婚約者に不倫されて捨てられた公爵令嬢ですが、最強の隣国王子に拾われて溺愛されながら全てを叩き潰します
それは、あまりにも一方的な悲劇だった。
「レイナ・アルヴェイン。貴様との婚約は、ここで破棄する」
王城の大広間。貴族たちが見守る中で、第一王子カイルは冷たく言い放った。
ざわめきが広がる。
だが――私は驚かなかった。
むしろ、ようやく来たかと思った。
「理由を、お聞きしても?」
静かに問いかけると、カイルは鼻で笑う。
「お前のような冷たい女に、王妃の資格はない。俺は……愛する女性を見つけた」
その隣に立つのは、侯爵令嬢ミレイア。
甘く笑いながら、私を見下ろしている。
「レイナ様は、いつもお堅くて怖かったですもの。殿下もお辛かったでしょう?」
――白々しい。
私は知っていた。
二人が裏で関係を持っていたことも。
私の家の権力を利用しながら、裏で嘲笑っていたことも。
「つまり、不倫の末に私を切り捨てると?」
空気が凍る。
カイルの顔が歪んだ。
「言葉を選べ!」
「事実でしょう?」
私は一歩踏み出す。
「婚約者がいる身で他の女性と関係を持つ。それを何と呼ぶのか――ご存知ないとは言わせません」
ミレイアが顔を引きつらせる。
「な、何を……証拠でもあるのですか?」
「ありますよ」
その瞬間。
私は懐から魔導結晶を取り出した。
再生される映像。
そこには、二人が密会し、互いを求め合う姿がはっきりと映っていた。
会場が騒然となる。
「なっ……!? これは……!」
「王家への裏切り、婚約違反。どちらも重罪です」
だが――
カイルは叫んだ。
「それでもだ! 俺はミレイアを選ぶ!」
愚かだ。
本当に、救いようがない。
「ならば、どうぞご自由に」
私は静かに微笑んだ。
「ただし――代償は払っていただきます」
その言葉に、誰もが息を呑んだ。
だが、その時だった。
大広間の扉が、轟音と共に開いた。
「面白い話をしているな」
低く、威圧的な声。
振り向けば、そこに立っていたのは――
銀髪の青年。
圧倒的な魔力を纏った男。
「隣国アストレアの第二王子、アルト・ヴァルディスだ」
場の空気が一変する。
誰もが息を呑み、膝を折りそうになるほどの威圧感。
彼はまっすぐに、私を見た。
「レイナ・アルヴェイン。お前を迎えに来た」
「……迎えに?」
「そうだ」
彼は、当然のように言う。
「お前ほどの人材を、この国で腐らせるのは惜しい」
カイルが割って入る。
「勝手なことを――!」
その瞬間。
アルトの魔力が爆ぜた。
空気が歪み、床が軋む。
「黙れ」
たった一言。
それだけで、カイルは膝をついた。
「雑魚が口を挟むな」
圧倒的な差。
それを見て、私は確信した。
――この人は、本物だ。
「レイナ。来るか?」
差し出された手。
私は一瞬だけ目を閉じ――
そして、その手を取った。
「ええ。行きます」
もう、この国に未練はない。
復讐すべき相手はいる。
ならば――舞台は整った。
◇
「まずは力を取り戻せ」
アストレア王国。
その中枢で、私は新たな力を与えられた。
「お前の魔力は封じられていた。あの王国に、な」
「……やはり」
私の力は、本来こんなものではない。
解放された瞬間――
世界が変わった。
魔力が、溢れ出す。
「っ……これは……!」
「やはりな。規格外だ」
アルトは満足そうに笑う。
「気に入った。お前は俺の隣に立てる」
そして――
彼は当然のように言った。
「お前は俺のものだ」
「……随分と強引ですね」
「嫌か?」
「いいえ」
私は微笑む。
「悪くありません」
◇
復讐は、あっけなかった。
まず、王国の不正を暴いた。
次に、カイルの権限を剥奪。
そして――
「やめてくれ……レイナ……!」
地に這いつくばる元婚約者。
「助けて……!」
ミレイアは泣き崩れている。
「どうして……こんなことに……!」
私は冷たく見下ろした。
「あなた達が選んだ道でしょう?」
慈悲はない。
「すべて、失ってください」
その一言で。
二人の運命は決まった。
地位も名誉も、すべて剥奪。
国外追放。
――完全な破滅。
◇
「終わったな」
アルトが隣で呟く。
「ええ」
「なら、次は俺の番だ」
「……何を?」
その瞬間。
彼は私を抱き寄せた。
「お前を、幸せにする」
耳元で囁かれる。
「もう二度と、裏切らせない」
その言葉に――胸が熱くなる。
「……期待しても?」
「ああ。全部、俺に任せろ」
