第37話 一歩の重さ
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は美咲が明確に一歩踏み込む回です。
告白未満ですが、関係性ははっきり前進しています。
俺は神谷恒一。
学校での距離が変わり始めてから、三日目。
決定的な何かは、まだ起きていない。
だが、空気は確実に変わっていた。
「おはよ、恒一」
教室に入ると同時に、桜庭美咲が声をかけてくる。
「……おはよう」
呼び方は、もう定着しつつある。
「神谷くん」
(……)
「周囲の反応が、
“違和感”から“前提”に変化している」
(早いな)
「人は、慣れる生き物だ」
席に着くと、後ろの席から声が飛んでくる。
「なあ神谷、最近桜庭と仲良すぎじゃね?」
「前からだろ」
「でも最近、距離近くね?」
笑い混じり。
悪意は、ない。
「……まあな」
それだけ返す。
美咲が、ちらりとこちらを見る。
目が合う。
逸らさない。
午前の授業が終わる頃、
俺は小さく息を吐いていた。
「神谷くん」
(……)
「精神的負荷が、
じわじわ増加している」
(自覚はある)
昼休み。
「恒一」
美咲が、机の横に立つ。
「今日は、屋上じゃなくてもいい?」
「……どこ行く?」
「図書室」
珍しい。
「……いいよ」
図書室は静かで、人が少ない。
窓際の席に並んで座る。
「……最近さ」
美咲が、小さな声で言う。
「みんな、色々言うでしょ」
「……まあ」
「正直」
一拍置く。
「ちょっと、怖かった」
その言葉は、意外だった。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
踏み込む前の不安を吐露している」
(……)
「でも」
美咲は、俺の方を見る。
「恒一が、
逃げなかったから」
胸が、詰まる。
「……逃げる理由、ない」
それは本音だった。
沈黙。
図書室の時計の音だけが響く。
美咲が、深呼吸して言う。
「……ねえ」
「なに?」
「放課後」
一歩、近づく。
「ちょっと、話したい」
その距離は、
今までより、明確だった。
「……わかった」
放課後。
校舎裏。
人目は、ある程度遮られる。
「ここでいい?」
「……ああ」
美咲は、少しだけ緊張した表情をしていた。
「……恒一」
「……なに?」
「私さ」
指先が、きゅっと握られる。
「最近、
曖昧なのが、嫌になってきた」
心臓が鳴る。
「神谷くん」
(……)
「これは、
分岐点だ」
(分かってる)
「一緒にいるのも、
手繋ぐのも、
名前で呼ぶのも」
「……」
「全部、好きでやってる」
逃げ道を、塞がれる。
「だから」
美咲は、一歩前に出た。
俺の胸に、軽く手が触れる。
「私は、
“ただの幼馴染”に戻る気はない」
視線が、真っ直ぐだった。
俺は、少しだけ間を置いて言う。
「……俺も」
それだけで、十分だった。
美咲の表情が、少しだけ緩む。
「……よかった」
安心したように、笑う。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
主導権を握った」
(ああ)
「だが、
それは信頼の証だ」
その後、特別な行動はなかった。
キスも、告白もない。
ただ。
帰り道で、
美咲が自然に腕に触れてきた。
今日は、
離れなかった。
それが。
彼女の踏み込んだ
“たった一歩”だった。
第37話を読んでいただき、ありがとうございました。
次回はいよいよ
「周囲から完全に公認される流れ」
もしくは
「主人公側が腹を括る回」に進めます。
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