第29話 言葉の手前
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は文化祭のクライマックス回です。
告白はせず、あえて「言葉の手前」で止めています。
俺は神谷恒一。
文化祭の終わりが近づくと、時間の進み方が変になる。
片付けの音。
遠くで流れる軽音部の演奏。
拍手と笑い声が、波のように寄せては引いていく。
「神谷くん」
(……)
「本日は“総決算フェーズ”だ」
(頼むから最後までそれで通す気か)
「ここでの振る舞いは、
今後の関係性に長く影響する」
(プレッシャーかけるな)
喫茶店は無事に閉店した。
売上は上々。
クラスの空気も、達成感で満ちている。
「お疲れー!」
「片付け、終わった人から自由ね!」
解散の声が上がる。
その中で、俺は美咲を探した。
窓際。
夕焼けを背に、彼女は一人で立っていた。
「……お疲れ」
「……お疲れさま」
声は少し、低い。
「楽しかった?」
「……うん」
短い答え。
でも、嘘はない。
「神谷くん」
(……)
「この沈黙は、
“言葉を選んでいる”沈黙だ」
(分かってる)
校舎の外に出ると、空はオレンジ色だった。
校庭の片隅。
人の少ない場所。
「ねえ」
美咲が、先に口を開く。
「文化祭、どうだった?」
「……忙しかった」
「それだけ?」
試すような視線。
「……嬉しかった」
正直に言う。
「一緒にやれて」
美咲は、少し驚いた顔をしてから、笑った。
「……私も」
風が吹く。
スカートの裾が揺れる。
「神谷くん」
(……)
「今は“踏み込み過ぎない勇気”が必要だ」
(珍しくブレーキだな)
「文化祭は、
日常から一段高い舞台」
(……)
「ここでの告白は、
感情補正が強すぎる」
(……分かった)
美咲が、手を差し出す。
「……手、つなぐ?」
「……いいのか」
「うん」
迷いはなかった。
指が絡む。
昼間より、少し強く。
「ねえ」
「なに?」
「今日さ」
美咲は、空を見上げる。
「“恋人っぽい”こと、いっぱいしたね」
「……ああ」
「でも」
こちらを見る。
「まだ、ちゃんと言葉にしてない」
胸が、鳴る。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、
“未完”を大切にしている」
(……)
「今は、
完成させる必要はない」
俺は、息を整える。
「……俺」
「うん」
「ちゃんと、続けたい」
それだけ言った。
美咲は、少しだけ目を見開いてから、うなずいた。
「……うん」
それだけで、十分だった。
遠くで、花火の音がした。
文化祭の締めだ。
夜空に、小さな光が弾ける。
「きれいだね」
「……ああ」
手を繋いだまま、見上げる。
「神谷くん」
(……)
「今の言葉は、
告白ではない」
(分かってる)
「だが」
(……)
「最も誠実な意思表示だ」
花火が消える。
拍手と歓声。
文化祭は、終わった。
告白は、まだ。
答えも、まだ。
でも。
言葉の手前で、
ちゃんと同じ方向を見ている。
それが、今の俺たちには――
ちょうどよかった。
第29話を読んでいただき、ありがとうございました。
文化祭編はここで一区切りとなります。
次回からは、日常に戻った二人の関係が描かれていきます。
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次回もよろしくお願いします。




