第9話 はっきりして
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は幼馴染がはっきりと“迫る”回です。
ここで関係性が完全に変わり、主人公に猶予はなくなります。
俺は神谷恒一。
逃げ場がなくなる音、というものを初めて聞いた気がする。
朝の教室。
席に着いた瞬間、背中に視線が突き刺さった。
振り向かなくても分かる。
桜庭美咲だ。
「神谷くん」
(……来る)
「深呼吸を推奨する」
(お前が言うな)
チャイムが鳴るまで、美咲は一度も話しかけてこなかった。
それが逆に怖い。
授業が終わり、休み時間。
「恒一」
今度は、はっきり名前を呼ばれた。
「今日、放課後……少し話せる?」
断れる雰囲気じゃない。
「……ああ」
美咲はそれだけで頷き、席に戻った。
逃げ道は、完全に塞がれた。
「神谷くん」
(分かってる)
「本日は“決断を迫られる日”だ」
(……分かってるって)
放課後。
人の少ない校舎裏。
夕暮れの光が、二人の影を長く伸ばしていた。
「……ここでいい?」
「うん」
美咲は俺の前に立つ。
距離は、近い。
でも、これまでの“幼馴染距離”とは違う。
「昨日さ」
美咲は、少しだけ視線を逸らす。
「白石さんと話した」
「……そうか」
「正直に言うね」
深く息を吸ってから、こちらを見る。
「私、恒一が誰かと仲良くしてるの、嫌だった」
胸が締め付けられる。
「取られるって思った」
「……」
「それが恋かどうかは、分かんない」
でも、と続ける。
「でも、失いたくないって思った」
言葉一つ一つが、重い。
「だから」
美咲は一歩、近づいた。
「はっきりして」
「……何を?」
「私から、逃げてる理由」
真正面から来た。
「神谷くん」
(……)
「ここで曖昧にすると、彼女は深く傷つく」
(分かってる)
「だが、真実を告げれば――」
(言うな)
俺は歯を食いしばった。
「……言えない」
「理由は?」
「言えない」
美咲の眉が、きゅっと寄る。
「じゃあさ」
「……」
「私のこと、嫌いになった?」
「違う!」
思わず声が出た。
「じゃあ、なに?」
沈黙。
逃げ場はない。
「……俺は」
喉が詰まる。
「美咲が、大事だから」
それは、本音だ。
「だから、傷つけたくない」
美咲は目を見開いた。
「……それ、矛盾してる」
「分かってる」
「距離置いて、私が傷ついてるのは?」
「……分かってる」
それでも、言えない。
「神谷くん」
(……)
「君は“守る”を理由に、“選ばない”ことを正当化している」
(……)
「それは、優しさじゃない」
美咲は、少しだけ震える声で言った。
「ただの……逃げだよ」
胸に突き刺さる。
「……恒一」
美咲は、しばらく黙ってから言った。
「今すぐ答えはいらない」
「……」
「でも」
視線が、強くなる。
「このままは、嫌」
それは、最後通告だった。
「神谷くん」
(……)
「次に会う時、何か一つでもいい」
(……)
「“選んで”来たまえ」
美咲は背を向け、歩き出した。
一人残された校舎裏。
夕焼けが、やけに眩しい。
「……どうする」
呟くと、静かな声が返ってきた。
「神谷くん」
「……」
「もはや、自重は言い訳だ」
(分かってる)
「選べ。
選ばないという選択も含めて」
俺は、拳を握りしめた。
――次は、逃げられない。
第9話を読んでいただき、ありがとうございました。
美咲の本音と、恒一の逃げが正面からぶつかりました。
次回、物語は大きく動きます。
よろしければブックマーク・評価で応援していただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




