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ボーイ・ガール・フレンド

作者: 布団27


ベタな話を書きたくて書いてみました。


よろしければ見てください


日曜日の午後、本屋からの帰り道、うきうきとした気分で自転車をかっ飛ばす。ペダルが軽い。お目当ての漫画を買ったからだ。

月の小遣いが500円の小学生とって約400円前後する漫画はそうポンポンと買えるものでなくそれゆえに買ったときの嬉しさはそれはもう天に昇るような感じだ。

早く帰って漫画を読みたい、その思いがさらに自転車を加速させる。


「もう少しだ……もう少しで読めるぞ……!!」


家が見えてきた。どこにでもあるような一戸建ての我が家。


「うおおおぉぉー!!」


ドリフト気味に自転車を止める。タイヤが摩り減った気がするが気にしない。それよりも漫画だ。


「ただいまっ」


おかえりと返される前に自室がある二階にどたどたと上がる。母さんから注意するような声が聞こえたが今はそれよりも大事なことがあるので聞こえないふり。

さあ、読むぞ。

勢いよく自室のドアを開ける。


「おかえりー」


誰もいないはずの自室からそう言われた。


「……え?」


ちょっとフリーズ。母さんは下の居間にいるし妹は遊びに行ってるはずだ。

……ってことはあいつだな。

視線をベッドに向ける。そこにはベッドの上で我が物顔で寝そべりながら漫画を読んでいる女の子がいた。


(あきら)、勝手に部屋に入るなっていつも言ってるだろう。ベッドから早くどけ」


そこは俺が漫画を読むときに使うベストプレイスなんだ。


「もー幸喜(よしき)は水臭いなー。いいじゃん別に。勝手知ったる幼なじみの家ってゆーじゃん」


言わないだろう。少なくても俺は聞いたことがないぞ。あと水臭いもなんか違うんじゃないか。


「それに無断じゃないよ。ちゃんと許可とったもん」


「……俺、そんな覚えないよ」


「だろうね、許可とったのおばさんだし」


母さん勝手に許可とるなよ。まったく。

……けど晶だから俺の部屋に通したんだろうな。

さっきに晶が言っていた通り、晶は小さい時からの友達、家が隣同士、家族ぐるみで付き合いがある、ようは俺にとっての俗にいう幼なじみというやつだ。

晶の両親は共働きで家にほとんどいないので晶はよく俺の家で遊んだり飯を食べたり風呂に入ったり泊まったりしていた。

晶の両親からも面倒を見てほしいと言われていたらしく俺たちはまるで兄弟のように育った。

だから、晶は遠慮がない。俺に対しては特にだ。今みたいに勝手に部屋に入り漫画やらゲームなどで遊びながらゴロゴロしている。


「あー!!なんか持ってる!!なにか買ったの?」


目ざとく発見してくるな。


「これ買ったんだよ」


袋から取り出し漫画の表紙を見せる。

すると晶は目をキラキラさせ手を差出し


「それって今私が見てるのの続きじゃん!!見せて!!」


と言い切った。


「やだよ」


「何でよー」


なんでもなにもこの未開封状態がわからないんだろうか。


「待ってろ。読み終わったら貸すから」


「えー幸喜って読むのが亀だから待ちきれないよ」


漫画ってのはじっくり読むものだろう。あと亀って表現やめてくれ。種類によっちゃあ速い亀もいるんだぞ。最近テレビで見た亀の爆走には度胆抜かれたし。


「ケチ」


「うるさい、黙って別の漫画でも読んでろ」


俺は床にクッションをおきそこに座り漫画を読み始める。


「うー」


それから五分くらいたつとうなり声が聞こえてきた。


「…………」


「うー」


晶がうらやましそうにこちらを見ている。


「…………」


「うー」


晶がうらめしそうにうなっている。


「…………」


「うー」


「…………はぁ、わかったよ」


ベッドを背にするように移動する。


「ほら、一緒にみるぞ」


「幸喜!!」


顔をぱぁっと明るくさせ嬉しそうにベッドの上から覗き込んでくる晶。

やれやれだ。


結局、読むスピードが速い晶に急かされ集中して読めず頭に入ってこなかったので晶に渡してしまった。

こんな感じでわがままな幼なじみに俺はよく振り回されている



翌日のゆううつな月曜日。授業もおわり放課後。

いつも一緒に帰っている晶は先生に用があるらしく夕日が差し込む教室で俺は待っていた。

何もやることがなかったのでぼーっとしていると誰かが近づいてきた。


「やあ、鈴木くん」


話しかけてきた相手を確認して思わずげっともらしそうになった。


