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第58話:白き僧兵たちの沸騰する浄化儀式

 大和の最古の魔法糸(三輪そうめん)による清浄なるバフを得た私が次に降り立ったのは、古より都として栄え、無数の寺社仏閣が点在する国内最大の魔導結界都市……『京都』である。

「フスッ……。駅前の喧騒や、四条河原町のゴブリンたち(観光客)の群れを避け、今回はさらに深く歴史ある奥地へと足を踏み入れよう」

 私が目指したのは、巨大な水龍の道(琵琶湖疏水)の美しいレンガ造りの水路閣がそびえ立つ、南禅寺の界隈。

 背の高い木々に囲まれた静寂な空間は、ただ歩いているだけで戦闘で削られたMP(精神力)が自動で回復していくほどの、極上の環境バフに満ちていた。

「この地には、かつて己の肉体と魔力を極限まで高めようと修行に明け暮れた『高位の魔導僧兵(お坊さんたち)』が編み出した、一切の殺生を禁じられた究極の陣界(精進料理の極致)が封印されているという」

 肉(魔獣の死骸)を一切喰らうことなく、彼らはいかにして強大なステータス(体力)を維持したのか。私はその古代の秘密を探るべく、静かな参道へと足を進めた。


 立派な門構えを持つ老舗のギルド(湯豆腐専門店)の敷居をまたぐと、静かに案内されたのは、美しい日本庭園(箱庭のダンジョン)を一望できる静かな座敷だった。

「……見事な静寂だ。普段私が主戦場とする、床が豚の油で滑るようなジャンクな野戦酒場(ラーメン屋や大衆定食屋)とは、次元の異なる清冽な結界魔法が張られている」

 席に着くと、私の目の前のテーブル(祭壇)には、中央に四角いくぼみが空けられた特製の木箱と、それを下から熱するための魔導炉がすでにスタンバイしていた。

「フハハハッ! 来るぞ。血生臭いオーク(豚肉)やコカトリス(鶏肉)を切り刻んだ荒々しい狂宴ではなく、大地の恵みのみで私の腹部(暗黒空間)を満たそうという、純粋なる光属性の魔法儀式がッ!」

 私は姿勢を正し、呼吸を整え、僧兵たちの修行食の最高峰である『湯豆腐のフルコース』を静かに召喚オーダーした。


「お待たせいたしました」

 静かな足取りで音もなく現れたアテンダント(ギルドの給仕衆)によって、魔導炉の上に大きなどっしりとした土鍋がセットされた。

 鍋の中には、底まで澄み切った水(聖水)と一枚の巨大な魔石(出汁用の昆布)、そして……。

「おおっ……! なんと美しく、一点の曇りもない完全なる『純白のスライム(絹ごし豆腐)』の群れだ!」

 大きく四角に幾つも切り揃えられた真っ白な豆腐が、聖水の中に静かに揺らめきながら沈んでいる。

「フスッ、フハハハッ! ジャンクな油や濃い茶色のタレ(暗黒魔法)など微塵もない! 大地の大いなる恵み(大豆の精霊)を極限まで精製し固めた、究極のピュア・ヒーリングアイテムではないか!」

 魔導炉に火が入り、鍋の底からフツフツと小さな気泡(水精霊の熱き吐息)が立ち上がり始めると、昆布の豊潤で深いマナの香りが、ふわりと周囲の空間に漂い始めた。


「……今だ!」

 昆布の上で豆腐の角がふるふると小刻みに震え始めたその刹那、私は網杓子(専用の捕獲具)を手に取り、沸騰する聖水の中から熱せられた純白のスライムを一つ、崩さぬよう慎重にすくい上げた。

 それを手元の小鉢に張られた、底黒いポン酢(柑橘の酸を秘めた鋭利な調薬)の中へと優しく着水させる。さらに上から、刻みネギと柚子胡椒、もみじおろし(自然属性の追加バフ群)をパラリと散らす。

「いでよ、大豆の精霊よ! 私の油で荒れ果てた胃袋を完全に浄化せよッ!」

 ハフッ、と熱々の豆腐を一口で放り込む。

「……ンンッ!!? あ、熱いッ! だが……美味いッ!!」

 舌に触れた瞬間、純白のスライムは一切の抵抗を見せることなくフワリと崩れ、中から芯まで熱せられた大豆の濃密な甘みとコク(大地の魔力)がジュワリと溢れ出した。


「フスッ……! 動物性の脂(重たい物理攻撃力)が一切ないにも関わらず、なんという圧倒的な多幸感(内側からの回復力)だ!」

 昆布の出汁(海の霊力)をたっぷりと吸い込んだ豆腐の素朴で深遠な味わいに、ポン酢の鋭利な酸味が完璧なコントラスト(光と影の立体感)を生み出している。

「肉を喰らわねば力は出ないと思い込んでいたが……それは私の愚かな驕りであった。僧兵たちは、この純白の結晶(豆腐)を熱い聖水で自ら清め、ポン酢という鋭い刃(ディスペル魔法)で味覚を限界まで研ぎ澄ますことで、自らの精神と肉体の限界レベルキャップを底上げしていたのだ!」

 私はもう止まることなく、土鍋の中から次々と熱々の純白のスライムをすくい上げ、ハフハフと強烈な熱気による炎属性の微小ダメージを受けながらも、それをひたすらに胃袋コアへと飲み下し続けた。


「……ふぅっ、ハァッ。完全なる解脱クエスト・クリアだ」

 土鍋の中の純白のスライムを、最後の一片まで綺麗に平らげた私は、身体の中心からポカポカといつまでも湧き上がってくる不思議な熱(大地の生命力)を感じていた。

 これまでの過度な物理カロリー摂取による重たい満腹感とは全く違う。身体が羽根のように軽く、それでいて魔力スタミナは完全にフルチャージされているという、驚異的なデトックス(浄化)現象。

「商人ギルド『京の老舗』よ。お前たちが頑なに受け継いできた古の精進儀式(湯豆腐)の法力、確かに我が肉体に刻ませてもらったぞ」

 外の美しい庭園に一礼し、私は銀貨と金貨(数千円)を置いてギルド酒場を静かに後にした。

 南禅寺周辺の木立を吹き抜ける風が、熱を持った私の火照りを優しく冷ましていく。

「古き都の完全なる浄化は済んだ……。次は、より古く、より原始的な生命の力が待ち受ける西の海(魔境)へと足を向けるとしようかッ!」

 私は、どこまでもクリアになった味覚とともに、次なる伝承食の待つダンジョンへと静かに歩み出すのであった。


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