愛犬の策略につき、辺境伯に見初められました。
「マーシャ嬢、俺は犬が嫌いだ。だからその犬を捨てれば君と婚約してもいい」
「あ、そうですか、ではこちらからお断りします。」
私は親が選んだ婚約者(まだ決定していない)の顔を見ずに、愛犬を引き連れその場を離れた。
なぜ最愛の家族をよく知らない男のために捨てなきゃならんのだ。
使用人にことを伝え、私は自室に戻った。
この子はココ。
私が小さいころから側にいて守ってくれる女騎士さまなのだ。
この子の嗅覚はすごくて、物や人を見つけるのが上手いが、出会った人間がいい人か悪い人かかぎ分けられる能力があるのだ。
この嗅覚に何度も救われた。
さっきの男も出会ってすぐに唸り始めたから、無理だとわかって淡々と対応してたのでダメージはない。
「ありがと、ココ」
「ワフ」
白く少し硬い毛並みを撫でてあげる。
彼女は気持ちよさそうに私の足の上にもたれかかってきた。
今度お父様にココを同席させていい男を見つけてきてもらった方が、時間の節約になるし、いい婚約者もゲットできるのではないかと思って、一度父に提案したが呆れられて断られた。
父が選んでくる男はことごとく性格が悪いため、夜会で探してきなさいと母に言われ、参加することになった。
ココも連れてきたかったけれどペット同伴は他の貴族に迷惑が掛かるからダメなのだ。
たまにどこぞの夫人が猫連れてくるのはいいのか。
性格や見た目の男性の良し悪し以外はよくわからない。
とりあえず事業が大きい家の人と話すが会話のレベルが高い。
話していくうちにわかったが、相手の方も私に求めるレベルが高く、私がレベルに達していないとわかるとつまらなさがにじみ出る貼り付けの笑顔でさっさと会話を切り上げていく。
私の家は騎士の家系だから文官系や商売がメインの家とはうまく話が合わなかった。
賢さが足りなくても選ばれるのは見目麗しい人だけ。
お母様に言われる通りもっと勉強しなければならなかった。
ココや他の犬達と野原を駆け回ったり訓練したり、父に憧れて剣ばかり振るっていたせいで、他の令嬢と差が大きくでていた。
私は何人かの殿方と話した後、とぼとぼと会場から離れた。
庭園の噴水に腰掛け、馬車の迎えの時間まで待つことにした。
「わんっ」
犬の声が聞こえたと思ってそちらの方をみると黒い大型犬が私を見ていた。
野犬かと身体が強ばるが、首輪が見えたことに安堵し、私は犬の目線に合うようしゃがんだ。
直ぐに触ろうとせず、向こうからあいさつしてくれるか待ってみる。
すると黒い犬はゆっくりと私に近づき手の匂いを嗅いだ。
尻尾をみると揺れ始めたので警戒は解いてくれたようだ。
「今すっごい落ち込んでてさ、もしよかったら撫でさせてくれないかな?」
と言うと、黒い犬は尻尾を強く振りながら私の足元に倒れた。
撫でさせてくれるのだろう、私はちょっとの時間でも犬ロスになるからとてもありがたいと思いながら、黒い犬の毛並みを堪能したのだった。
「クロード!」
黒い犬が耳をピンと立てた後、誰かの名前を呼ぶ声が聞こえた。
建物の方から1人の男性が近づいてきた。
「お前!初任務なのに逃げ出して女を口説いてたのか?!」
誰に言ってるんだろうと思ったが、黒い犬が耳を伏せて私の後ろに隠れた。
クロードはこの子の名前か。
「レディ、この度は失礼した。この阿呆が邪魔した。」
頭を下げてきた男性は栗色のさらさらな髪で、たくましそうな身体をしていた。
腰に武器を下げているということは、夜会のガードマンだろうか。
「いえ、疲れていたところを癒してくれましたし、人の言葉が結構わかるのか反応してくれますし、賢い子ですね。」
「賢い…?そうですね、ずるのほうで」
男性が睨み付けると、クロードちゃんはくうんと可愛く縮こまった。
あざとく可愛くすれば人間が折れるのをよくわかってる子だ。家にもそういう子がいるからよくわかる。
「今日はあまり叱ってやらないでくれませんか?こんなところで一人でいた私を見守ってくれたんですもの。」
私は笑いながら頼むと、男性はため息を吐いたあと、困ったような顔で頷いてくれた。
「もうすぐパーティーも終わりますし、戻りましょう。」
エスコートしてくれるのか、右腕を差し出してきてくれた。
私はありがたく腕を絡め一緒に建物に向かった。
クロードちゃんはちゃっちゃっちゃっと軽やかに爪が地面にあたる音をたてながら後ろについてきている。
