第36話 見られている距離
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は学校という場所で、
二人の“公然の距離感”が変わり始める回です。
俺は神谷恒一。
二回目のデートが終わって、最初の登校日。
家を出た瞬間から、なんとなく分かっていた。
今日は――静かに試される日だ。
「おはよう」
桜庭美咲が、いつもの角で待っていた。
「……おはよう」
立ち位置が、自然に決まる。
半歩、近い。
「神谷くん」
(……)
「本日は“観測者”が多い」
(朝から嫌な情報だな)
「学校という閉鎖空間では、
微細な変化が拡大解釈される」
(要するに、見られるってことだろ)
昇降口。
靴箱。
「おはよー」
「おはよ」
挨拶は、普通。
でも――
「……あれ?」
誰かの声。
「神谷と桜庭、朝一緒に来てなかった?」
「前から?」
「いや、最近じゃない?」
背中に、視線。
「神谷くん」
(……)
「第一段階、
“認知”が進行中だ」
(実況すんな)
教室に入る。
席に着く。
美咲とは、少し離れている。
それでも、意識は向く。
ふと顔を上げると、
美咲もこちらを見ていた。
目が合う。
すぐ逸らす――はずだった。
美咲は、逸らさなかった。
小さく、笑う。
(……)
「神谷くん」
(……)
「今のは、
“公然の肯定”だ」
(言い方)
午前の授業。
黒板の文字を書き写しながら、周囲の気配を感じる。
視線が、増えている。
昼休み。
「恒一」
美咲が、自然に名前で呼んだ。
教室が、一瞬だけ静かになる。
「……なに?」
「一緒に、食べよ」
声は小さい。
でも、逃げない。
「……うん」
立ち上がると、
何人かの視線が、確実に動いた。
「神谷くん」
(……)
「第二段階、
“確認”に移行」
(やめろ)
屋上。
いつもの場所。
座る距離が、さらに近い。
「……さっきの」
俺が言う。
「名前で呼ぶの」
「……嫌だった?」
少しだけ、不安そうな顔。
「……嫌じゃない」
正直に言う。
「ただ、目立つ」
美咲は、少し考えてから言った。
「……でも」
「……」
「隠すの、疲れた」
その一言が、重かった。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
“公認”への移行を検討している」
(……早くないか)
「段階的だ」
放課後。
廊下で、クラスメイトに声をかけられる。
「なあ、神谷」
「……なに?」
「桜庭と、付き合ってんの?」
直球。
逃げ場は、ない。
「神谷くん」
(……)
「否定は、
信頼を損なう」
(……)
俺は、少しだけ視線を逸らしてから言った。
「……仲は、いい」
完全な肯定でも、否定でもない。
「ふーん」
相手は、それ以上突っ込まなかった。
でも、情報は流れる。
帰り道。
「……ごめん」
俺が言う。
「変に、濁した」
「いいよ」
美咲は、首を振る。
「全部言わなくても」
「……でも」
「私」
一歩、近づく。
「恒一と一緒にいるの、
隠したいとは思ってない」
胸が、きゅっとなる。
「神谷くん」
(……)
「公然の距離感が、
書き換えられている」
(……ああ)
手が、自然に触れる。
今日は、離さなかった。
学校では、まだ曖昧。
でも、もう戻れない。
視線が増えて、
噂が生まれて、
距離が定義される。
それでも。
俺たちは、
“見られても、並んでいられる距離”を
選び始めていた。
第36話を読んでいただき、ありがとうございました。
次回は、美咲の方がもう一歩踏み込む展開か、
周囲が明確に認識し始める回に進めます。
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次回もよろしくお願いします。




