第53話:天地を繋ぐ神の輿と神話の霊薬(あめつち)
「フスッ……。和倉温泉の強力な黄金結界(花嫁のれん)を抜け出し、私が再び降り立ったのは、日本神話の源流とも言える神々の領域……山陰路の東端、鳥取県である」
鳥取駅から出雲市駅へと至る、美しくも長く険しい日本海のシーサイド・ダンジョン(山陰本線)。
その過酷な長距離ルートを走破しつつ最高の回復魔法を提供するために、商人ギルド『JR西日本』が生み出したという特別な魔導装甲車が、ホームへと滑り込んできた。
「……むう。深い紺碧色のボディラインの下側に、まるで日本剣(伝説の魔剣)の刃のような白銀の鋭いラインが走っている……気高く、美しい鉄獣だ」
列車の真名は『あめつち』。
天と地、すなわち世界の根源を意味するその名を持たされた時点で、この列車が単なる一般市民向けの輸送手段ではないことは明らかだった。
「間違いない。これは八百万の神々が乗るための『神の輿』だ。私のような一般のドカ食い勇者(ただの冒険者)が乗っても、バチが当たらないと良いのだがな!」
「プシューッ……」
神の輿へと足を踏み入れた私は、ふわりと香る天然の木材の匂いに包まれた。
車内には、因州和紙や石州和紙(いにしえの強力な魔法スクロール)、弓浜絣(防御力特化の美しい布結界)など、この山陰地方全体が誇る強力な魔導アイテム(伝統工芸品)がこれでもかと装飾されている。
「……フスッ。やはりこの車両自体が、強大なマナを宿した『アーティファクトの特装陳列室』のようなものだな」
海側の景色を存分に見渡せる広々とした座席(祭壇の特等席)に腰を下ろすと、気動車は重厚な唸り声を上げ、神々の国・出雲へと向けて静かに走り出した。
「だが! 神の輿に乗るからには、車内で特別に振る舞われる『供物』を食べねば、神々(JR西日本のギルドマスター)に対して失礼極まりないというものだろう!」
腹をすかせた私は、あらかじめ手配していた(※事前予約制の)神々の食事セットを要求した。
「お待たせいたしました、山陰の旬の味覚を詰め込んだ特製のお弁当でございます」
案内係(神の使いであるアテンダント)から手渡された二段がさねの重厚な箱(宝箱)を開けると、中には息を呑むような色彩が広がっていた。
「……なんというマナ(旨味と栄養素)の凝縮密度だ!」
鳥取や島根の地元有力ギルド(老舗料理屋など)が作り上げたというその豪華産品の数々。
カニのほぐし身が真っ赤な装甲の呪縛を放ち、和牛のローストビーフが深い赤黒い魔力を放ち、季節の野菜たちが大自然の息吹(ヒール効果)を強烈に主張している。
「フハハハッ! これほどの豪華な食材(高位魔獣たちの命)を、たった一口サイズの陣形(おびただしい品数)に凝縮してしまうとは! これは明らかに人間が単なる空腹を満たすためのカロリー(物理攻撃)の次元を超え、神々に捧げるための『最上級の魔力回復パック』だぞ!」
私は魔術スティック(箸)を割り、まずは重厚な魔力を放つ『奥出雲和牛(鳥取和牛などの場合もあり)のローストビーフ』へと喰らいついた。
「……ンンッ!!」
しっとりとした赤身肉から、強烈な牛の極上の旨味がジュワリと滲み出す。
それは、鶴橋の焼肉のような暴力的な炎のダメージドレインではなく、大自然の中でゆっくりと育まれた『大地のマナの直接摂取』であった。
「くッ……美味い! 肉が舌の上で解け、魔力の結晶(アミノ酸)だけを私の体内へとピンポイントに優しく注ぎ込んでくる!」
続けて、山陰名物のカニの身に箸を伸ばす。
「フスッ、フハハッ! 凶悪な赤き装甲竜も、職人の手にかかればここまで上品な水の魔力(海鮮の甘み)へと姿を変えるか!」
出汁の効いた煮物から、美しい丸いおにぎり(結界石)まで、どれ一つとして私の胃袋の入り口で滞ることはなく、癒やしの魔法のようにスムーズに吸い込まれていった。
豪華神話弁当を一通り堪能した私は、あらかじめ車内のカンターで買い求めておいた地元産のサイダー(または日本酒などの地元の霊薬)で喉を潤した。
「……カァァァッ! 炭酸のディスペル(浄化魔法)が、口内の甘やかな余韻を美しい形で完璧にリセットする!」
ふと視線を窓の外に向けると、神の輿は日本海の荒々しい海岸線のすぐ横を、通常よりも明らかに遅いスピード(環境鑑賞用の徐行魔法)で走行していた。
「……なるほど。乗客たちにこの絶景(極上のジオラマ・ビュー)を見せるために、あえて推進力を抑え込んでいるのか」
遠くには、伯耆富士こと大山(魔導士たちが崇める霊山)の雄大な姿も悠然とそびえたっている。
「手元にある弁当の力だけではない。この圧倒的な『大自然の景色』そのものを視覚から直接取り込むことで、回復バフの効果を極限にまで高めているのだ……。どれほど恐ろしい計算(ギルドの策略)なんだ、これは!」
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる巡礼儀式であった」
列車が終点の出雲市駅のホームへと滑り込む頃、弁当を平らげ、車窓からの絶景を目に焼き付けた私のステータス(精神力と胃袋の重さ)は、この旅で最高の数値を完全に叩き出していた。
「ごちそうさまでした。素晴らしい神の輿でしたよ」
私はアテンダント(ギルドの巫女軍団)に別れを告げ、神話の国・出雲の澄み切った空気の中へと力強く足を踏み出した。
「フハハハッ! 商人ギルド『JR西日本』の観光列車……奴らは神話の時代の結界や神への供物すらも、現代の鉄の獣の力に乗せて完全に再現してのけたというわけだ!」
腹の奥底にどっしりと横たわる和牛とカニの強大な魔力を噛み締めながら、私は出雲大社の方角へと向かって(心の中で)勇者の大きな高笑いを轟かせた。
「さて、次はどの未踏の海と山を越え、どんな魔道士の秘伝の弁当を喰らうとするかッ!」
私の、底知れぬ移動型・暴食の宴は、まだまだ終わる気配を見せないのであった。
(第53話 了)