私は、そっと彼に身を預けた。
復讐は終わった。
だが――
これは終わりではない。
愛する彼からの寵愛と共に始まる、新しい人生の始まりだ。
◆ ◆ ◆ ◆
それは、世界で最も美しい日だった。
アストレア王国の王都は、この日――かつてないほどの祝福に包まれていた。
白銀の旗がはためき、空には祝福の魔法光が舞う。
すべては、一人の女性のために。
「……すごいですね」
私は、バルコニーから街を見下ろしながら呟いた。
かつて、婚約破棄されたあの日とはまるで違う光景。
あの時は、嘲笑と裏切り。
今は――祝福と歓声。
「当然だ」
後ろから抱き寄せられる。
もう慣れてしまった、強くて優しい腕。
「今日はお前の晴れ舞台だ。世界が祝わない方がおかしい」
「……少し大袈裟では?」
「足りないくらいだ」
即答だった。
振り返ると、アルトは真剣な顔で私を見つめている。
「レイナ、お前はもっと価値を自覚しろ」
「……難しいですね」
「なら俺が教えてやる。一生かけてな」
そう言って、額に軽く口づけられる。
――相変わらず、距離が近い。
「式の前ですよ?」
「関係ない」
「あります」
「ない」
きっぱり言い切る。
……この人、本当に王子なのだろうか。
いや、王子だからこそ、なのかもしれない。
◇
式場は、王城の最奥にある聖堂。
白と銀で統一されたその空間は、まるで神話の世界のようだった。
扉が開かれる。
視線が一斉に集まる。
だが、不思議と恐怖はなかった。
――隣に、彼がいるから。
「行くぞ」
「はい」
一歩、踏み出す。
長いバージンロード。
かつての私なら、震えていたかもしれない。
だが今は違う。
胸を張って歩ける。
過去を乗り越えたから。
そして――
隣に、愛してくれる人がいるから。
祭壇の前。
誓いの時が訪れる。
「レイナ・アルヴェイン。汝はアルト・ヴァルディスを夫とし、いかなる時も共に在ることを誓うか」
「――はい。誓います」
迷いはない。
ただ一つの答え。
「アルト・ヴァルディス。汝はレイナ・アルヴェインを妻とし――」
「誓う」
神官の言葉を遮るように、アルトは言い切った。
一瞬、空気が止まる。
「……最後まで聞かなくてよろしいのですか?」
「必要ない」
堂々と言う。
「俺は最初から決めている。こいつを一生手放さないと」
ざわめきが広がる。
だが、それ以上に――
胸が熱くなる。
「……本当に、強引ですね」
「今さらだろ?」
「ええ」
思わず笑ってしまう。
「嫌ではありません」
「だろうな」
当然のように頷く。
そして――
「レイナ」
名前を呼ばれる。
優しく、けれど逃がさない声音で。
「愛してる」
真っ直ぐな言葉。
嘘も飾りもない。
ただ、それだけ。
だからこそ――
「……私も、愛しています」
自然と、言葉が溢れた。
◇
祝福の鐘が鳴り響く。
花びらが舞い、歓声が上がる。
その中心で――
私たちは口づけを交わした。
◇
「……ところで」
式が終わり、控室。
私はふと思い出したように口を開いた。
「元婚約者達のことですが」
「ああ」
アルトはあっさり頷く。
「見たいか?」
「……え?」
次の瞬間。
魔法映像が展開される。
そこに映っていたのは――
荒れた土地で、必死に生きる二人の姿。
かつての面影はない。
みすぼらしく、余裕もない。
「これが……」
「現実だ」
アルトは冷たく言い放つ。
「お前を捨てた代償だ」
私はしばらく、それを見つめ――
やがて、静かに目を閉じた。
「……もう、いいです」
「そうか?」
「ええ」
振り返る。
そこには、今の私のすべてがある。
「過去よりも――今が大切ですから」
そう言うと、アルトは一瞬だけ驚いた顔をして――
すぐに、満足そうに笑った。
「やっぱり、お前は最高だな」
「……褒めすぎです」
「足りない」
また、それだ。
「これから毎日言う」
「やめてください」
「無理だ」
即答。
そして、再び抱き寄せられる。
「これから先もずっとだ。覚悟しろ」
「……はいはい」
軽く流しながらも――
心の奥は、温かかった。
◇
こうして。
婚約破棄から始まった私の人生は――
最高の形で結ばれた。
復讐は終わった。
だが、物語は終わらない。
これは――
溺愛され続ける、幸せな未来の始まり。
そしてきっと。
これからもずっと――
私は、この人に愛され続けるのだろう。
――それが、何よりも幸せだから。




