第31話 約束の形
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は初めて「約束」を明確に交わす回です。
関係を言葉と行動で形にする段階に入りました。
俺は神谷恒一。
文化祭が終わって、数日。
日常はすっかり元通り――のはずなのに、
俺の中では、まだ次の一歩が定まっていなかった。
「神谷くん」
(……)
「今日は、
“能動的行動”が求められる日だ」
(急にどうした)
「これ以上、
流れに身を任せ続けるのは不自然だ」
(……つまり?)
「“約束”を作れ」
妙に真面目な声だった。
放課後。
教室の掃除が終わり、生徒がまばらになる。
美咲は、黒板消しを片付けながら、ちらりとこちらを見る。
「……恒一」
「なに?」
「今日、すぐ帰る?」
その問いに、心臓が跳ねた。
「……いや」
一瞬の間。
「……時間、ある」
美咲は、少しだけ目を見開いてから、うなずいた。
「……私も」
言葉は、それだけ。
でも、空気が変わる。
「神谷くん」
(……)
「今だ」
(分かってる)
校舎を出て、いつもの帰り道。
夕方の風が、少し冷たい。
「……最近さ」
美咲が言う。
「一緒にいるの、当たり前になってきたね」
「……ああ」
「それ、嫌じゃないけど」
言葉を探すように、少し間を置く。
「なんていうか」
「……うん」
「区切りが、欲しい」
胸が、どくりと鳴る。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
“関係の輪郭”を求めている」
(……ああ)
立ち止まる。
「……美咲」
「なに?」
視線を合わせる。
「その」
喉が、少し渇く。
「……今度の土曜」
「……うん」
「一緒に、出かけないか」
言い切った。
一瞬の沈黙。
それから、美咲が、ゆっくり笑う。
「……それって」
「……ああ」
「約束?」
「……約束だ」
その言葉を口にした瞬間、胸が軽くなった。
「神谷くん」
(……)
「良い」
(評価すんな)
「具体的で、
逃げ道がない」
(逃げ道作る気なかった)
「……どこ行く?」
美咲が聞く。
「……考えてなかった」
正直だった。
「……もう」
呆れたように言ってから、くすっと笑う。
「じゃあ、一緒に決めよ」
「……それも、いいな」
歩き出す。
足取りが、少し弾んでいる。
「ねえ」
「なに?」
「これさ」
美咲が言う。
「ちゃんと、デートって言っていい?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……いい」
短く、でもはっきり。
「……じゃあ」
美咲は、少し照れたように言った。
「初デート、だね」
胸が、熱くなる。
「神谷くん」
(……)
「認定完了」
(だから言い方)
家の前で立ち止まる。
「……じゃあ」
「……うん」
「土曜」
「……忘れないよ」
視線が合う。
少しだけ、名残惜しい。
「……おやすみ」
「おやすみ」
美咲が家に入るのを見届けてから、俺は息を吐いた。
「……約束、したな」
「神谷くん」
(……)
「それが、
恋人関係を現実にする」
(……ああ)
告白は、まだ。
完璧な言葉も、まだ。
でも。
日時を決めて、
場所を決めて、
一緒に出かける。
それはもう、
十分すぎるほど――
彼氏彼女らしい約束だった。
第31話を読んでいただき、ありがとうございました。
次回はいよいよ“初デート当日”編に入ります。
緊張、空回り、そして小さな前進を描く予定です。
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次回もよろしくお願いします。




