第33話 余韻の行き場
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は初デート後の余韻回です。
派手な展開はなく、感情の整理と静かな満足感を描いています。
俺は神谷恒一。
初デートの帰り道ほど、静かな時間はない。
駅前で別れてから、家までの道がやけに長く感じた。
足取りは軽いのに、頭の中が忙しい。
「……疲れた」
口に出してみると、ようやく現実に戻る。
「神谷くん」
(……)
「本日のイベントは、
“反芻フェーズ”へ移行した」
(やっぱり出てくるよな)
「感情の整理が、
睡眠まで継続する見込みだ」
(厄介だな)
玄関で靴を脱ぎ、部屋に入る。
いつもと同じはずの部屋が、少しだけ違って見えた。
ベッドに腰を下ろし、スマホを手に取る。
画面には、まだ何も表示されていない。
(……連絡、するべきか)
「神谷くん」
(……)
「早すぎても、
遅すぎても、意味が変わる」
(じゃあ、いつだよ)
「今だ」
(即答かよ)
メッセージ画面を開く。
指が、止まる。
『今日は、ありがとう』
打って、消す。
『楽しかった』
短すぎる気がする。
「……難しいな」
深呼吸して、打ち直す。
『今日はありがとう。緊張したけど、楽しかった』
送信。
画面を伏せる。
数秒が、やけに長い。
「神谷くん」
(……)
「返信待機中の沈黙は、
人を不安にさせる」
(実況すんな)
スマホが、震えた。
『私も。ちょっと緊張したけど、楽しかった』
胸が、ふっと軽くなる。
『また、行こうね』
その一文に、心臓が跳ねた。
(……また、って言った)
「神谷くん」
(……)
「二回目の伏線が、
自然に設置された」
(評価やめろ)
『うん。次は、もう少し落ち着けると思う』
送信してから、少し照れた。
ベッドに仰向けになる。
天井を見上げる。
映画の内容は、正直あやふやだ。
でも、隣にいた感覚は、はっきり残っている。
肘が触れた瞬間。
指が、そっと重なった感触。
「……近かったな」
「神谷くん」
(……)
「身体的距離の記憶は、
感情の定着を促進する」
(難しいこと言うな)
「つまり」
(……)
「良い余韻だ」
シャワーを浴びる。
温かい湯が、緊張をほどいていく。
鏡を見ると、少しだけ表情が緩んでいた。
「……浮かれてるな」
否定は、できない。
ベッドに戻る。
スマホを見る。
『今日は、ちゃんとデートだったね』
追加のメッセージ。
『うん。ちゃんと』
それだけ返す。
しばらくして、また震える。
『おやすみ』
『おやすみ』
短い挨拶。
でも、心地いい。
「神谷くん」
(……)
「この余韻は、
急いで消す必要はない」
(……ああ)
「日常に、
少しずつ溶かせばいい」
部屋の灯りを消す。
布団に潜り込むと、
今日一日の映像が、ゆっくり流れた。
緊張して、
ぎこちなくて、
でも、確かだった。
初デートは、終わった。
でも。
余韻は、
ちゃんと――次に続いている。
第33話を読んでいただき、ありがとうございました。
初デートは終わりましたが、関係は少しずつ進んでいます。
次回は「二回目の約束が自然に生まれる回」か、
変態紳士が完全沈黙する珍事に進めます。
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次回もよろしくお願いします。




