第25話 役割の変化
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は変態紳士の「役割の変化」を描いた回です。
消えるのではなく、関係性が変わるという位置づけにしています。
俺は神谷恒一。
恋人編に入ってから、奇妙な違和感が続いている。
それは、美咲との距離でも、学校の視線でもない。
――静かすぎるのだ。
「神谷くん」
(……)
「……?」
返事がない。
朝の通学路。
いつもなら、余計な助言や分析が飛んでくる時間帯。
それが、ない。
「……おい」
(……)
「神谷くん」
(……)
嫌な予感がする。
校門が近づく頃、ようやく声がした。
「……ここだ」
(どこだよ)
「今、私の出番ではない」
胸が、ざわつく。
(どういう意味だ)
「これまでの私は」
声は、いつもより落ち着いていた。
「君を“止める役”だった」
(……)
「暴走を抑え、選択肢を提示し、
被害を最小限に抑える」
(自覚はあったんだな)
「だが」
一拍置く。
「状況が変わった」
教室に入る。
美咲が、こちらを見て軽く手を振る。
それだけで、胸が温かくなる。
「神谷くん」
(……)
「君は、もう一人で判断できている」
(……)
「自重も、逃避も、
“誰かのため”に選んでいる」
変態紳士の声に、皮肉はなかった。
(だから、黙ってるって?)
「正確には」
(……)
「前に出る必要が、なくなった」
授業中。
ノートを取りながら、考える。
変態紳士は、危険な衝動の象徴だった。
それを抑えるための、もう一人の自分。
でも今は。
衝動が、誰かを傷つける方向を向いていない。
昼休み。
屋上。
美咲が隣に座る。
「……最近、静かだね」
「……なにが?」
「恒一」
にやっと笑う。
「一人で悩んでる時間」
図星だった。
「……そうかも」
「悪いことじゃないよ」
そう言って、肩に頭を預けてくる。
心臓が跳ねる。
「神谷くん」
(……)
「今のような場面では」
(……)
「私は“表に出るべきではない”」
(……)
「これは、君自身の感情だ」
放課後。
二人で帰る道。
「ねえ」
「なに?」
「もしさ」
美咲が言う。
「私がいなかったら、どうしてた?」
少し考える。
「……多分」
「うん」
「まだ、自重してた」
正直だった。
「そっか」
美咲は、少しだけ笑った。
「じゃあ、私、役に立ってるね」
「……ああ」
それは、間違いない。
「神谷くん」
(……)
「聞いたか」
(ああ)
「彼女の存在が、
君の抑制と衝動を“統合”している」
(難しい言葉使うな)
「つまり」
(……)
「私は、もう“緊急装置”ではない」
足を止める。
(じゃあ、お前は)
「……補助輪のようなものだ」
(言い方)
「必要な時だけ、
後ろで支える」
不思議と、安心した。
「消えるわけじゃないんだな」
「消えない」
即答だった。
「君の一部であることに、
変わりはない」
夕焼けが、街を染める。
美咲と並んで歩く。
手は、自然につながっている。
「神谷くん」
(……)
「今後、私が口を出す時は」
(……)
「本当に危険な時だけだ」
(……分かった)
変態紳士は、いなくならない。
でも、支配もしない。
役割が変わっただけだ。
選ぶのは、俺。
支えるのは、もう一人の俺。
そして――
隣には、美咲がいる。
それで、十分だった。
第25話を読んでいただき、ありがとうございました。
ここから物語は、より“日常の中の恋人関係”へ進んでいきます。
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