第77話:深海の幻竜とコラーゲン装甲(特急くろしお・和歌山のクエ)
広島の海で純白のスライム(牡蠣)を大量に討伐し、強烈な海のミルク(マナ)でHPを全回復させた私が、海の幸編のフィナーレを飾るべく最後に選んだ狩り場は……大いなる太平洋に面した南の魔境、和歌山県の『白浜』である。
「フスッ……。商人ギルド『JR西日本』が誇る、巨大な白と黒の魔獣をあしらった特急『くろしお』。この魔導列車に乗って、紀伊半島を海沿いに延々と南下してきたというわけだ」
白浜といえばパンダの帝国として名高いが、勇者たる私が今更そんな愛らしい地上の毛玉を狩りに来たわけではない。
「私の最大の目的は、果てしなく深く暗い太平洋のドン底で、静かに獲物を待ち構えているという……遭遇率が極めて低い『深海の幻竜』の討伐(実食)であるッ!」
白浜駅に到着した私は、海岸沿いに建つ威風堂々とした高級ギルド宿(老舗の温泉旅館)へと足を踏み入れた。
この宿こそが、その幻竜の肉を捌くことを許された、数少ない高位のギルドマスター(料理長)を擁する拠点なのだ。
「頼む……! 一生に一度出会えるかどうかの伝説の超・高級魚……『天然のクエ』を、完全装備の鍋の陣形で私の前に召喚してくれッ!」
クエ。それは成長すると体長1メートル、重さ数十キロにも達し、岩陰から絶対に動かずに他の魚を丸呑みにするという、文字通りの深海のドラゴン(大型肉食魚)である。
あまりの希少さに『幻の魚』とも呼ばれ、王侯貴族であってもおいそれとは口にできない超ド級レアモンスター(莫大なゴールドが必要な超高級食材)なのだ。
恭しく私の前にセッティングされたのは、澄み切った聖水(昆布だしの張られた土鍋)と、美しく皿に盛られた幻竜の切り身であった。
「……ッ!! なんだ、この異様なオーラを放つ肉塊は!!」
分厚く切り分けられた白身の周囲には、極めて分厚く、グロテスクなまでにネットリ光る『半透明の分厚い皮(ゼラチン層)』がガチリと張り付いていた。
「これこそが、深海の超高水圧と極寒に耐えうるクエの絶対防御……『究極のコラーゲン装甲』というわけか!」
私は震える手で魔術スティック(箸)を握り、その分厚いコラーゲンごと、幻竜の肉をグツグツと煮えたぎる土鍋の聖水へと深々と投下した。
熱湯の魔法陣(鍋)の中で、白身の筋肉繊維がキュッと引き締まり、分厚い半透明の装甲が熱を吸ってトュルントュルンに波打ち始める。
「今だッ!」
私は幻竜の肉を引き上げると、柑橘の酸味(特製ポン酢)を纏わせ、決死の覚悟で口内へと放り込んだ。
「……ンンンッ!!! なんだこれはぁぁぁッ!!」
噛み締めた瞬間、私の味覚の概念が根本から粉々に打ち砕かれた。
「バカな……! 白身魚だぞ!? これほど引き締まった淡白な見た目をしているのに、なぜ豚肉にすら匹敵するほどの『凶悪で濃厚な旨味(強烈なマナの塊)』が爆発するのだ!」
「美味い……狂おしいほどに美味いッ!」
上品さの極致のような白身の中から、噛めば噛むほどに深い旨味が底なし沼のように湧き出してくる。
そして何よりも恐ろしいのが……その皮目にある『コラーゲン装甲』だ。
「ゼラチン質が口の中でトロトロに溶け出し、純度100%の上級細胞再生ポーション(美容成分)となって私の全身に染み渡っていくぞ!」
幻竜のコラーゲンが私のHPを全回復させ、さらには肌の細胞のデバフ(疲労)までを一瞬にして完全に消し去った。
私は狂ったように鍋に肉を投下し、野菜を潜らせ、その全てを恐るべきスピードで飲み込み続けた。
そして最後は、クエから溢れ出た極上の旨味エキス(黄金のスープ)で作った「究極の雑炊」で、鍋の底の一滴までを完全に回収(完食)したのだ。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる極限討伐であった」
圧倒的な深海の幻竜(天然クエ)の魔力を全身に取り込み、はち切れんばかりの胃袋を抱えながら、私は夜の外気(潮風)に当たりに出た。
「富山の寒ブリ、金沢ののどぐろ、福井の越前がに、鳥取の白イカ、明石の鯛、広島の牡蠣……そして、和歌山のクエ」
商人ギルド『JR西日本』の領地に面する、日本海、瀬戸内海、太平洋。
三つの異なる大海が育んだ極上の海洋魔獣たちとの死闘(グルメ旅)は、私の細胞一つ一つに強烈な海のバフを刻み込んだ。
「西日本の海は、深くて美味だッ! これほど豊かなドロップアイテム(海鮮食材)が溢れているからこそ、勇者の旅はいつまで経っても終わらないのだ!」
私は満天の星空に向かって拳を突き上げ、次もまた新たな未知なる絶品モンスター(未知のグルメ)との出会いを求め、力強く旅を続けるのであった。




