第4話 近すぎる距離
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は幼馴染が初めて“行動で距離を詰める”回です。
本人は無自覚ですが、関係性は確実に動き始めています。
俺は神谷恒一。
三角関係という言葉を、まだ口に出す勇気はない。
だが――空気は、確実に変わり始めていた。
「恒一、今日一緒に帰れる?」
昼休みの終わり際、桜庭美咲が何気ない調子で言った。
「え……あ、ああ」
断る理由はない。
いや、正確には“断るべき理由”は山ほどあるが、言えるわけがない。
「よし、決まり」
美咲は満足そうに笑う。
「神谷くん」
(なんだ)
「この流れは非常に良い。極めて自然で、かつ――」
(評価するな)
放課後。
教室を出た瞬間、美咲はいつもより一歩近い位置に並んできた。
近い。
近すぎる。
「……恒一」
「な、なんだ?」
「最近さ」
美咲は前を向いたまま、少しだけ声を落とす。
「誰かと仲良くしてるよね」
来た。
「別に……普通だろ」
「ふーん」
返事は短い。
だが、その“ふーん”に込められた温度は、昨日までと明らかに違った。
「田中が言ってた」
「……あいつか」
「あの子、図書室の」
(あれだけでここまで……?)
俺が言葉を探していると、美咲は急に俺の腕を軽く引いた。
「ほら、車来てる」
反射的に足を止める。
その瞬間、俺の腕は彼女の手に掴まれたままだった。
柔らかい感触。
距離、ほぼゼロ。
「……っ」
「危ないでしょ」
そう言って手を離す美咲は、
どこか勝ち誇ったような、でも不安そうな、複雑な表情をしていた。
「神谷くん」
(やめろ……)
「これは“無自覚な牽制行動”だ」
(言うなって言ってるだろ!)
「幼馴染嬢は、自分でも理由が分からないまま、君を“取られたくない”と感じている」
(……)
俺は何も言えなかった。
嬉しい、と思ってしまった自分がいたからだ。
「ねえ恒一」
「ん?」
「……私と帰るの、嫌?」
その質問は、ずるい。
「嫌なわけないだろ」
即答だった。
「そっか」
美咲はそれ以上何も言わず、
さっきよりもほんの少しだけ、近い距離を保ったまま歩き続けた。
夕暮れの道。
並んだ影が、やけに寄り添って見える。
「神谷くん」
(……)
「君は今、極めて危険な状態にある」
(分かってる)
「自重を続ければ、彼女は傷つく。
踏み込めば、君自身が壊す」
(……どっちも嫌だ)
俺は答えを出せないまま、
幼馴染と並んで歩き続ける。
三角形は、まだ歪なままだ。
第4話を読んでいただき、ありがとうございます。
美咲の中に芽生え始めた感情と、恒一の自重が噛み合わなくなってきました。
この先、三角関係はよりはっきりした形になります。
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次回もよろしくお願いします。