「どうしたの渡辺(わたなべ)くん」


クラスでも嫌われているいじめっ子、渡辺くんだ。あまり関わりたくない。


「なにか用?」


「いや、別にたいしたことじゃないんだけど」


渡辺くんは何かを捜すように辺りを見渡す


「鈴木くんってさ、岡本さんと仲がいいよな」


「……晶と?」


「そうそう、名前で呼び合ってるし」


「否定しないけど」


なにか言い方がすごく嫌だ。


「否定しないんだ……ってことはあの噂は本当なんだ」


……噂?なんのことだろう

聞いてみると渡辺くんはニタァと笑った。その笑みは見たことがない悪魔の笑みを連想させる。


「鈴木幸喜と岡本晶はいつもいちゃいちゃらぶらぶしているバカップルってやつさ」


……なんだそりゃ。根も葉もない噂だ。

そういうと渡辺くんはじっくりと俺の反応を見るように、


「根も葉もあるじゃないか、登下校はもちろん、いつも二人でいるしはたから見てもすごく仲好さげだしただの友達とは思えないなぁ」


「それは――」


言葉が出なかった。その瞬間頭が熱くなった。全身の血が頭に集まっているみたいだ。一拍おいてからそれが強烈な羞恥心だと分かった。

クラスメートからそういう風に見られていると思うと耐えられない。自然と顔をうつむかせる。今の顔を誰かに見られたくない。

晶と学校で過ごした時間をなかったことにしたいとすら思った。


「で、どうなんだ?」


渡辺くんは容赦がない。


「……違う」


絞り出すように言う。今の俺には一言でもつらい。


「じゃあなんでいつも一緒なんだよ?」


「それは――」


なんでもいい。とりあえず否定しないと。

俺は今から何を話すかを意識しないように口を動かす。


「晶が勝手に付きまとってくるんだよ。いろいろ事情があってよく一緒にいることはあるけど俺が好きでいるんじゃないんだ。俺だって迷惑しているんだよ」


ひどいことを言っている。でも気にするな。今だけだ、と自分に言い聞かせる。そうしないと泣きそうだ。


「ってことは岡本さんのことは好きじゃないんだ」


「そうだよ。俺は晶のことがむしろ嫌いなん――」


ふと、視線を感じ目を向けるとそこには晶が立っていた。


聞かれた。


渡辺くんも気づいたのか振り返り、あーあと言った。


晶は目を大きく見開いてこっちを凝視していた。信じられないといった顔だ。

不意に晶の顔がゆがむ。いつもは太陽みたいな笑顔を浮かべている晶から想像もつかないような表情だ。


「あ……晶」


「――っ!!」


晶は俺が名前を呼ぶとはじかれたように教室から走って離れていった。


追いかけようとしたけど渡辺くんが邪魔をするように立ちふさがる。


「よかったなぁ。これで自由の身だぜ」


渡辺くんは勝ち誇ったようにそう言うとランドセル背負って教室から出て行った。


日はすっかり沈んでいた。





それからどのように家に帰ったのかわからない。気が付いたら真っ暗な自室のベッドの上で毛布にくるまっていた。

思考がまとまらない。噂のこと、渡辺くんのこと、晶のこと、晶に聞かれたことなどがぐるぐる頭の中で回っていた。


きぃとドアが開く音がする。晶なんじゃないかと思い身を強張らせる。


「夕飯だって」


毛布から顔だけ出す。ドアの隙間から差し込む光で妹の恵子(けいこ)だと分かった。


「……なにかあったの?」


恵子はなにかと鋭いし俺より二歳年がしたなのに俺よりはるかにしっかりとしている。



「どうして」


「顔がひどいよ」


どんな顔してるんだろう、今の俺は。


ぱたん、と恵子が部屋にはいってきてドアを閉める。辺りはまた真っ暗になった。


「話聞くよ」


「ないもないって言ってるだろ。あっても話す理由がないよ」


それにこんな情けない話、妹に聞かせられない。


「話すだけでも楽になるって兄さんに借りた漫画にあったよ」


その言葉に気が緩んだ。ついでに口も緩んだらしく


「晶に……ひどいことしたんだ」


と漏らしてしまった。

さらに涙腺も緩んでしまったようだ。

ぽたり、ぽたりと目から涙がこぼれ始めた。


それからはしゃくり声をあげながら何があったかを妹に話した。


恵子は相槌を打ちながら熱心に聞いてくれた。部屋は暗いのでどんな顔をしているのかわからない。


一通り話して落ち着いたところで恵子に聞いてみた。


「俺はどうすればいい?どうしたらいい?」


どうしたらもこうしたらもまずは晶に謝るべきだ。それは頭でわかっているんだが聞かずにはいられなかった。たとえ妹でも恵子なら正しい答えをくれるんじゃないかと奇妙な信頼があった。


