第84話:清流の水竜と飛来する魔鳥(北陸本線・岩魚の塩焼きと鴨鍋)
紀伊半島の最深部で粘液魔獣(自然薯)を打ち破った私が、第12部・深緑の秘境探索録の最終決戦の地として定めたのは……関西のさらに最北端、福井県との国境にほど近い滋賀県の雪深き山間部(奥琵琶湖・余呉エリア)である。
「フスッ……。商人ギルド『JR西日本』の管轄する中で、最も日本海側の冷酷なブリザード(氷雪魔法)の影響を受ける苛烈な防衛ライン。ここには、人間を寄せ付けない厳しい大自然が育んだ『最強の山の幸』が隠されている」
私は北陸本線(あるいは湖西線)の鈍行列車に揺られ、分厚く降り積もった雪の壁をかき分けるようにして、静寂に包まれた湖畔の魔導宿(老舗の料理旅館)へとたどり着いた。
「この地こそ、私が求める『清流の主』と『天空の大魔鳥』が交わる最果ての猟場というわけだな!」
凍える体を温かい暖炉(炎の結界)の前に置き、私は歴戦のオーラを纏うギルドマスター(宿の主人)にオーダーを出した。
「頼む。人間が立ち入れないほどの幻の清流にのみ棲むという水竜……『岩魚の塩焼き』! そして、遥か北方のツンドラ地帯からこの湖へと越冬のために飛来してきたという筋肉質な魔鳥……『天然真鴨の鴨鍋』を召喚しろッ!」
「へえ、お待ちどっせ」
しばらくして、囲炉裏の真っ赤な炭火のそばに、串刺しにされた岩魚がグサリと立てられた。
ジリッ、ジュワァァッ……。
水竜の身体から滲み出た脂が炭火に落ち、煙と共に信じられないほど香ばしい匂いが立ち上る。
「フハハハッ! 見事な火あぶり(浄化魔法)だ。あの強靭な警戒心を持つ水竜の魂が、少しずつ極上の旨味へと昇華されていくのがわかるぞ!」
「いざ、水竜の討伐ッ!」
私はこんがりと焼き上げられた岩魚を串ごと掴み、塩の結晶(魔法防壁)が白く吹いた皮目からガブリと噛み付いた。
「……サクッ! ホロッ!」
香ばしく焼け焦げた皮の物理装甲を突破した瞬間、中から溢れ出したのは、泥臭さなど微塵もない、純度100%の「清らかなる水精霊(川魚の甘い白身)」であった。
「美味い……! 厳しい激流の中で鍛え抜かれた無駄のない筋肉。それが炭火の炎魔法によってフワフワの綿雲(回復アイテム)へと変異しているぞ!」
さらに私は、その水竜のもう一つの顔……『岩魚の骨酒』を召喚した。
カリカリに限界まで焼き上げられた岩魚の死骸(骨と皮)が、熱く煮えたぎった日本酒(回復ポーション)の中にドップリと浸かっている。
「ズズッ……。ンンッ!!? なんだこの深みは!!」
日本酒の鋭いアルコール感は完全に消え失せ、代わりに岩魚の骨の髄から染み出した強烈なアミノ酸(極上マナ)が、液体全体を『黄金のスープ』へと変成させていた。
「水竜の魂が酒という媒介を通して完全に液体化している! これを飲めば、どんな凍えるブリザードの中に放り出されてもHPが自動回復し続けるであろうッ!」
水竜の力を取り込み、私の身体が内側から燃えるように暖まったその時。
ついにこの旅の真のラスボス……『天然真鴨の鴨鍋』が、土鍋(結界陣)と共に私の前にドォォォンと鎮座した。
「……おおっ。これが数千キロもの距離を自らの翼(風魔法)のみで飛び越えてきた、大魔鳥の肉体!」
深紅の赤身と、見事なまでにぶ厚い純白の脂(脂肪層)が、皿の上で圧倒的なプレッシャーを放ちながら並べられていた。
私はネギや豆腐(土と水の防御陣形)が煮え立つ鍋の中へ、その分厚い魔鳥の肉を静かに投下した。
「フスッ。氷点下の空を飛び、凍てつく湖水に浮かんでも決して体温を奪われないという鴨の脂。それはつまり、この脂自体が内なる『灼熱の炎属性マナ』を秘めているという証拠だ!」
肉の色が変わり、脂が透明に透き通った完璧なタイミングを見計らい、私は魔鳥(鴨肉)を引き上げて口へと運んだ。
「……ンンンッ!!! ガガハァッ!!」
強靭な翼を動かし続けた屈強な筋肉(赤身)は、驚くほど鉄分(血の気)に満ちており、噛むたびに野性味あふれる旨味が爆発する。
そして何より、あの分厚い純白の脂だ。
「脂が……全く重くない! 牛や豚の鈍重なマナとは違い、鴨の脂は口内の温度で完全にサラサラの液体(炎の霊薬)へと融解し、甘みだけを残してスゥッと消えていくぞ!」
「美味い……狂ったように美味いッ!!」
鴨の脂(上質な魔導オイル)がたっぷりと溶け出した極上のスープを吸い込んだネギを齧り、蕎麦(大地の糸)で魔法陣形の最後の一滴までを完全に回収していく。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる制圧(フルコース完了)であった」
猪の突進力、タケノコの成長力、山菜の毒素浄化、こんにゃくと蕎麦の大地属性、葛と柿の葉の神聖魔法、自然薯の粘液と大樹の葉衣、そして岩魚と鴨の野生と飛翔力。
深緑の森の奥深くに潜むモンスターたちは、どれも海の魔獣に勝るとも劣らない、強烈な個性とバフを持っていた。
「商人ギルド『JR西日本』の領地……。海だけでなく、山も深緑の宝庫であるということが証明されたな。勇者の食欲は、この大地がある限り永遠に尽きることはないッ!」
私は満ち溢れる強大な生命力(山の幸マナ)と共に、雪に包まれた奥琵琶湖の空を見上げ、満足げな勇者の咆哮を響かせるのであった。




