午前授業の解答
後編です。
先に 午前授業の問題 から読んで頂ければなんとか分かると思ひます。
では、どうぞです。
本気でアイシクル松村がキレる瞬間。
寧ろ俺が泣かされそうになる瞬間。
もう既に涙目だったのは内緒。
素敵なタイミングで、保健室の扉が開いた。
松村が俺の上に覆い被さっていて、押し倒しているように見えなくもない、怪しい体制だけどだ。…と思っていたら、松村が早急に離れた。キャラを壊したくなかったのだろう。
「本条ー。大丈夫かー?」
担任の声がする。でも足音は二人分?
「瑞季ぃ?」
聞き覚えのある声もするのは気のせいだろうか。この学園に、俺の名前を呼び捨てする人いたっけ?
ひょっこりとカーテンから顔を出したのは、叔父である悠一さんだった。
「まさか本条先生の血縁者とはね。似てなくもないけどなぁ。」
続いて、担任が顔を出す。悠一さんと俺を見比べながら。
俺も、まさか悠一さんがここで教えてたとはね。教師なのは知ってたけど。
「大谷せんせ、この度は甥がご迷惑おかけして…。すみませんっ。」
悠一さんが頭を下げてる。担任は、謙虚な素振りで苦笑した。
教師同士と言うより、教師と保護者のようなやり取り。
「瑞季、叔父ちゃんち来るかい?それとも寮にいくかい?」
にこやかに訊ねる悠一さん。いくらなんでも人前で叔父ちゃんって…。
裏表ない人とは言え、子供扱い恥ずかしい。
ん?
「寮って?」
それとなく聞いてみた。すると、担任からパンフレットを渡された。
パラ、と捲ってみる。寮費が気になるところ。あまり余計な金、使いたくないし。
「…寮費…入寮費7,000円…。月額15,000円……。」
ポツリと呟くと、悠一さんが笑い出した。
「瑞季、早速そこかよ。お母さんに似すぎ。まだ節約の鬼か?」
いや、まあ…。そこまでって訳じゃないけど。俺は決してマザコンじゃないが、相手は親バカなので、いろいろと勝てる気がしない。似てるって、お母さんにすれば誉め言葉だから喜んで喜ぶだろうな。はぁ…。
「…俺に対しては、女神ってところですかね。」
ちょっと作り笑い。知らない人の手前、下手に素が出せない。俺は人見知りなんです、これでも。
「じゃ、叔父さんと暮らすか!瑞季の手料理」
「…っ!!」
悠一さんが言わなくていいこと言うから、慌てて彼の口を塞ぐ。
しまった。なんかもう、どうでもいい。
目の前に他人。泣きたい。
うわ、二人とも驚いてるよ。恥ずかしい。
「…先生方?すみません、席をはずして居りまして。」
その気まずい状況を打ち破ってくれたのは、他でもない保険医だった。
性別年齢不詳。さっきは退室すると言う非情な悪魔のように思えた保険医。
今や仏様の勢いです。
ここに仏壇とか、冗談じゃないけどね。
「松村、帰っていいぞ。」
便乗して担任が口を開く
「…はい、それでは失礼します。」
丁寧にお辞儀して、出ていけ松村。…じゃなくて、出ていく松村。
そのとき一瞬、さでぃすてぃっくスマイルを浮かべたのを、俺は見逃さなかった。
まるで『素性をばらしたら泣かす。』とでもいってるかのように。
つい目線を外したのは言うまでもない。
「瑞季…。僕の家じゃダメかな?泊まったことだってあるだろう?
心配しなくていいから。瑞季なら喜んで養うよ。」
悠一さんがしゃがんで頭を撫でてくる。うん、確実に生徒としてじゃなく、可愛い甥っ子として接してるな、悠一さんってば。
…この人も、親バカになるんだろうな。子供がいたとしたら。
結婚しないのかな。もう四十路になるだろうに。言わないけど。
「悠一さん、お世話になります。」
ベッドの上で手をついてお辞儀。
苦笑して、悠一さんもつられてお辞儀。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
担任は空気を読んだのか、保険医のところへ行っていた。
悠一さんの車の中。仮にもびょーにんらしいので、実家まで送ってもらう。
「ここだけのはなし、瑞季を独り占めできるかなあと思ってさ。瑞季料理上手だから、百合子が羨ましくって。あ、孝彦さんは無理してない?てか帰ってきてる?妹の旦那の愚痴きく僕の身にもなってほしいよっ。」
悠一さんの表情がコロコロ変わって面白い。特に何でもない会話に、自然と顔が綻ぶ。
「ふふ、瑞季やっと笑った。さっきは他人の前だったから、なんか嘘っぽい笑い方だったでしょ。」
叔父ちゃんにはお見通しって、悠一さんらしいね。
「…うん。悠一さんには敵いませんね。」
微笑み返したあと、俺の携帯電話に電話着信。発信先は母。
受話器ボタンをおすと、直ぐに母のかしましい声が聞こえる。
『瑞季っ!もー心配したあ!瑞季、叔父さんと住むんだって?…瑞季がそうしたいなら、叔父さんとこにいてもいいけど…。うっとおしかったら、いつでも入寮しなさいっ!お金はだいじょぶだから!
で、今帰って来てるのよね。支度しとくから気をつけて帰ってらっしゃい。』
ふう、と電話越しにため息が聞こえた。
熟、母と悠一さんは似てないと思った。
「わかったわかった、うん。じゃあね。」
若干軽くあしらうようにパワーボタンを押して通話終了。
許可、いつの間におりてたんだ。悠一さんかな?まあ手間が省けて良かった。
そのまま自宅へと向かい、悠一さんは母から説教じみた小言に付き合わされていた。
久しぶりの悠一さんの家。独身なのに一戸建て。ローンも完済らしいから驚きだ。
「瑞季の部屋はここ使って。あ、なんにも使ってなかったら掃除滅多にしてないけど。そうそう、ベッドは注文したばかりだから、とりあえずは布団で寝て。」
通された部屋は空っぽだった。少し埃っぽいところだけど、割りと広い。10畳位はあるかな。何て贅沢。
「悠一さんありがとう。甘えさせてもらいます。」
居候だからたくさん働こう、彼のためにも。料理がどうとか言ってたし。
「…瑞季、そろそろ夕方だし買い物行く?叔父さん、瑞季の料理食べたいっ!」
全く相変わらず大食漢だな。子供みたいな言動に、思わず笑みがこぼれる。
「はい、行きましょう。」
いやあ、兄がいたらこんなもんか?
ちょっと、うん。甘えっ子な気もするけど、こういうのもいいよね。
夕食は、悠一さんの希望で中華料理でしたとさ。
はい、後編でした。如何でしたでしょうか。
登場人物にモデルは居たり居なかったり。
因みに主人公は某そふとーくボイスのキャラをイメージして喋らせてます。
どうでもいいですよね。