きっとご主人に怒られなくてラッキーと思っているのだろう。
わかりやすい子で笑ってしまった。
男性は私が笑ったのが不思議なのか、眉を曇らせて私を見てきた。
「ああ、すみません。クロードちゃんが可愛くて。」
「可愛い?あいつが?」
信じられないという顔をしているということは、相当わがままなんだろう。
私の前ではお手もおかわりも一通り芸をしてくれたのに。
「そういえばお名前をお尋ねしてませんでした。私、伯爵家のマーシャ・ブライトです。」
「これは失礼した。私はギルベルトです。…それではここで。私はこいつと任務がありますので、これで。」
入り口の前でギルベルトさんは一礼してクロードちゃんを引き連れようとするが、クロードちゃんはこちらを名残惜しそうに見ている。
私は手を振って見送っていたら、諦めたのかしぶしぶギルベルトさんについて行った。
それから数日後、婚約希望の手紙が届いた。
夜会での頑張りが実を結んで喜ぶ私とは反対に、お父様は顔を曇らせている。
「誰からの手紙なのですか?…よくない家の方?」
「辺境伯からだ。王族に連なる家だから身分は悪くない。しかし遠い辺境の地にお前を住まわすのはどうかと…。」
辺境伯?そんな高貴なお方と夜会でお話しした記憶はない。
会話を近くでお聞きして気に入ってくださったのだろうか。
「とりあえずお会いしてから考えます。犬が好きだといいのですけれど。」
「そうだな。あちらより身分が低い身だから断れもしないし…。」
実は都会よりもある程度農業や酪農をしている土地のほうが、のびのびと犬達を育てられるから悪くないと思っている。
最先端のファションや流行より、犬達が健やかに生きれる環境の方が私としては嬉しいのだ。
お父様がお返事を書かれると、辺境伯様の方から私の家に来てくださるとの連絡が直ぐに返ってきた。
そんなこんなでお見合いをする日がついに訪れた。
私はメイドにドレスを着せてもらい、髪も綺麗に結い上げてもらって待っていた。
支度が終わったタイミングで、窓からお見合いの方を乗せた馬車が来たのが見えた。
「わんわん!」
お迎えのために玄関へ向かうとココの吠える声がする。
吠えるということはよくない人が…?いや、これは嬉しそうな鳴き方だ。
ココは今まで家族か餌をくれる人にしか懐かなかった。
どういうこと?と急いで玄関を開き、ココの元へ駆けていくと、そこは驚きの風景だった。
ココが何度もジャンプしながら男性にじゃれている。
大好物のお手製ジャーキー以外ではあんなにしゃぐココは見たことがない。
驚いて男性の顔をよく見ると、夜会で出会った人―――
「ギルベルトさん?!どうして私の家に?!」
「やあ、マーシャ、先日はちょっとあっ、待って、話している途中だから」
ギルベルトさんが喋ろうとしているのに、ココは顔を舐めまわそうとしている。
「ココ!やめなさい!」
会話を邪魔するココを抱き締めて制止させた。
「こんなに懐かれたのは始めてだ。とても嬉しい。」
ギルベルトさんはへにゃりと眉を下げて笑いながらココを撫でている。
そんな姿を見てドキリとした。
夜会の時、外は暗くて、顔はなんとなーく整ってそうくらいに感じていたが、日の明かりの下では、美しい顔がはっきりと私の目に映し出されていた。
そんなココもちぎれそうな勢いで尻尾を振って、キラキラした目で彼に釘付けになっている。
「アドラークロイツ辺境伯様、お出でいただき誠にありがとうございます。うちの愚犬が大変失礼をいたしました。」
両親は慌てた様子で走ってきて、ギルベルトさんに頭を下げた。
「えっ!?ギルベルトさんが辺境伯様なんですか!?」
てっきり夜会の主催の護衛騎士だと思っていたせいで、失礼な態度をしていた。
やばい。
「何だ、もうお会いしていたのか?なら話は早い!ココが気に入った人ならより安心できる方ということだ!」
「どういうこと?」
「何を言っている。この方からお前に婚約を求めてきてくださったのだぞ?」
ギルベルトさ――ギルベルト様がお見合いする方だったことに衝撃が強すぎて、開いた口が塞がらなかった。
「よろしく、マーシャ」
ギルベルト様は私に微笑んで手を差し出してきた。
その後からギルベルトさんいや、ギルベルト様と話した内容も、何をしたのかも覚えていない。
終始ニコニコしているギルベルト様の様子に両親は喜び、あれよあれよと婚約が決まって結婚することになった。
