いたい。ちーちゃんはその思いが我慢できなくなりました。

「くまさんに会いに帰ろう」

そう決めるとちーちゃんは準備をはじめました。来た時はぼろぼろのイカダだったけど、今はあーくんとたっくんが作ったエンジンつきのボートがあります。それを使えばちーちゃんにだって1人で行くことくらいできます。ちーちゃんはこっそり支度を続けました。決行は明日朝です。ちーちゃんは初めての一人旅にワクワクしながら眠りにつきました。

とうとう朝になりました。ちーちゃんはボートをとりに研究所に入ります。

「あれ?」

あーくんとたっくんの研究室がまだ電気がついています。もしかして昨日は寝てないのでしょうか。ちょっと健康が心配です。いや、やっぱりそんなこと知りません。研究しか頭にない2人の健康なんて知ったこっちゃないです。ちーちゃんはボートを引っ張りだしました。ほら、こんなに音をたてながらボートを引っ張ってるのに2人は気づきすらしません。コロコロと板にのせて転がし海辺まで持ってきました。さぁ、冒険の始まりです。ちーちゃんはボートを操縦したことはありませんでしたが、操作くらいだいたいわかります。このボタンを押して出発です。

快適です。風を切って進みます。なんの問題もなくどんどん走りました。大きな海の上にちーちゃん1人、ちょっと寂しかったけどくまさんに会えるのでワクワクです。カモメが頭の上を飛んでいます。今日はいい天気でした。空も海も見渡す限り青です。

「あっ」

懐かしいものを発見しました。魚のヒレが水面上にとび出しています。あれはイルカさんです。ちーちゃんはヒレに近づきチョンチョンとヒレをつつきます。魚の顔が上がってきました。あの優しそうなイルカさんの顔を見ようとボートから顔を出しました。イルカさんの顔……は怒っていました。違います。これはイルカさんじゃありません。目が怖いです。口が怖いです。

「いや!……殺される」

ちーちゃんは必死に加速ボタンを押しました。逃げました。一生懸命逃げました。それでもギザギザのヒレはちーちゃんに迫ってきます。

「助けて、誰か助けてー!」

ちーちゃんは叫びました。ほおを伝った涙は風に飛ばされ後ろへ流れます。ヒレとの距離はもう数メートル。ついにサメはちーちゃんをとらえました。牙の生えた口を大きく開きサメは水面からとびかかります。

「いやぁぁぁぁぁ」

ちーちゃんはもう絶望していました。これで終わってしまう。1人で行こうとしたのがいけなかったんだ。結局私はあーくんとたっくんがいないと何もできないんだ。涙がどんどん溢れてきます。

「ごめんね。ごめんね、あーくん、たっくん。私、死んじゃうよ。こんな2人の見届けられないところで……」

ちーちゃんはボートの上に崩れ落ちました。

「ちーちゃんは死なないよ」

パンパンと銃声が聞こえました。音のほうを見ると船がありました。あーくんが運転したっくんが銃を討っていました。

「ちーちゃん、おまたせ。さあ乗って」

あーくんはちーちゃんに手を差し伸べました。ちーちゃんはその手を掴み船へと引っ張られます。いつのまにかあーくんの手は大人の手になっていました。

「逃げるよ。しっかり捕まって」

あーくんは船を急旋回させ、思いっきり加速させました。すごいスピードで進みます。あーくんとたっくんの技術は確実にあがっているようです。サメはどんどん遠ざかりました。これで一安心です。放心していたちーちゃんがようやく口を開けました。

「……ごめん」

「ほんとだよ。どれだけ心配したか…………っていいたいとこだけど」

「僕たちも悪かったよ。ごめんね。寂しい思いさせて」

その言葉に心が揺らされました。堰を切ったように涙が溢れてきます。ちーちゃんは両手で顔を覆いました。

「そうだよ……そうなんだよ。寂しかったんだよ。2人ともかまってくれないから……」

「そうだよね。僕はものを作るときはいつでもちーちゃんの笑顔を思い浮かべていた。ちーちゃんに喜んで欲しかったんだ。でもちょっと熱中しすぎたみたいだね。そのちーちゃんすら見えなくなっていた。ごめんね」

「で、でもね。ちーちゃん。やっと完成したんだよ。ちーちゃんに見せたいものがある」

あーくんは泣き崩れるちーちゃんをおんぶして歩きました。

「今回のはすごいんだよ。きっとちーちゃんも気にいってくれる。

それと…………もう2度とちーちゃんにこんな思いをさせないって約束する」

「うん」

ちーちゃんは泣きながら小さく笑顔を浮かべて頷きました。

3人は研究所の屋上へと登った。階段を登り屋上に足を踏み入れると大きな迫力のある円盤がおいてありました。

「これなあに? 」

目は赤くなっていたし、声は少し震えていたけど、いつもの好奇心いっぱいのちーちゃんでした。

「これはね。空飛ぶ乗り物だよ」

ちーちゃんは目を丸くしました。

「空……飛べるの。ほ、ほんとに!」

説明するより実際に体験したほうがはやいです。3人は乗り物に乗り込みました。あーくんが操縦席に座ります。モニターを操作すると円盤はふわっと浮かび始めました。窓から外を見ると研究所が遠ざかっていきました。青い空の中、白い雲の中を鮮やかに飛び回りました。空から見下ろした海はとっても青かったです。遠くには山も見えました。あれはもしかしたら生まれ故郷かもしれません。くまさんたちは元気に暮らしているでしょうか。空から見ると全てのものがちっぽけに見えます。世界ってなんて広いんでしょう。もっといろんなものを見てみたい。それはおそらく3人ともが感じたことです。

「すごいよ。すごいよ」

ちーちゃんは大興奮でした。

「わぁ、鳥さんがこんな近くに見えるよ」

そのちーちゃんの笑顔を見てあーくんとたっくんは顔を見合わせて笑いあいました。

「3人の、新たな冒険の始まりだ!!」

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