第23話 言わない言葉
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は恋人編最初の「初喧嘩未満」回です。
怒鳴り合いではなく、言わないことで生まれる溝を描いています。
俺は神谷恒一。
恋人編に入って一週間。
順調かと言われれば――
そうでもない。
「神谷くん」
(……)
「関係が安定すると、人は油断する」
(今それ言う?)
朝の教室。
美咲は、いつも通りに席に着いている。
挨拶はした。
会話もした。
でも、どこか噛み合っていない。
「……今日、放課後どうする?」
美咲が、前を向いたまま聞いてくる。
「……少し、用事がある」
嘘じゃない。
でも、全部でもない。
「そっか」
それだけ。
声が、少しだけ低かった。
「神谷くん」
(……)
「今のは、危険だ」
(何が)
「理由を省略した」
(……)
「彼女は“拒否”と受け取る可能性がある」
(そんなつもりは……)
午前の授業中、何度か美咲の方を見た。
目は合わない。
昼休み。
屋上。
風が強い。
俺はフェンスにもたれ、ため息をついた。
「……めんどくさいな、俺」
「神谷くん」
(……)
「自己嫌悪フェーズに入るのは早い」
(じゃあどうすればいい)
「説明するべきだった」
(……)
分かっている。
でも、“用事”の中身を言えば、また心配させる。
変態紳士の様子。
自重の限界。
そんな話を、今はしたくなかった。
「……言わないのも、優しさだと思った」
「神谷くん」
(……)
「それは“選別”だ」
(……)
「彼女に選ばせない選択」
胸が痛む。
放課後。
用事を終えて校門を出ると、美咲がいた。
「……あれ?」
「まだ、帰ってなかった」
「……うん」
気まずい空気。
「用事、終わった?」
「ああ」
「そっか」
それだけ。
並んで歩き出すが、距離が微妙に遠い。
「神谷くん」
(……)
「これは“初喧嘩未満”の典型例だ」
(喧嘩してないだろ)
「していない。
だが、溝は生まれている」
美咲が、足を止めた。
「ねえ」
「……なに」
「私、なにかした?」
直球だった。
「……してない」
「じゃあ」
こちらを見る。
「なんで、言ってくれないの?」
胸が詰まる。
「心配かけたくなかった」
正直な答え。
「……それ」
美咲は、少しだけ眉を下げた。
「私を、遠ざけてるみたい」
言葉が、刺さる。
「一緒にいるって、そういうことじゃないの?」
返す言葉が、見つからない。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、共有を求めている」
(……)
「解決ではなく、共感だ」
深く息を吸う。
「……ごめん」
「……うん」
「用事って言ったけど」
覚悟を決める。
「正直に言うと」
「……」
「俺の中の問題」
美咲は、黙って聞いている。
「まだ、完全に片付いてない」
「……例の?」
「ああ」
全部は言わない。
でも、隠さない。
「だから、今日は一人で整理したかった」
美咲は、しばらく黙ってから言った。
「……言ってくれればよかった」
「……ごめん」
「怒ってない」
でも、と続ける。
「寂しかった」
その一言が、胸に響いた。
「神谷くん」
(……)
「今のは、良い修正だ」
(評価やめろ)
「初喧嘩未満は、
“早期対応”が鍵となる」
(お前、ほんと解説好きだな)
帰り道。
さっきより、距離が近い。
「ねえ」
「なに?」
「次からは」
美咲が言う。
「全部じゃなくていいから、少し教えて」
「……分かった」
「私も、聞きすぎない」
その妥協が、ありがたい。
手が、触れる。
自然に、指が絡んだ。
「……これで、仲直り?」
「……たぶん」
二人で、少しだけ笑った。
喧嘩じゃない。
でも、すれ違い。
それを越えるのは、
“正しさ”じゃなく、“言葉”だった。
第23話を読んでいただき、ありがとうございました。
付き合う=何でも解決、ではありません。
すれ違いをどう扱うかが、関係を形作っていきます。
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