第19話 選ぶ覚悟
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は物語の大きな山場、主人公が“選ぶ覚悟”を口にする回です。
自重ではなく、選択によって前に進む決断を描きました。
俺は神谷恒一。
一週間計画、最終日。
朝の空は、やけに澄んでいた。
まるで、今日が特別な日だと知っているみたいに。
「神谷くん」
(……)
「いよいよだ」
(分かってる)
頭の中の声は、今日は静かだった。
煽りも、皮肉もない。
ただ、待っている。
教室に入ると、桜庭美咲と目が合った。
彼女は、いつも通り微笑む。
でも、その笑顔は、どこか緊張していた。
少し遅れて、白石凛が入ってくる。
視線が合う。
彼女は、何も言わずに小さく頷いた。
(……二人とも、逃げてない)
「神谷くん」
(……)
「君も、逃げるな」
午前の授業は、ほとんど記憶に残らなかった。
ノートの端に、同じ線を何度も引いていた。
昼休み。
屋上に呼び出したのは、俺の方だった。
「先に、話す」
そう決めていた。
風が強い。
三人分の影が、フェンスの足元に並ぶ。
「……二人とも」
喉が渇く。
「時間、取ってくれてありがとう」
美咲は黙って聞いている。
白石は、視線を逸らさない。
「神谷くん」
(……)
「ここから先は、私の介入を許可する」
(……いらない)
「いや」
心の中で、はっきり否定した。
(今日は、俺が話す)
変態紳士は、黙った。
「俺は」
深く息を吸う。
「ずっと、自分を信用できなかった」
言葉にすると、胸が痛む。
「誰かを選んだら、壊すんじゃないかって」
美咲が、少しだけ眉を寄せる。
「だから、自重して」
「守ってるつもりで」
「……逃げてた」
白石が、静かに頷いた。
「でも」
拳を握る。
「それは、二人に失礼だった」
風の音が、一瞬だけ遠のく。
「選ばれない不安も」
「待たされる怖さも」
「全部、背負わせてた」
美咲が、小さく息を吸う。
「……恒一」
名前を呼ばれても、止まらない。
「だから、今日は」
視線を上げる。
「ちゃんと選ぶ」
変態紳士が、低く囁いた。
「神谷くん」
(……)
「それが、君の覚悟か」
(ああ)
「よろしい」
その声は、穏やかだった。
「まず」
俺は、美咲を見る。
「幼馴染だからとか」
「昔から一緒だからとか」
「そういう理由で、選ぶつもりはない」
胸が締め付けられる。
「でも」
「一番、戻りたい場所がどこかって考えた」
美咲の目が、わずかに揺れた。
「怖くなった時」
「弱くなった時」
「無理しないでいいって思える場所」
言葉を、噛み締める。
「……それは」
次に、白石を見る。
「白石さん」
彼女は、静かに待っている。
「あなたは、俺を前に進ませてくれた」
「逃げない姿勢も」
「踏み込む勇気も」
「全部、尊敬してる」
白石は、少しだけ目を伏せた。
「でも」
胸が痛い。
「一緒にいると、俺は少しだけ“背伸び”してしまう」
正直な言葉だった。
「壊れないように、強がる」
「それは、悪いことじゃない」
「でも、今の俺には」
深呼吸。
「まだ、早い」
沈黙。
風の音だけが、屋上を通り抜ける。
「俺が選ぶのは――」
視線を戻す。
「美咲だ」
はっきりと、言った。
美咲の目から、涙が溢れた。
「……ばか」
震える声。
「遅いよ」
「……ごめん」
「でも」
美咲は笑った。
「逃げなかった」
それだけで、十分だった。
白石は、少しだけ寂しそうに微笑む。
「そっか」
「……ごめん」
「ううん」
首を振る。
「ちゃんと選ばれなかったなら、嫌だった」
その言葉に、救われた。
「神谷くん」
(……)
「決断、完了」
(……)
「私は、もう前に出ない」
変態紳士の声が、少しずつ遠のく。
「君は、自分で選んだ」
(ああ)
「それでいい」
屋上を出る時、白石が言った。
「幸せにしなさい」
「……ありがとう」
残されたのは、美咲と俺。
「ねえ」
「なに」
「自重、やめるの?」
「……全部は、無理だ」
正直に言う。
「でも」
手を伸ばす。
「一緒に、調整してくれ」
美咲は、涙を拭いて笑った。
「任せて」
一週間計画、終了。
俺は選んだ。
逃げずに。
自分の言葉で。
第19話を読んでいただき、ありがとうございました。
恒一は自分の弱さと向き合い、答えを出しました。
ここからは「選んだ後」の物語が始まります。
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次回もよろしくお願いします。




