第35話 余裕という錯覚
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は二回目のデート当日回です。
一回目より少し余裕が生まれた二人を描いています。
俺は神谷恒一。
二回目のデート当日、朝。
一回目の時と、決定的に違うことが一つある。
「……そこまで緊張してない」
鏡の前でそう呟いて、少しだけ不安になった。
「神谷くん」
(……)
「油断は、最大の敵だ」
(出たな)
「初回を乗り越えたことで、
成功体験が形成されている」
(それが油断だって言うんだろ)
「正解だ」
(即答すんな)
とはいえ、前回のように何度も服を着替えることはなかった。
清潔感重視。
無難。
でも、ちゃんと考えた。
「……よし」
集合場所は、前回と同じ駅前。
時間も、同じ。
到着したのは、五分前。
前回より、十分遅い。
「神谷くん」
(……)
「進歩している」
(評価やめろ)
ベンチに腰掛け、スマホを見るふりをする。
落ち着いている――はずだった。
「……恒一?」
声がして、顔を上げる。
桜庭美咲が、少し手を振って立っていた。
「……おはよう」
「……おはよう」
自然に、声が出た。
服装は、前回よりラフ。
でも、似合っている。
「……早いね」
「……そっちも」
このやり取り、前回と同じ。
なのに、胸の鼓動は落ち着いている。
「神谷くん」
(……)
「心理的距離が、
確実に縮まっている」
(それなら、いい)
今日はコメディ映画。
事前に少し調べて、評価も確認済み。
「……チケット、取っといた」
言うと、美咲が少し目を丸くする。
「ほんと?」
「……うん」
「ありがとう」
その一言が、素直に嬉しい。
映画館。
前回と同じ列。
でも、席は少し中央寄り。
「……ここ、見やすそう」
「……な」
暗くなる。
予告編が始まる前から、肘が自然に触れている。
どちらも、動かさない。
「神谷くん」
(……)
「これは“慣れ”だ」
(悪くないな)
本編が始まる。
笑えるシーンで、美咲が小さく吹き出す。
それにつられて、俺も笑う。
「……静かに」
後ろの席から小声の注意。
二人で、顔を見合わせて苦笑いする。
その瞬間、
美咲の指が、こちらの手に触れた。
前回より、迷いがない。
指が絡む。
少しだけ、強く。
「神谷くん」
(……)
「二回目での手繋ぎは、
自然進行だ」
(解説いらない)
映画が終わる。
「……どうだった?」
「……普通に、面白かった」
「私も」
感想が、ちゃんと出てくる。
外に出ると、昼過ぎの光。
「……歩こうか」
「……うん」
前回と同じ流れ。
でも、会話の量は増えていた。
「さっきのシーンさ」
「あそこな」
「絶対、伏線だよね」
意見が重なる。
「神谷くん」
(……)
「会話の往復が、
滑らかになっている」
(……ああ)
少し歩いて、カフェに入る。
「……ここ、前から気になってた」
「……入ってみる?」
「うん」
席に着く。
メニューを見る距離が、近い。
「……甘いの、好き?」
「……嫌いじゃない」
「じゃあ、これ」
迷いなく決める。
「神谷くん」
(……)
「意思表示が、
自然だ」
(評価禁止)
カフェを出て、駅前に戻る。
「……楽しかったね」
美咲が言う。
「……ああ」
前回より、即答できた。
「ねえ」
「なに?」
「次さ」
胸が鳴る。
「映画じゃなくても、いいよね」
「……いいと思う」
それだけで、十分だった。
別れ際。
「……じゃあ」
「……うん」
「また、連絡する」
「……待ってる」
前回より、言葉が少ない。
でも、不安はない。
「神谷くん」
(……)
「余裕とは、
“慣れ”ではない」
(……)
「信頼だ」
家に向かう道。
二回目のデートは、
特別な事件も、劇的な展開もなかった。
でも。
笑って、
話して、
手を繋いで。
それが、
“当たり前”になり始めていた。
余裕が生まれたのは、
油断じゃない。
――一緒にいて、大丈夫だという確信だった。
第35話を読んでいただき、ありがとうございました。
関係は「慣れ」と「信頼」の段階に入っています。
次回は学校での距離感の変化や、
周囲からの認識が変わる回に進めます。
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次回もよろしくお願いします。




