第44話:炎の瓦陣界と緑の呪縛蔓(特急スーパーおき・瓦そば)
鳥取の砂丘を制覇した私は、再び商人ギルド『JR西日本』の大動脈……光の道(山陽新幹線)へと帰還していた。
「フスッ。やはりこの超長距離ワープ魔法(新幹線)の圧倒的なスピードは癖になるな。たった数十分の詠唱(乗車)で、中国山地を大きく迂回し、本州の西の果てへと近づいている」
私が降り立った巨大拠点は『新山口』。
ここからさらに、陰陽を結ぶ特急魔導兵器『スーパーおき』や、伝説の黒き機関竜(SLやまぐち)が棲むという山口界隈の深部へと侵入するのだ。
「西の果ての魔境……。歴史ある温泉街(結界都市)に、かつての武将(魔王)たちが戦場で振る舞ったとされる、狂気の陣形(野戦食)が封印されているという」
私は、改札という名の関所を力強く抜け出し、温泉の湯けむりが立ち込める街並みへと、勇者のマント(ただの冬着)を翻して歩みを進めた。
私が辿り着いたのは、いかにも年季の入った古き館(老舗の専門店)であった。
「ここか……。古の武将たちが、己の城の防壁(瓦)を引っ剥がして火にくべ、その上で獣の肉と野草を焼いたという伝説の儀式(瓦そば)跡地は」
座敷席(リスポーン地点)に着くなり、私は迷うことなくその伝説の魔術をオーダーした。
「……むッ、来るぞ! 圧倒的な物理的熱圧だ!」
数分ののち、二人の魔道士(店員さん)が、分厚い木の板に乗せた『それ』を恭しく運んできた。
ジュウウウゥゥゥッ!!
「……フッ、フハハハッ! なんだその無骨すぎる魔導炉は!」
私の目の前にドンッ!と鎮座したのは、文字通り、日本の古城の屋根に使われている『巨大な本物の瓦』。
しかもそれは、限界まで真っ赤に熱せられ、触れれば一瞬で致命的な火傷(炎属性ダメージ)を負うほどの、圧倒的な火炎魔法のオーラを帯びていたのだ。
「見ろ……この狂気に満ちた戦場の箱庭をッ!」
灼熱の瓦(炎の陣界)の上に広がるのは、見渡す限りの緑の平原……鮮やかな緑色をした大量の『茶そば(緑の呪縛蔓)』だ。
さらにその平原の頂には、魔獣の肉(甘辛く煮た大量の牛肉)による岩山がそびえ立ち、周囲を黄金の結界(色鮮やかな錦糸卵)がぐるりと取り囲んでいる。
そして極めつけは、山の頂上に突き刺されたレモンの輪切り(酸の円盤)と、真紅の紅葉おろし(炎と氷の呪術結晶)。
「フスッ。視覚的な美しさ(カモフラージュ)で油断させておいて、実際は摂氏数百度の下から炙り続けるという凶悪な拷問器具ではないか!」
私は、温かい魔のスープ(温かい麺つゆ)が入った器を左手に構え、右手の箸で、灼熱の瓦の上でジュージューと焼かれて湯気を吹き出す緑の呪縛蔓へと力強く斬り込んだ。
「……ンンッ!!? バ、バカなっ!?」
温かいつゆにどっぷりと浸してすすった緑の呪縛蔓(茶そば)の異次元の食感に、私は目を見開いた。
表面にある上半分は、ふんわりとした茶の香りをまとう、滑らかな回復魔法(普通の茹でそば)だ。
しかし!
パリッ……ボリボリボリッ!!
「フハハハッ! なんだこの硬度は! 瓦の熱で底面が完全に『焼きあがって』いるではないか!」
灼熱の瓦に直接触れていた下半分のそばは、油(油膜バフ)によってカリカリにクリスピー化し、凄まじい物理攻撃力(歯ごたえ)を持った『鋼の糸』へと変貌を遂げていたのだ。
柔らかな癒しと、暴力的な破壊衝動(パリパリ感)のデュアルアタック。
そこに、甘辛く煮込まれた牛肉の肉汁が瓦の上で焼け焦げながら絡みつき、私の味覚防壁を一瞬にして粉砕した。
「……くッ、このままでは、甘辛い牛肉の強烈な脂と、焼き目による重力魔法(油もたれ)で、私の胃袋がダウンしてしまうぞ」
灼熱の瓦陣界(瓦そば)は、時間が経てば経つほど下半分のそばが広範囲に硬化(焦げ)し、より強力な物理攻撃力を発揮し始めるという、恐怖の時限式トラップ(時間経過バフ効果)を備えていた。
「だが、そんな時のためのディスペル魔法(解呪)だろう?」
私は、頂上に鎮座していたレモンの輪切り(酸の円盤)を箸で乱暴に突っつき、新鮮な果汁をつゆの中へと絞り落とした。さらに、真紅の紅葉おろしを全量ブチ込む。
「食らえ、酸と辛味の浄化魔法ッ!」
レモンの強烈な酸味と、紅葉おろしのピリッとした辛さが、それまでの甘く脂っこい戦場の空気を一変させた。
重たかった牛肉の脂が、魔法のようにスッと消え去り、あとには芳醇な旨味だけが残る。
「フスッ、フハハハッ! これだ! レモン(酸)と紅葉おろし(辛)が、牛肉の重圧(脂)を完全に切り裂き、無限に胃袋へと放り込める『暴食の永久ループ』を完成させたぞ!」
私は、もう誰にも止められない狂戦士のごとく、瓦の上を箸で乱暴に削り取った。
カリカリ、バリバリッという激しい剣戟(咀嚼音)がド派手に鳴り響き、緑の蔓(茶そば)と魔獣の肉(牛肉)、そして黄金の結界(錦糸卵)が、完全に私のブラックホール(胃)へと猛スピードで吸い込まれていく。
「……ふぅっ、ハァッ……!!」
すべての蕎麦を削り取り、温かいつゆ(霊薬)を飲み干したとき、巨大な瓦は未だに「チンッ、チンッ」と微かな熱膨張の音を立てていた。
「見事な陣形だったぞ、古の武将たち(山口の魔導士)よ」
私は、滝のように流れる熱い汗(瓦の強力な熱射ダメージ)をタオルで拭いながら、銀貨数枚(千円以上)を支払い、温泉街の涼しい風の中へと歩み出た。
「西の果ても深い……。だが、強大な魔力を蓄えた今の私に、越えられぬ魔境などないッ!」
私は次なる「特急魔境」を探し求め、勇者の背中を夕闇の山口へと溶け込ませるのであった。
(第44話 了)




