第34話 次は、いつもの延長で
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は二回目の約束が「誘い」ではなく、
会話の流れから自然に生まれる回です。
俺は神谷恒一。
初デートの翌週ほど、日常が静かにざわつく期間はない。
特別なことは起きていない。
でも、何も起きていないわけでもない。
「おはよう」
桜庭美咲が、登校途中で追いついてくる。
「……おはよう」
声はいつも通り。
歩く速度も、いつも通り。
なのに、空気だけが少し違う。
「神谷くん」
(……)
「違和感の正体は、
“次”を意識している点だ」
(今日は冷静だな)
「私は、
沈黙を推奨する」
(珍しい)
教室。
席に着くまでの時間、視線が何度か合う。
すぐ逸らす。
でも、また合う。
(……なんだこれ)
授業中。
ノートを取りながら、昨日のやり取りを思い出す。
『また、行こうね』
あの一文が、頭の片隅に残り続けていた。
昼休み。
屋上。
「……恒一」
美咲が、弁当を広げながら言う。
「なに?」
「昨日さ」
「……うん」
「映画の話、あんまりしてないよね」
「……確かに」
思い返すと、感想らしい感想を言っていない。
「私、あのシーン好きだった」
「……ああ」
「音が急に静かになるところ」
あの場面。
覚えている。
「……俺も」
同じ感想だった。
「神谷くん」
(……)
「共通体験の再確認が、
次の行動を促す」
(また解説か)
美咲が、少し考えるように箸を止める。
「……ねえ」
「なに?」
「もしさ」
一拍置く。
「もう一回、映画行くなら」
胸が鳴る。
「……うん」
「次は、何系がいい?」
それは、
“誘い”じゃなかった。
でも。
“前提”だった。
「……コメディとか」
「いいね」
即答。
「笑えるやつ」
「……それ、いい」
視線が合って、二人で少し笑う。
「神谷くん」
(……)
「約束は、
宣言ではなく“共有”から生まれた」
(……確かに)
放課後。
帰り道。
夕方の風が、少し涼しい。
「……今日、暑かったね」
「……な」
他愛もない会話。
でも、途切れない。
「ねえ」
「なに?」
「次の映画」
美咲が言う。
「来週とか、どう?」
来た。
でも、重くない。
「……大丈夫だと思う」
「ほんと?」
「……うん」
その瞬間、
美咲の表情が少しだけ明るくなる。
「じゃあ」
「……うん」
「来週の土曜」
日時が、決まる。
「神谷くん」
(……)
「二回目は、
“約束”ではなく“予定”だ」
(違いは?)
「生活に組み込まれた」
(……なるほど)
家の前。
「……じゃあ」
「……うん」
「土曜」
「……忘れない」
前より、言葉が自然だった。
「……おやすみ」
「おやすみ」
家に入ってから、スマホが震える。
『次は、笑えるやつ探しとくね』
『ありがとう。俺も見とく』
それだけのやり取り。
でも、胸が落ち着く。
「神谷くん」
(……)
「関係は、
“特別”から“習慣”へ移行しつつある」
(悪くないな)
「むしろ、理想的だ」
布団に入る。
初デートほどの緊張はない。
でも、楽しみは残っている。
二回目の約束は、
劇的でも、照れくさくもなく。
いつもの会話の延長で、
自然に、そこにあった。
それが、
今の俺たちには――
一番、しっくりきていた。
第34話を読んでいただき、ありがとうございました。
関係は次の段階へ進みつつあります。
次回は二回目のデート当日か、
学校での“慣れ始めた二人”を描く回に進めます。
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次回もよろしくお願いします。




