第30話 戻った日常、近いまま
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は文化祭後、日常に戻った二人の距離感を描いた回です。
派手な進展はありませんが、確かな変化があります。
俺は神谷恒一。
文化祭が終わった翌日の朝ほど、現実を突きつけられる瞬間はない。
校門。
いつもと同じ時間。
いつもと同じ風景。
なのに――
胸の奥だけが、昨日の続きを引きずっている。
「おはよう」
桜庭美咲が、少し早足で追いついてきた。
「……おはよう」
声は、普段通り。
距離は――少し近い。
「神谷くん」
(……)
「文化祭後特有の錯覚に注意」
(なんだそれ)
「非日常の余韻が、
日常を歪めて見せる」
(歪んでるのはお前の語彙だ)
昇降口で靴を替える。
クラスメイトのざわめき。
「文化祭、楽しかったなー」
「喫茶店めっちゃ混んでたよね」
昨日の話題が、まだ残っている。
教室に入ると、席は元通り。
机も、黒板も、何も変わらない。
――変わったのは、視線の向け方だけだ。
ふと、美咲を見る。
彼女も、こちらを見ていた。
一瞬。
すぐに、目を逸らす。
(……これ、完全に意識してるな)
「神谷くん」
(……)
「正常な反応だ」
(今日は解説少なめだな)
「私は、観察に徹する」
(助かる)
午前の授業。
ノートを取りながら、何度も思う。
――文化祭が終わったら、どうなるんだろう。
告白は、していない。
でも、関係は終わっていない。
むしろ、始まっている。
昼休み。
「恒一」
名前で呼ばれる。
小さな声。
「……なに?」
「一緒に、食べよ」
それだけ。
屋上。
いつもの場所。
弁当を広げる距離が、自然に近い。
「……昨日さ」
美咲が言う。
「楽しかったね」
「……ああ」
「終わったの、ちょっと寂しい」
正直な言葉。
「俺も」
それ以上、言葉はいらなかった。
風が吹く。
前よりも、静かに感じる。
「神谷くん」
(……)
「日常に戻ったからこそ、
関係の“実像”が見える」
(実像、ね)
放課後。
「……今日、どうする?」
美咲が聞く。
「……帰る?」
いつもなら、それで終わり。
でも。
「……少し、歩く?」
言ってから、少し緊張した。
「……うん」
即答だった。
校舎を出て、いつもの帰り道。
なのに、足取りが違う。
会話は、少ない。
でも、沈黙が苦じゃない。
「ねえ」
「なに?」
「文化祭のあとってさ」
少し考えてから言う。
「一気に冷める人もいるって聞いた」
美咲は、立ち止まる。
「……それ、心配?」
「……少し」
正直に言う。
「神谷くん」
(……)
「誠実な不安表明だ」
(解説すんな)
美咲は、首を振った。
「私は、逆」
「……逆?」
「やっと、静かに一緒にいられる」
その言葉が、胸に染みた。
「……そっか」
「うん」
歩き出す。
手が、自然に触れる。
昨日より、
少しだけ、当たり前。
「神谷くん」
(……)
「関係は、
“劇的に進む”必要はない」
(……ああ)
「こうして、
日常に溶けるのが理想だ」
夕焼けの中、並んで歩く。
文化祭は終わった。
非日常も終わった。
でも。
距離は、近いまま。
気持ちも、近いまま。
戻った日常は、
昨日より、少しだけ優しかった。
第30話を読んでいただき、ありがとうございました。
ここで物語は一つの区切りを迎えます。
次回は「初めての彼氏彼女らしい約束」か、
日常がさらに踏み込む展開に進めます。
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次回もよろしくお願いします。




