第44話 引く線の位置
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は恒一が凪に対して、
明確に線を引く回です。
優しさと残酷さを同時に描いています。
俺は神谷恒一。
誰かを傷つけずに線を引く方法があるなら、
それはきっと――時間をかけることだと思っていた。
でも、
今は違う。
時間をかければ、
誰かの期待を膨らませるだけだ。
「おはよ、恒一」
教室で、朝霧凪が軽く手を振る。
「……おはよう」
距離は、一定。
昨日より、はっきりしている。
「神谷くん」
(……)
「本日は、
決断実行日」
(覚悟はできてる)
午前の授業は、
不思議と落ち着いていた。
美咲は、いつも通り隣にいる。
凪は、必要以上に絡んでこない。
――だからこそ、
放課後が来るのが分かっていた。
チャイム。
「恒一」
凪が、教室の入口で呼ぶ。
「ちょっと、話そ」
周囲の視線が集まる。
「……分かった」
屋上へ向かう階段。
風の音だけが響く。
「ねえ」
屋上に出るなり、凪が言う。
「昨日の桜庭さん、
本気だったね」
「……ああ」
「正直さ」
肩をすくめる。
「燃えた」
正直すぎる。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
まだ勝負を楽しんでいる」
(ここで終わらせる)
俺は、立ち止まった。
「……凪」
名前を呼ぶ。
「なに?」
軽い返事。
「最初に言う」
一拍置く。
「俺は、
美咲を選ぶ」
凪の表情が、止まる。
でも、笑顔は消えない。
「へー」
「……最後まで聞いてくれ」
「聞くよ」
腕を組んで、頷く。
「過去のことは、
大事な思い出だ」
「うん」
「でも」
言葉を、はっきり選ぶ。
「今の俺は、
その続きを選ばない」
凪は、少しだけ目を細めた。
「つまり?」
「好意は、
受け取れない」
逃げない。
「これ以上、
期待させることもしない」
沈黙。
風が、強く吹く。
「神谷くん」
(……)
「明確な線引き、
完了」
(……)
凪は、しばらく黙っていた。
そして、ふっと息を吐く。
「……そっか」
肩の力が、抜けた。
「ちゃんと、
言ってくれるんだね」
「……言うって決めた」
「そりゃそうか」
少し笑う。
「恒一、
昔から優しすぎるから」
「……」
「でもさ」
一歩、下がる。
「今のは、
ちゃんと残酷で、良かった」
その言葉に、胸が痛む。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
納得しようとしている」
(……)
「私ね」
凪が続ける。
「奪えないって分かったら、
意外と切り替え早いタイプ」
そう言って、手を振る。
「じゃあ」
「……凪」
「なに?」
「ありがとう」
凪は、一瞬だけ驚いた顔をして、
すぐに笑った。
「ズルいな、それ」
そして、屋上を後にする。
階段の向こうで、
足音が遠ざかる。
放課後の校門。
「……終わった?」
桜庭美咲が、静かに聞く。
「……ああ」
「そっか」
それだけで、理解してくれた。
手を繋ぐ。
今日は、俺の方が少し強く握った。
「神谷くん」
(……)
「選択は、
行動で示された」
(……ああ)
線を引くことは、
拒絶じゃない。
今を選ぶために、
過去を正しく閉じることだ。
俺は、
逃げなかった。
それでいい。
第44話を読んでいただき、ありがとうございました。
次回は
・凪のその後を描く回
・美咲と恒一が“正式な言葉”に踏み込む回
どちらにも進められます。
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次回もよろしくお願いします。




