ペーやん
「おいなんでぺーやんが亀甲縛りされてんだよ鈴木!」
事件は鳴海の部屋で起きた。部屋の主、鳴海が席を立ちやがて戻ってきた時だった。
我が桔平町のゆるキャラこと、熊のぺーやんLLサイズぬいぐるみが何をどうしたか、器用に縛られ一之瀬&鈴木の晒し者にされていた。
「なっ、なんで俺が名指しなのさ! これやったのいっちーかもしれないじゃん!」
鈴木に矛先を向けられた一之瀬が挙手。
「スズちゃんが勝手にやりましたー」
「ちょ、いっちーそれ打ち合わせと違う!」
一之瀬の裏切りにわたわたする鈴木。
「いいからさっさと解け! つか一之瀬も見てたら止めろよな」
鳴海の言葉が聞こえているのかいないのか、一之瀬は顎に手を当てて述べた。
「……着ぐるみの上から縛られる美女、滴るのは汗か涙かそれとも」
「やめろ」
スパーンと小気味よく一之瀬の頭を叩く音が響く。一之瀬の変態妄想は突っ込まない限り延々と続く。
一方、叱られた鈴木はぺーやんを縛り付けた紐を解こうと苦戦中だった。
「なー、なんでナルん家にぺーやんぬいぐるみあるの? しかも特大。非売品っしょ」
鈴木の問いに鳴海は微妙に得意気な顔で答える。
「ああ、ぺーやんは理沙が考案したキャラクターだからな。ほら、デザイン一般公募だったし。採用するからって町長がぬいぐるみ送ってきたらしいんだ」
「あー、理沙ちゃん。中学二年でテニス部エースの鳴海家ご息女」
「おろ、スズちゃん詳しくね?」
「めぼしい女子のデータはだいたい把握してますから」
「人の妹をめぼしい言うな!」
今度は鈴木の頭を叩く音が響いた。
ちなみに理沙ちゃんにこっそり彼氏がいるのはお兄さんも知らない事実である。
でもさ、と一之瀬が、
「大きな熊のぬいぐるみ、って某人気キャラに似てね? あのハチミツくまさんに」
「に……似てねえよ。あっちは黄色、こっちは黄緑」
「いやそれギリギリアウトだよナル……あ、ほどけた」
紐は解けたものの、どれほどきつく縛っていたのか、綺麗に縛っていた跡が残ってしまっていた。「跡ついちゃったじゃねぇかよ鈴木この野郎!」
「なんか無駄にゑろい希ガス」
「いーじゃんナル、ぺーやんは大人の階段登ったんだよ」
「勝手なこと言ってんじゃねぇー! おまえら出てけ!」
鳴海の全力の叫びも虚しく、一之瀬と鈴木はけらけらと笑うばかり。
怒鳴るのも無駄と、鳴海は大袈裟に溜め息をついた。
「おまえら相手にしてらんねぇ!」
「てか、一瞬で亀甲縛りだって分かったナルちゃんて……」
「もうホントにお前ら出てけ!」