第7話 逃げない人
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は白石凛が一歩踏み込む回です。
「逃げない」タイプのヒロインが、関係性を大きく動かし始めます。
俺は神谷恒一。
「逃げないで」と言われた翌日ほど、登校が重い日はない。
教室に入ると、いつもの席に桜庭美咲がいた。
目が合う。
一瞬だけ、昨日より柔らかい表情を向けられて、胸が詰まった。
(逃げないって言ったのに、心臓が逃げてる……)
「神谷くん」
(……来た)
「落ち着きたまえ。今日は別の局面が用意されている」
(嫌な予感しかしないんだが)
昼休み。
俺は資料を返すため、また図書室へ向かった。
そして――予感は的中する。
「神谷くん」
静かな声。
振り向くと、白石凛が本棚の前に立っていた。
「昨日は、ちょっとごめんね」
「え?」
「桜庭さん、来るとは思ってなくて」
つまり、状況は把握しているということだ。
「気まずくなった?」
「……少し」
正直に答えると、白石さんは小さく笑った。
「そっか。でもね」
彼女は一歩、距離を詰める。
「私は逃げないよ」
その言葉は、静かで、はっきりしていた。
(来た……)
「神谷くんが誰を好きか、まだ分からない」
「……」
「でも、だからって引く理由にはならないでしょ」
真っ直ぐな視線。
駆け引きも、遠慮もない。
「神谷くん」
(やめろ……)
「この女性は非常に危険だ」
(お前が言うな)
「理性的で、勇敢で、しかも退かない」
(褒めてるだろそれ)
白石さんは、少しだけ困ったように笑う。
「私ね、ずっと見てた」
「見てた?」
「桜庭さんと話す時と、私と話す時」
心臓が跳ねる。
「違うって、分かる」
白石さんは言い切った。
「桜庭さんの前では、神谷くん、無理してる」
その言葉は、鋭かった。
「優しい顔してるけど、どこか逃げ腰」
「……」
「でも私の前だと、普通」
否定できない。
「だからね」
白石さんは、静かに言った。
「私は、神谷くんが“普通でいられる場所”になりたい」
それは、宣戦布告でも告白でもない。
でも、覚悟の言葉だった。
「神谷くん」
(……)
「選ばなくていい、なんて言わない」
(……)
「ただ、ちゃんと向き合ってほしい」
胸が痛い。
美咲を守りたい。
白石さんの真っ直ぐさから逃げたくもない。
「神谷くん」
(……)
「今、君は選択の入口に立っている」
(選びたくない)
「だが、立ち止まることもまた、選択だ」
俺は深く息を吸った。
「……少し、時間をくれ」
それが、今の精一杯だった。
「うん」
白石さんは頷く。
「待つよ」
迷いなく。
「逃げないから」
図書室を出ると、廊下の先に見慣れた後ろ姿があった。
美咲だ。
――見ていたのか。
どこまで、聞いていたのか。
三角形は、ついに張力を持ち始めた。
第7話を読んでいただき、ありがとうございました。
三角関係は、感情だけでなく“覚悟の差”が見え始めました。
恒一はまだ決断できませんが、状況は待ってくれません。
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次回もよろしくお願いします。