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結婚して直ぐに私はギルベルト様が納める領地に引っ越した。
町は王都の建物とは打って変わって装飾などはなくレンガ造りの質素な造りだが、水道が整備されていて、花が至るところに町で育てられていた。
「とても美しい町ですね!花の匂いが薫ってきて穏やかな気分になりますし、とっても気に入りました!」
「それはよかった。何もないからこそ、訪れた人が綺麗だと、また来たいと思ってくれる町作りを祖母が初めて、それを今でも引き継いでいるんだ。」
ギルベルト様に町を案内されながら歴史を聞いていた。
花か薬草を一家一つは育てないといけない法律にしているらしく、見映えだけでなく食べられる植物がかなり多いことにも驚いた。
国境が近いため、戦になる確率が高いから、町全体で少しでも備蓄をしているということだ。
「あと一つ、案内したいところがある」
そう言って、ギルベルト様は屋敷の大きな庭の端にある馬小屋に並ぶ小さな小屋に来た。
中に入ると可愛い子犬達が一斉に私に向かって走ってきてじゃれついてきた。
「かわいい~!生後1週間くらいですか?」
「ああ。軍用犬か家の番犬候補生達だ。」
奥の方で疲れはてている母犬がゆっくりと近づいてきて、私の臭いを嗅いだ。
「ギルベルト様のお嫁さんになったの。今日からよろしくね?」
自分でお嫁さんって言って少し恥ずかしくなった。
母犬は尻尾を振ってくれているので、受け入れてくれたのだろう。
「実はうちのハンドラーが病で休んでいるんだ。もしよかったら、君に世話を頼みたいと思っている。」
「えっいいのですか!?」
犬の世話は小さい頃から家でやってきた。
家の若い番犬たちは私が一から調教をしたのだ。
だからここでも犬と過ごせるのはとても嬉しい。
「君の犬に対する愛情と知識と技量がすごいのは聞いたからな。それに問題児のクロードも言うことを聞かせられるし、受けてくれるならとてもありがたい。」
「やらせていただきます!」
今日からとても楽しみだと小屋から出ると、ココに全力でアピールしているクロードちゃんがいた。
ココは興味ないのかつーんとそっぽを向いている。
ココはもう十歳だからいい年したおば様なのだけれど、二歳のクロードちゃんって老け専なのかな??
いやもしかしたらココは犬界で美魔女なのかも。
昔っからいろんな犬からアピールされまくってたし、そうかも。
それから私は優秀な犬にするため、調教する日々を送っていた。
兵士さんと一緒に訓練し、早い子では2ヶ月も経たないうちに軍用犬としての訓練が終了した子が出て鼻が高い!
他の子も順調に試験をクリアする子が増えている。
私が全ての世話を担当している子犬達も優秀でめきめきと育っている。あと数ヶ月で全員、立派な大人になってくれるだろう。
「…君が調教する犬達は優秀過ぎてびっくりだ。直ぐに現場に投入出来る。それに既にいる軍用犬達もより動きが洗練された。」
ギルベルト様は報告書を確認しながら私を褒めてくれた。
「犬の調教だけでなく、兵士さん達の指導もさせていただけたので、全体な質と信頼関係が底上げできたと思います。許可してくださってありがとうございます。」
犬がいかに賢くなっても、人との信頼がなければその力は発揮してくれはしない。
だから軍用犬のパートナーになる方々の犬とのやり取りや指示のだ仕方を確認し、一から指導する許可をもらったのだ。
女性が指導することを快く思わない人がいるかと思ったが、動物に好かれる人はやはり人がいい。
少しやんちゃな子に戸惑ってるバディがいたが、仲がいいのがプラスに働きバディはすぐに問題を解決できた。
番犬は主人しか命令を聞かないようにしつけるけど、軍用犬は軍の人なら基本部隊の誰でも支持を受け付けるようにしなければならないので、より広く交流の場を設けた。
怪我や病気、離職などの理由でバディはどうしても変わってしまうからだ。
「君が褒め上手でいい気分で訓練できたと部下達から聞いている。今では君に褒められたいからと犬を扱う部隊に移動申請が増えたんだ。まったく。」
「ギルベルト様はもう少し人間の兵士さんも犬達と同じように飴と鞭を上手く使いながら優しくしないといけないですよ?」
この地はいつ戦場になってもおかしくないから、軍事訓練が王都よりはるかに厳しかった。
娯楽も少ないため、兵士達を鼓舞するならやはりまず基本の感謝や褒めが必要だ。
