第28話 独占という名の本音
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は幼馴染の独占欲が、はっきり言葉になる回です。
我慢ではなく、共有としての独占を描いています。
俺は神谷恒一。
文化祭当日、午後。
喫茶店は相変わらず盛況で、教室の中は熱気に満ちていた。
忙しさに紛れて、余計なことを考えずに済む――はずだった。
「神谷くん」
(……)
「警告」
(短いな)
「これは“蓄積型イベント”だ」
(嫌な予感しかしない)
ホールの端で、桜庭美咲が接客している。
いつも通り、笑顔。
でも、その視線は時折、こちらを探すように泳いでいた。
「……大丈夫か?」
声をかけると、美咲は一瞬だけ驚いた顔をしてから、笑う。
「うん、平気」
その“平気”が、いつもより軽い。
しばらくして、別クラスの女子二人が近づいてきた。
「神谷くんってさ」
「彼女いるんでしょ?」
周囲の空気が、ぴたりと止まる。
「神谷くん」
(……)
「質問の意図は、
“確認”ではなく“反応”だ」
(分かってる)
「……内緒」
さっき美咲が使った言葉を、同じように返す。
「えー、なにそれ!」
「怪しい!」
笑い声。
軽口。
でも――。
その背後で、美咲の表情が変わった。
忙しさが落ち着いたタイミングで、裏の廊下に呼び出される。
「……ねえ」
「どうした?」
美咲は、腕を組んだまま、少し視線を逸らす。
「さっきの」
「……ああ」
「内緒、って」
言葉を選んでいる。
「……嫌だった?」
少し、間があった。
「嫌、っていうか」
美咲は、息を吸う。
「もやっとした」
正直だった。
「神谷くん」
(……)
「来たな」
(ああ)
「独占欲は、
抑圧すると爆発する」
(爆発は勘弁してくれ)
「……ごめん」
「謝らないで」
美咲は、首を振る。
「私が、勝手に思っただけ」
「……でも」
「うん」
こちらを見る。
「神谷くんが、誰かに取られる気はしない」
胸が、きゅっと締まる。
「……それでも?」
「それでも」
言い切った。
「私の、って思いたい」
沈黙。
「神谷くん」
(……)
「これは、
極めて健全な独占欲だ」
(評価基準どうなってんだ)
俺は、一歩近づく。
「……俺も」
「……なに?」
「美咲が、誰かに向けて笑うと」
正直に言う。
「ちょっと、嫌だ」
美咲は目を見開いてから、少しだけ笑った。
「……じゃあ、おあいこだね」
「……ああ」
その瞬間、距離が自然に縮まった。
「ねえ」
「なに?」
「文化祭、終わったらさ」
「……うん」
「ちゃんと、言おう」
“何を”とは言わなかった。
でも、分かった。
「神谷くん」
(……)
「良い合意形成だ」
(その言い方やめろ)
夕方。
喫茶店の片付け。
並んでテーブルを拭きながら、さっきの会話を思い返す。
独占欲。
それは、縛ることじゃない。
不安と、願いと、
“選ばれたい”という本音。
「……ねえ」
美咲が言う。
「今日、手つなぐ?」
周りに人は、まだいる。
「……いいのか?」
「うん」
迷いは、なかった。
指が絡む。
少し、強め。
「神谷くん」
(……)
「公認だな」
(言い方)
文化祭の喧騒の中で、
俺たちは、はっきりと“恋人”だった。
隠すことも、誤魔化すことも、
完全にはできない。
でも。
独占したい、されたい。
その気持ちを、ちゃんと認められた。
それだけで、十分だった。
第28話を読んでいただき、ありがとうございました。
文化祭はいよいよクライマックスへ向かいます。
次回は「文化祭の締め」として、
少しだけ踏み込んだ二人のやり取りを描く予定です。
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次回もよろしくお願いします。




