第43話 引かない理由
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は美咲が「引かない」と静かに決める回です。
強い言葉より、態度で示す展開にしています。
俺は神谷恒一。
破天荒が全力で暴れた翌日、静けさは戻らなかった。
正確には、
静けさの“質”が変わった。
「おはよう、恒一」
教室に入ると、桜庭美咲が先に来ていた。
「……おはよう」
声は落ち着いている。
表情も、穏やか。
だが、
芯がある。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
覚悟を固めた目をしている」
(……分かる)
席に着くと、
すぐ後ろから明るい声。
「おっはよー!」
朝霧凪だ。
「恒一、昨日の体育どうだった?」
「……どうって」
「私的には、
なかなか楽しかったけど」
周囲が、くすくす笑う。
「神谷くん」
(……)
「通常営業だ」
(今日は、違う)
美咲は、振り返らない。
ただ、ノートを開いたまま言った。
「凪ちゃん」
静かな声。
「恒一は、
今、忙しいから」
空気が、変わる。
「え?」
凪が首を傾げる。
「なにが忙しいの?」
「私との、
約束」
その言葉は、
柔らかいのに、強かった。
「神谷くん」
(……)
「主導権の提示だ」
(ああ)
午前の授業。
凪は、以前ほど絡んでこない。
様子を見ている。
美咲は、
変わらない距離で隣にいる。
昼休み。
「恒一」
美咲が言う。
「今日は、
屋上じゃなくていい?」
「……どこ行く?」
「図書室」
凪が反応する前に、
俺は立ち上がった。
「……行こう」
図書室。
静かな空間。
「……さっきの」
俺が言う。
「凪に、
ああ言ったの」
美咲は、席に座ってから答えた。
「うん」
「……いいのか?」
「いいよ」
一拍。
「私ね」
視線を落とさず言う。
「もう、
引く理由がない」
胸が、強く鳴る。
「神谷くん」
(……)
「宣言ではなく、
結論だ」
(……)
「凪ちゃんが、
どれだけ真っ直ぐでも」
「……」
「恒一が、
迷わないようにするのは、
私の役目だと思った」
責任を、
背負いに来ている。
「……重くないか」
「重いよ」
即答。
「でも」
少しだけ、笑う。
「恒一と一緒にいるなら、
重い方がいい」
放課後。
校門。
凪が、待っていた。
「やっほ」
軽い調子。
「二人で、
どこ行ってたの?」
「図書室」
美咲が答える。
「そっか」
凪は、少しだけ間を置いた。
「ねえ、桜庭さん」
「なに?」
「昨日から、
雰囲気変わったよね」
「うん」
否定しない。
「私さ」
凪が言う。
「負けるの、
嫌いなんだ」
「知ってる」
美咲は、まっすぐ見返す。
「でも」
一歩、前に出る。
「私は、
退く気がない」
視線が、交差する。
「神谷くん」
(……)
「衝突ではない」
(……)
「宣言の応酬だ」
凪は、ふっと笑った。
「いいね」
「……」
「じゃあ、
なおさら燃える」
去り際に、俺を見る。
「恒一」
「……なに」
「選ばれる覚悟、
ちゃんとしてね」
それだけ言って、歩き去った。
帰り道。
「……ごめん」
俺が言う。
「巻き込んでる」
美咲は、首を振った。
「違う」
手を握る。
「一緒に立ってるだけ」
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
引かない理由を得た」
(……ああ)
破天荒が走り回っても、
過去が揺さぶってきても。
美咲は、
もう後ろに下がらない。
それは、強さじゃない。
――選び続けると決めた、
意志だった。
第43話を読んでいただき、ありがとうございました。
次回は
・恒一が凪に“明確な線”を引く回
・三人で避けられないイベントが起きる回
に進められます。
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