「人間どうしても同族を雑に扱うことが多いです。できて当たり前だから褒めなくていいとか、するのは義務や仕事だから感謝を省くとか、規律だけ重んじてはよくないですよ。」
「ゔ…がんばって言動を改善しよう」
「それより問題が…」
ギルベルト様の足元にいるココに視線をやる。
ココはこの領地に移ってから、ギルベルト様にべったりなのだ。
私の身辺護衛をほったらかして、彼のの周りに常にいる。
(代わりにクロードちゃんが私の側にいてくれるようになった)
「俺の方でも何言っても側から離れないんだよなぁ…」
主人を鞍替えして、彼の命令はなんでも言うことを聞くようになったが、前のように私の側にいなさいという命令は聞かないのだ。
嫌われたわけではない…と思いたい。
でも私の大切な家族を奪われてしまったような嫉妬を、どうしてもギルベルト様に向けてしまう。
ギルベルト様は悪くないのに、ココのせいで関係がギクシャクしてしまっている。
私は命令を聞かなくなった犬の対処法を再度勉強しなおすために実家から本を送ってもらうことにした。
しばらくして、ある本に書かれている内容に目が留まり、ギルベルト様と一度二人っきりで相談会をした。
「ココは私が森で拾ってきた子なんですが、実はオオカミの血が混じった子らしいのです。もしかしたら強いオスを、これはギルベルト様ですね、出会ってしまって妻の座を私と争っているのかもしれません。
私たちは主従関係ではなく家族として過ごしてきましたから、彼女にとって私は同ランクの姉妹と思っていてもおかしくないですし…。」
「なるほど、オオカミの群れで見る順位争いということか。」
オオカミはアルファ同士の強い雄雌が番となって繁殖をし、群れを形成する。
ココにとってギルベルト様はアルファなのだろう。
確かにギルベルト様は強くて賢くて格好いい方だから、惚れるのはわかる。
「一応ギルベルト様は私の旦那様なので、女主人として座を奪われるのは体制的によろしくないですよね…?」
「申し訳ないが、俺は獣を性愛対象としては見れないぞ」
どうあがいても人と犬なのだ。
ココには申し訳ないが失恋してもらわなければならない。
「なら、君が俺の番だから主人を疎かにする行動を止めさせよう。ランク付けは時には大事だ。」
「どうすればいいでしょうか?」
「とりあえずは、…そうだな。一緒に寝よう。匂いをつけるのも大事だと聞く。あとは常に共にいるとかだろうか。」
マーキング!確かに効果的だか、それはすごく恥ずかしい!!
「ハグを見せつけたりして、間にはいる余地はないと思わせるしかないな。」
私はとても渋ったがココと以前のような関係に戻るため、寝床を共にするのを決意した。
夜、風呂から上がってギルベルト様の寝室のベッドに腰かけ待っていた。
心臓が口からまろびでそうでつらい。
風呂から上がったギルベルト様が部屋に入ってきた。
いつもはオールバックにしているが、今はおでこに濡れた髪がかかって扇情的な雰囲気が出ていた。
ギルベルト様は私の横に腰かけ安心するように言葉をかけてきた。
「子作りは将来的にしなければならないが、君の覚悟ができてからと思っている。今は手を出すつもりはないから安心してくれ。」
安心してくれと言われても!ギルベルト様の存在が心臓に悪い。
近くに男性的なムスクのような匂いと、熱と、低い声、呼吸で動く胸、鍛えられた筋肉それぞれが強力に私の五感を刺激してくる。
隙間はあるが並んでの共寝。
拷問のような沈黙な時間が日が昇るまで続いた。
「寝れは…その顔はお互いできなかったな」
「ごめんなさい。大事な休息を…」
「いいや、いいんだ。そうだな、今日から1時間だけ添い寝をしてあとは部屋に戻って寝るという形にしよう。徐々に時間を増やしていければいい。」
恥ずかしいけれどそれがいいと思う。
それから1時間ギルベルト様にベッドの上で抱き締められながらお話したりする習慣が始まった。
二ヶ月が経った頃、なんの進展もなく困っていた。ギルベルト様とお話が楽しくてベッドの上で過ごす時間は増えたけれど、一緒に寝るということは恥ずかしくてまだできていない。
ココとの関係を戻すためから始まったものだが、共に寝ることすらができてないのは妻として失格だった。
今日こそは寝れなくても朝まで一緒にいようか、でもそのせいでギルベルト様が寝れなかったらどうしようと思いながら、今日もため息をつきながら寝室を空けたら、突如ココが入りこんできた。