恵子はうーんと少し悩みながら


「こういうことはよくわからなんだけどどうしたら、どうすればじゃなくて兄さんがどうしたいかじゃないかな?」


「……どうしたい」


「そう、兄さんは晶ちゃんをどうしたいの?」


考える。俺は晶に


「謝りたい、またいつもみたいに一緒にいたい」


簡単にたどり着いた。


恵子は満足そうに良しと言って


「なら明日、すぐに謝っちゃおうか。朝に」


「……朝っぱらからか」


なんというかもう少し心の準備が必要というか


「なに恥ずかしいの?」


恵子の声色にからかうような響きが混ざる。


「今さっき妹の目の前で泣いてその妹になぐさめられてこれ以上恥ずかしいことなんてあるの?」


……ごもっとも




翌日の朝、さっそく晶の家に出向いたんだけどどうやら学校に登校したらしく誰もいなかった。

朝は寝起きのテンションで恐れるものなしと行動できたけど、学校に向けて歩いているとだんだんと気が抜けていく。どういう風に切り出そうか、どこで謝ろうか、うじうじと考え始めてしまい足が重くなっていく。

はぁ、我ながら情けない。


学校についたのは始業ぎりぎりの時間だった。

これじゃあ朝に謝るのは無理だな。自分のへたれっぷりに理由がついて少しホッとする。


玄関から上履きに履き替え、教室に向かう。

教室には晶がいるだろうな。そう思うとさらに歩く速さが遅くなる。


教室の前まできて違和感を感じた。ピリピリとした雰囲気を感じる。


少し躊躇してからドアを開ける。


教室の中はほとんどの生徒が席に座っていてみんな視線を教室の中心に向けていた。

そこに二人の男女が対立するように向かい合っている。

晶と渡辺くんだ。

二人はまったく別の表情をしていた。

渡辺くんはいつもと変わらず余裕たっぷりな意地の悪い顔。

晶は今にも泣きそうな顔だった。


ふと、黒板をみると大きな文字で祝!!鈴木幸喜と岡本晶破局と書いてあった。


渡辺くんは俺に気づき指差す。


「お、噂の鈴木くんのお出ましだ!!」


みんなが一斉に俺を見る。視線に質量があったら間違いなく圧死してる。


「付きまとわれてたんだっけ?大丈夫だよ。俺が岡本さんに話をつけておいたからさ」


なにを言ったんだこいつは。

こんな大勢の前で何を言ったんだ。

ふつふつと怒りがわいてくる。


いや、こうなったのは俺のせいだ。

いま、晶がこんな目に合っているのは俺のせいなんだ。


ざわざわと周りが騒ぎ出す。ひそひそ声もこんだけ多いと騒音だ。

この騒音が俺に向けられていると思うと逃げ出したくなる。

俺の中のへたれをぐっと抑え込む。

いまここ逃げたら晶はどうなる。

言わなければ、今、自分の正直な気持ちを


俺は無数の好奇な視線を割るように黒板の前まで進む。


そして、俺は思いっきり黒板を爪でひっかいた。

不快な音が教室中を走る。

みんなは耳を一斉に抑える。


静まり返った教室で俺は大きく宣言した


「聞け―!!俺は晶のことが大っ好きだー!!付きまとわれているなんてそんなことはない!!俺が好きで一緒にいるんだ!!わかったか!!」


突然のことにみんな呆気にとられた顔をする。


「行こう、晶」


「え、ちょっと」


誰も動かない中で晶の手を取って教室を出た。晶は何か言いたげだったがそれを無視しどんどんと進んだ。





近くの公園まで行きそこで俺は土下座をした。


「ごめん!!晶」


「……え?」


まだ状況を理解できていない晶に俺は謝りながら必死に伝えた。

渡辺くんとの会話のこと、それによって晶を傷つけてしまったこと、そして昨日妹に諭されたこと、土下座の姿勢のまま


「自分勝手だけど晶と一緒に居たいんだ!!頼む!!許してくれ」


数秒、間があいた。

恐る恐る顔をあげると晶は大粒の涙を流しながら泣いていた。


「……なにそれほんとに勝手じゃん。あたし恐かったんだよ。幸喜に嫌われたって。もう前みたいに一緒に居られないんだって……なのに……なのに」


そこで晶は俺に向かって飛び込んできた。衝撃で息が詰まる。

晶はわんわんと泣いた。泣き続けた。必死になだめたけどしばらく収まらなかった。

その後、先生にたっぷりと叱られた。学校を抜け出したんだから当然か。




それから、いろいろな条件とともに晶に許してもらった。

三か月分の小遣いが犠牲になったが安いもんだろう。

学校ではあの出来事以来、周りから敬遠されるようになった。

まあ、別にいいけど。

俺には、これからも一緒にいてくれる大切な友達がいるのだから







読了感謝感激です


……書き上げたとき登場人物の年齢設定をすこし間違えたかなと思いました

特に妹

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