第41話 静かな焦り
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は美咲が初めて本気で焦りを自覚する回です。
三角関係の緊張が、内面に表れ始めました。
俺は神谷恒一。
転校生が嵐を置いていった翌日、学校は妙に静かだった。
いや、正確には――
表面だけが静かだった。
「おはよ、恒一」
教室に入ると、桜庭美咲が声をかけてくる。
「……おはよう」
距離は、昨日と同じ。
声も、いつも通り。
でも。
目が、笑っていない。
「神谷くん」
(……)
「異常検知」
(分かってる)
席に着くと、背後からやけに元気な声。
「おっはよー!
恒一!」
朝霧凪だった。
登校二日目とは思えない馴染み方。
「……おはよう」
「なにその間。
久しぶりの再会なんだから、
もっと喜んでいいんだよ?」
周囲が、ざわつく。
「神谷くん」
(……)
「挑発、開始」
(朝から飛ばしすぎだ)
美咲は、何も言わない。
ただ、ノートを開く手が少しだけ強張っていた。
午前の授業。
凪は、ことあるごとに俺に話しかけてくる。
「ねえ恒一、
この問題どう解くの?」
「……こう」
「さすが。
昔から頭よかったよね」
“昔から”。
その言葉が、
美咲の耳に届いていないはずがなかった。
「神谷くん」
(……)
「比較対象の提示は、
精神的圧迫を生む」
(やめてくれ)
昼休み。
「恒一」
美咲が、机の横に立つ。
「屋上、行こ」
声は低い。
逃げ場は、ない。
屋上。
風が、強い。
「……ねえ」
美咲が、弁当を開けながら言う。
「昨日の子」
「……凪な」
「……うん」
一拍置く。
「……どれくらい、
一緒にいたの?」
来た。
「神谷くん」
(……)
「核心質問だ」
(分かってる)
「……短い期間だ」
嘘ではない。
「でも」
続ける。
「濃かったのは、
否定しない」
美咲の指が、止まる。
「……そっか」
それだけ。
でも、
その一言が重かった。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
初めて明確な不安を抱いている」
(……)
「……私さ」
美咲が、視線を落としたまま言う。
「恒一が、
ちゃんと選んでくれるって、
信じてる」
胸が、締め付けられる。
「でも」
顔を上げる。
「凪ちゃん、
迷いがないでしょ」
確かに。
「私」
一瞬、言葉に詰まる。
「遠慮、
してたかもしれない」
それは、
今まで聞いたことのない声だった。
「神谷くん」
(……)
「自覚フェーズだ」
(……ああ)
放課後。
廊下で、凪が腕を組んでくる。
「恒一、
今日一緒に帰ろ」
即断。
「……今日は、美咲と帰る」
凪は、きょとんとした。
そして、笑う。
「そっか。
じゃあ明日ね」
引き際が、軽い。
「神谷くん」
(……)
「だが、
退却ではない」
(分かってる)
帰り道。
「……ありがとう」
美咲が、小さく言う。
「……なにが?」
「ちゃんと、
線を引いてくれたこと」
俺は、立ち止まる。
「……美咲」
「なに?」
「俺は」
一度、呼吸する。
「不安にさせるつもりはない」
美咲は、少し驚いた顔をしてから、
ゆっくり笑った。
「……うん」
手が、自然に繋がる。
今日は、
美咲の方が少し強く握ってきた。
「神谷くん」
(……)
「焦りは、
依存ではない」
(……)
「選びたいという、
意志だ」
過去から来た好意は、確かに強い。
でも、今の関係は――
簡単には揺れない。
そう思えたのは、
美咲が初めて、
“焦り”を見せてくれたからだった。
第41話を読んでいただき、ありがとうございました。
次回は
・凪が遠慮ゼロで攻勢をかける回
・恒一がさらに一線を引く回
どちらにも進められます。
よろしければブックマーク・評価で応援していただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