ベッドの上に飛び乗り、すでにベッドの上で待機していたギルベルト様の横を陣取ったのだ。
私もすぐさまベッドに上っておろそうとするが、ギルベルト様にしがみ付いて足の爪を必死に立てている。
「ココ!ベッドに乗っちゃだめでしょ!今までなかったのに…」
「マーシャ。無理やり引っ張ったら破れてしまう。今日は3人で寝ようか。」
ギルベルト様のの言葉にココは尻尾を振る。
ギルベルト様の隣は私の場所なのに…、とムカムカし始めた。
諦めてココを挟んで寝ることになった。
ココはギルベルトの方を見ていて、私の方を一切見ない。
ココは本当に私を主人として見なくなったのか。
胸が締め付けられるように痛い。
でも久しぶりに味わうココの毛並みを堪能していたら、いつの間にか私は夢の中に落ちてしまった。
「マーシャ?寝たのか?」
ギルベルトはマーシャの方を確認すると、ココを抱きしめながら寝ていることが分かった。
「寝かしつけが上手いな、ココ」
そう語りかけると、ココはだるそうにフンスと鼻から息を出すと、大きなあくびをしながら立ち上がっり、わざわざ移動してマーシャの足元で丸まって寝始めたのだ。
「君は…」
ココはちらりと驚いているギルベルトを横目で見て、また目を閉じた。
「(なるほど、そういうことか)」
ギルベルトは口端を上げながら、気持ちよさそうに寝るマーシャと空いた隙間を埋めるため移動し、彼女を抱き締めた。
犬に騙されたなんて恐ろしく、そしてとても面白いと思いながら、ギルベルトも今日は気持ちがよい状態で寝ることができたのだった。
目が覚めたらココもギルベルト様もいなかった。
時計をみると犬達のご飯の時間がとっくに過ぎていた。
急いで支度をして犬小屋に行ったら、ギルベルト様が餌やりをしてくれていた。
「ごめんなさい、ギルベルト様!」
「構わない。今日はよく眠れたか?」
「はい…。でも起こしてほしかったです…。」
「連日無理をさせていたからな。こういう日もいいさ。それに朝まで一緒に寝ることができて喜ばしい日だ。」
ギルベルト様の言葉にパチクリした。
私、ギルベルト様と寝れたんだ。
大きな感動が湧き上がってくる。
初めて男性が側にいても眠れることができた。
これは妻として大きな一歩だ。
「ココも起こしてくれたらよかったのに!ギルベルト様を独占するためね?」
ココの方に向き直り文句を言ったら、やれやれと言った表情で駆け回っている子犬達のところへ行ってしまった。
「あれ?今日はもういちゃつかないの?」
もしかして私が寝落ちた後に構ってもらった!?
犬相手に嫉妬しても意味はないが、なぜだか悔しい気持ちになった。
「ココは認めてくれただけで、私のことが好きと言うわけではないよ。」
「?どういうことですか?」
「恋のキューピッド役を買って出てくれたのさ」
ギルベルト様の言っている意味がよくわからない。
結婚がココのお陰ではあるからキューピッドではあるけれど、あんなに好き好きアピールしてたのに??
好きじゃないってどういうことだろう。
「わんわんわんわんわん!!!!」
出会いは俺のお陰だぞ!と主張するかの様に割り込んできたクロード。
「今日から君たちは元の関係に戻れる。大丈夫だ。」
笑顔で言う、ギルベルト様を不思議に思いながら、私は先日生まれた別の犬の子供たちと戯れるためにココの元へ駆けていった。
「マーシャのお陰で周りが明るくなった。本当にお前はいい女性を見つけてきたな。」
「ワワン!!!」
ギルベルトはクロードの頭をなでてやると、彼は尻尾を元気よく振った。
「さて…次の課題は好きになった女性に自分を好きになってもらうことだな。どうしたものか。なあ?クロード。」
「ワウウン」
クロードも深いため息をついた。
ココと上手くいってないのだろう。
「お前はマーシャにココが惚れそうな男を教えて貰えばいいだろう。我儘は卒業して、いい男に早くなれよ。」
くうーんと嫌そうな返事が返ってきた。
こいつは賢いのに面倒くさい奴だなと、己を被らせて思った。
ギルベルトと相棒のクロードは愛しの女性とその愛犬が笑っている姿を遠くから楽しそうに眺めていた。
ココは自分のせいで婚約破棄をしているマーシャに申し訳なくて、大アピールをしていました。
クロードは夜会でいい匂いをさせている雌犬の香りに反応して逃げ出した先にいたのがマーシャです。




