第6話 零れた言葉
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は幼馴染が初めて“本音を言葉にする”回です。
まだ告白ではありませんが、関係性は確実に一段進みます。
俺は神谷恒一。
三角形の中に立たされる、という感覚を初めて理解している。
放課後。
図書室での出来事から、俺と桜庭美咲の会話は極端に減った。
いや、正確には――俺が、話題を避けている。
「神谷くん」
(……)
「沈黙は最悪の選択だ」
(分かってる。でも今は……)
帰り支度をしていると、美咲が席を立った。
俺の横を通り過ぎる、その瞬間。
「……恒一」
呼び止められた。
「一緒に帰ろ」
拒否する理由は、ない。
けれど、行けば何かが起きる予感がした。
「うん」
短く答えて、俺たちは並んで歩き出す。
夕方の校門前。
人通りはまばらで、風が少し冷たい。
「ねえ」
「なに?」
「図書室の……白石さん」
来た。
「仲いいんだね」
責める口調じゃない。
けれど、どこか探るような声音。
「別に、仲いいってほどじゃない」
「でも」
美咲は足を止めた。
「恒一、あの子と話してる時は……普通だった」
胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
「私といる時より、ちゃんとしてた」
「……そんなこと」
「あるよ」
美咲は、珍しく強い口調で言った。
「最近、私と話す時だけ、距離取るでしょ」
言い返せなかった。
「嫌われたのかなって、思った」
「違う」
即答だった。
「じゃあ、なに?」
その問いは、あまりにも正面から来た。
「神谷くん」
(やめろ……)
「ここは真実を語るべき局面だ」
(黙れ)
俺は拳を握りしめた。
「……俺が悪い」
「え?」
「理由は言えない。でも、美咲が嫌いになったわけじゃない」
「それ、余計に分かんない」
美咲は、少しだけ笑った。
「ずっと一緒だったのにさ」
その笑顔は、泣きそうだった。
「急に距離置かれて、でも他の子とは普通で……」
声が震える。
「私、どうすればいいの?」
胸が痛い。
好きだ。
だから言えない。
「神谷くん」
(……)
「君は今、彼女を守るために、自分を隠している」
(それが正しいと思ってる)
「だが、その選択は――」
(言うな)
「彼女の心を、削っている」
美咲は小さく息を吸い、吐いた。
「……私さ」
「うん」
「恒一が誰かに取られるの、嫌だって思った」
その言葉は、告白じゃない。
でも、十分すぎるほどの本音だった。
「それって、変?」
「……変じゃない」
俺は、やっとそれだけ言えた。
「そっか」
美咲は、少しだけ安心した顔をする。
「じゃあさ」
「?」
「逃げないで」
それは、命令でも懇願でもなく、ただの願いだった。
「理由は言えなくてもいいから」
「……」
「私の前から、消えないで」
夕暮れの中、彼女の言葉が胸に落ちる。
「神谷くん」
(……)
「自重は、もはや美徳ではない」
(分かってる)
俺は頷いた。
「……分かった」
それ以上の約束は、できなかった。
でも、逃げないと決めた。
三角形は、さらに歪む。
そして俺は、もう後戻りできない場所に立っている。
第6話を読んでいただき、ありがとうございます。
美咲の気持ちが少しだけ表に出ました。
恒一の自重は、ここから試されることになります。
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次回もよろしくお願いします。




