第20話 ぎこちない距離
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は選んだ後の“初デート回”です。
派手な進展はなく、ぎこちなさを大事にしています。
俺は神谷恒一。
一週間計画が終わって、最初の休日。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
寝不足なのに、頭は妙に冴えている。
「……落ち着け」
(……)
「今日は“事後処理フェーズ”だ」
(その言い方やめろ)
変態紳士の声は、以前よりずっと静かだった。
主張はするが、前に出ようとはしない。
「神谷くん」
(なんだ)
「私は観測者に回る」
(……信用していいんだろうな)
駅前。
待ち合わせの十分前。
落ち着かないから、三分前に着いた。
「……早すぎた」
ベンチに腰を下ろし、スマホを眺めるふりをする。
「恒一?」
顔を上げると、桜庭美咲が立っていた。
「……おはよう」
「おはよ」
ぎこちない。
でも、逃げない。
服装は、いつもより少しだけ気合が入っている。
でも、派手じゃない。
「……似合ってる」
思ったことが、口から出た。
「え」
一瞬、固まってから、顔が赤くなる。
「……ありがとう」
沈黙。
「神谷くん」
(……)
「ここで黙るのは、悪手だ」
(分かってる!)
「……どこ行く?」
予定は、決めてある。
でも、確認する。
「駅前のカフェ」
「うん」
それだけで、少し安心した。
歩き出す。
並ぶ距離が、昨日までと違う。
少し近い。
でも、触れない。
「……慣れないね」
美咲が、ぽつりと言う。
「なにが?」
「こういうの」
「……ああ」
初デート。
そう言っていいはずなのに、口に出す勇気はない。
「ねえ」
「なに?」
「選んだって言ってくれた時」
足を止める。
「……嬉しかった」
胸が、きゅっとなる。
「でも」
続ける。
「同時に、怖かった」
「……俺も」
正直に言う。
「選んだ後の方が、怖い」
美咲は、小さく笑った。
「一緒だね」
カフェに入る。
窓際の席。
メニューを開くが、文字が頭に入らない。
「……コーヒーでいい?」
「私も」
注文が終わると、また沈黙。
「神谷くん」
(……)
「沈黙は、必ずしも悪ではない」
(今日はやけに大人しいな)
「経験値が上がった」
(どこでだよ)
コーヒーが運ばれてくる。
「……乾杯?」
「……うん」
カップが軽く触れる。
小さな音。
「ねえ、恒一」
「なに」
「自重、続ける?」
核心だった。
「……全部は、無理だと思う」
「そっか」
「でも」
視線を合わせる。
「隠すのは、やめたい」
美咲は、しばらく黙ってから言った。
「じゃあさ」
「うん」
「おかしくなりそうな時は、言って」
その言葉は、救いだった。
「……頼む」
カフェを出たあと、駅前をぶらぶら歩く。
「手」
美咲が言う。
「……え?」
「つなぐ?」
心臓が跳ねる。
「神谷くん」
(……)
「ここで逃げると、一生後悔する」
(分かってる)
俺は、ゆっくり手を伸ばした。
触れる。
温かい。
「……ぎこちない」
「……うん」
二人で、小さく笑う。
「でも」
美咲が言う。
「ちゃんと、ここにいる」
その言葉で、全てが報われた気がした。
「神谷くん」
(……)
「良好だ」
(評価いらない)
「だが、忠告は一つ」
(なんだ)
「恋人編は、難易度が跳ね上がる」
(……だろうな)
手を繋いだまま、歩く。
自重は、完全には消えない。
変態紳士も、消えない。
でも。
俺はもう、一人じゃない。
第20話を読んでいただき、ありがとうございました。
選択の後に始まる関係は、また別の難しさがあります。
ここからは恋人編として、少しずつ距離を縮めていく予定です。
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次回もよろしくお願いします。




