第21話 視線の数だけ
前書き
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は学校で「付き合ってる」とバレかける回です。
恋人になった直後の“空気の変化”を中心に描いています。
俺は神谷恒一。
初デートの翌日ほど、登校が怖い日はない。
理由は単純。
世界は、昨日と何も変わっていないのに――
俺たちだけが、変わってしまったからだ。
「神谷くん」
(……)
「本日は“観測リスク”が高い」
(頼むから専門用語やめろ)
校門をくぐると、いつも通りの風景。
生徒のざわめき。
部活の朝練。
その中に、桜庭美咲がいた。
「……おはよう」
「おはよ」
声は普通。
距離も、昨日までと同じ。
(……大丈夫)
そう思った瞬間。
「……今、目合ったよね?」
後ろから聞こえる声。
「え、マジ?」
「昨日まであんなに距離あった?」
背中に、視線が突き刺さる。
「神谷くん」
(……)
「既に三名が“違和感”を感知している」
(早すぎだろ)
教室に入ると、さらに悪化した。
「おはよー」
「おはよ」
美咲が席に着く。
俺も、少し遅れて着席。
――その一連の流れが、自然すぎた。
「……ねえ」
クラスメイトが、ひそひそ声で囁く。
「神谷と桜庭、あれ前からあんな感じだっけ」
「いや、もっと他人行儀だった気が」
「……何かあった?」
胃が痛い。
「神谷くん」
(……)
「これは“空気の変化”による検知だ」
(だから言い方)
午前の授業。
黒板の文字が頭に入らない。
ふと、美咲の方を見ると、彼女も同じように前を見ている。
(……目、合わせない方がいいか)
そう思った瞬間。
美咲が、こちらを見た。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、笑う。
(……やめろ)
心拍数が跳ね上がる。
「神谷くん」
(……)
「今のは“恋人特有の無意識シグナル”だ」
(分析すんな!)
昼休み。
「桜庭」
女子が美咲に声をかける。
「ちょっといい?」
「うん」
二人は教室の隅へ。
(……来た)
「神谷くん」
(……)
「尋問フェーズに移行する可能性が高い」
(やめろ)
しばらくして、美咲が戻ってくる。
「……なんか聞かれた?」
「ちょっと」
表情は平静。
でも、声が少し硬い。
「何て?」
「恒一と、仲良くなったの?って」
「……で?」
「うんって言った」
胃が縮む。
「神谷くん」
(……)
「これは事実だ」
(……まあ、そうだけど)
「でも」
美咲は続ける。
「それ以上は、言ってない」
ほっとしたような、寂しいような。
「ありがとう」
「……どういたしまして」
午後の授業。
今度は、俺が呼び止められた。
「神谷」
「……なに?」
「最近、桜庭と仲いいよな」
直球。
「……まあ」
「付き合ってんの?」
教室の空気が、一瞬止まる。
「神谷くん」
(……)
「ここで否定すると、不自然」
(……)
「肯定すると、即拡散」
(最悪じゃねえか)
「……仲良くしてる」
曖昧な答え。
「ふーん」
相手は、それ以上突っ込まなかった。
でも、視線は増えた。
放課後。
美咲と、校舎の影で合流する。
「……今日、やばかったね」
「ああ」
「でも」
美咲は、少し笑う。
「嫌じゃなかった」
胸が、きゅっとなる。
「俺も」
正直だった。
「神谷くん」
(……)
「恋人編、初の難関突破」
(突破したか?)
「未だ“バレかけ”だがな」
(……先は長いな)
二人で並んで帰る。
距離は、ほんの少しだけ近い。
でも、触れない。
「ねえ」
「なに?」
「無理しないで」
「……ああ」
学校という場所は、容赦がない。
視線も、噂も、すぐに広がる。
それでも。
俺は、逃げなかった。
美咲も、隠れなかった。
ぎこちなくて、危なっかしい。
でも、それが――
付き合う、ということなのだと思った。
第21話を読んでいただき、ありがとうございました。
恋人編は、周囲の視線との戦いでもあります。
次回は、変態紳士が余計な助言を始めるか、
白石凛の後日談に入るかで雰囲気が変わります。
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次回もよろしくお願いします。




