第3話 友人は空気を読まない
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は三角関係の“芽”を仕込む回です。
まだ恋愛バトルではなく、違和感と誤解が中心になります。
俺は神谷恒一。
自重を始めて三日目にして、早くも限界を感じ始めている。
「おはよ、恒一」
教室に入ると、いつもの声がした。
桜庭美咲は、いつもと同じ席、いつもと同じ笑顔で俺を迎える。
「おはよう」
できるだけ普通に返した……つもりだった。
「……なんか硬い」
「気のせいだ」
即答すると、美咲は小さくむっとした顔をする。
その反応だけで胸が痛むあたり、もう手遅れなのかもしれない。
「神谷くん。君は今、“不自然”という領域に片足を突っ込んでいる」
(分かってる。でもどうしろってんだ)
「簡単だ。距離を縮めればいい」
(それができないから自重してるんだろ)
俺たちのやり取りを、机に座ったままニヤニヤ眺めている男がいた。
「いやー、朝から仲いいねえ」
声の主は、田中恒一郎。
中学からの腐れ縁で、余計なことしか言わない男だ。
「仲よくない」
「はいはい。そういうことにしとくわ」
田中は肩をすくめると、美咲の方をちらりと見た。
「でもさ、最近恒一、別の子とよく話してね?」
――心臓が跳ねた。
「は?」
「え?」
美咲も同時に反応する。
「ほら、放課後さ。図書室で」
(あっ……)
確かに昨日、クラスの女子にノートを返すついでに少し話した。
それだけだ。ただそれだけなのに。
「へー……」
美咲の声が、ほんの少しだけ低くなった。
「田中、余計なこと言うな」
「え? 事実だろ?」
田中は悪びれもせず笑っている。
こいつは気づいていない。
今、自分が何を投げ込んだのかを。
「神谷くん」
(なんだよ……)
「これは好機だ」
(は?)
「幼馴染嬢に“焦り”という感情が芽生えつつある。これは恋愛進展において――」
(語るな!)
美咲は何事もなかったように前を向いたが、
その横顔は、いつもより少しだけ硬かった。
「……恒一」
「な、なんだ?」
「その人、誰?」
その一言で、空気が完全に変わった。
違う。
何もない。
俺は自重しているだけだ。
なのに、状況だけが勝手に三角形を描き始めている。
「ただのクラスメイトだ」
「ふーん」
納得していないのは、声色ですぐに分かった。
「神谷くん」
(まだ言う気か)
「君は今、気づいていないが――」
(言うな)
「自重は、誤解を生む」
俺は何も言えなかった。
好きだから近づかない。
守りたいから動かない。
その選択が、別の形で美咲を傷つけ始めているかもしれないなんて、
まだ認めたくなかった。
第3話まで読んでいただき、ありがとうございます。
恒一の自重は、周囲から見ると別の意味を持ち始めました。
ここから関係がどう歪んでいくのか、見守っていただけたら嬉しいです。
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