第18話 限界線
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は変態紳士が限界を迎え、最後通告を出す回です。
いよいよ物語は、最終決断直前まで来ました。
俺は神谷恒一。
一週間計画、六日目。
朝から、頭の中がやけに静かだった。
静かすぎて、逆に嫌な予感がする。
「……おい」
(……)
「神谷くん?」
(……返事しろよ)
変態紳士の声が、いつもより遠い。
「神谷くん」
(……)
「応答がない。これは想定外だ」
登校中の交差点。
信号待ちで立ち止まった瞬間、世界が一瞬だけ滲んだ。
「……っ」
視界の端が、揺れる。
「神谷くん」
(……来るな)
「警告する」
(……)
「君は、感情を抑えすぎた」
(抑えなきゃ、壊れる)
「違う」
声が、低くなる。
「君は“自分”を抑えた」
胸の奥が、軋む。
教室に着くと、桜庭美咲がこちらを見ていた。
昨日の公園での言葉が、まだ胸に残っている。
そして、白石凛は、今日は一度も視線を送ってこない。
それが、逆に重い。
「神谷くん」
(……)
「本日のリスクは、非常に高い」
(分かってる)
「六日目。蓄積が限界を迎える頃合いだ」
(……)
授業中、ノートに書いた文字が歪む。
ペンを握る手が、わずかに震えていた。
「……大丈夫?」
隣の席の美咲が、小声で聞いてくる。
「……大丈夫」
嘘じゃない。
でも、本当でもない。
「神谷くん」
(……)
「今、彼女に触れれば」
(触れない)
「言葉を間違えれば」
(分かってる)
「私が――」
(来るな)
昼休み。
俺は逃げるように、人気のない階段へ向かった。
踊り場。
コンクリートの冷たさが、背中に伝わる。
「……出てくるなよ」
独り言のつもりだった。
「神谷くん」
(……)
「残念だが」
声が、すぐそばにある。
「もう、限界だ」
胸の奥が、熱くなる。
(やめろ……)
「君はよく耐えた」
(……)
「だが、耐えるだけでは、選べない」
(分かってる……!)
視界が、二重になる。
「神谷くん」
(……)
「ここから先は、境界線だ」
(……)
「一歩踏み出せば、私が前に出る」
歯を食いしばる。
「……それでもいい」
思わず、口に出ていた。
「神谷くん」
(……っ)
「今のは、危険な発言だ」
(分かってる)
「でも……」
息が荒くなる。
「誰かを選ぶなら」
(……)
「中途半端な俺じゃ、ダメだ」
沈黙。
変態紳士の声が、少しだけ柔らいだ。
「……理解した」
(……)
「では、条件を提示しよう」
(条件?)
「明日」
低く、静かな声。
「君は“自分の言葉”で、選べ」
(……)
「私の言葉ではない」
(……)
「君自身の覚悟で」
足元が、ぐらりと揺れた。
「神谷くん」
(……)
「それができないなら」
間が空く。
「私は、出る」
はっきりとした宣告だった。
階段を上がると、そこに白石がいた。
「……ここにいると思った」
見透かされている。
「顔、限界だよ」
「……ああ」
否定しなかった。
「明日、だね」
白石は、静かに言う。
「……知ってたのか?」
「なんとなく」
微笑む。
「神谷くん、追い詰められると、分かりやすい」
その言葉に、苦笑するしかなかった。
「無理、しないで」
「……無理しないと、終わらない」
「そっか」
白石は、それ以上言わなかった。
放課後。
美咲が、校門で待っていた。
「……今日」
「うん」
「大丈夫だった?」
その一言が、胸に刺さる。
「……正直に言うと」
一瞬、迷う。
「ギリギリだった」
美咲は、何も言わず、頷いた。
「……明日だね」
「ああ」
短い会話。
でも、全部伝わっている気がした。
「神谷くん」
(……)
「六日目、終了」
(……)
「限界は、超えた」
(……)
「残るは、決断のみだ」
一週間計画、残り一日。
明日、俺は選ぶ。
自分の言葉で。
自分の覚悟で。
――それができなければ、
“俺ではない俺”が、前に出る。
第18話を読んでいただき、ありがとうございました。
恒一は自分の言葉で選ぶか、人格に委ねるかの瀬戸際に立っています。
次回、ついに答えが出ます。
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次回もよろしくお願いします。




