第16話 破りかけた自重
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は主人公が“自重を破りかける瞬間”を描いた回です。
踏み外さなかったこと自体が、物語の前進になります。
俺は神谷恒一。
一週間計画、四日目。
自分でも驚くほど、感情が外に出始めているのが分かる。
抑えているつもりなのに、抑えきれていない。
「神谷くん」
(……)
「自覚がある分、状況は危険だ」
(今さらだろ)
朝の教室。
桜庭美咲は、昨日と変わらない距離にいる。
近すぎず、遠すぎず。
“戻ってきたい場所”という言葉を、思い出させる位置。
一方で、白石凛は、
以前よりもはっきりと、こちらを見るようになった。
(……視線が多い)
「神谷くん」
(……)
「これは、典型的な“板挟み”だ」
(解説いらない)
昼休み。
屋上は風が強く、人が少ない。
俺はフェンスに寄りかかり、空を見上げた。
「……疲れた」
独り言のつもりだった。
「疲れた、か」
声が重なる。
振り向くと、美咲が立っていた。
「……聞こえた?」
「うん」
それだけで、胸が締め付けられる。
「最近さ」
美咲は、少し迷ってから言った。
「恒一、無理してるよね」
「……そう見える?」
「うん」
即答だった。
「笑ってるけど、前みたいじゃない」
フェンスに並ぶ。
「私といる時も、白石さんといる時も」
核心を突かれる。
「神谷くん」
(……)
「ここは、踏み外しやすい局面だ」
(分かってる)
「だが――」
(……)
「君の感情は、今、外に出たがっている」
美咲が、こちらを見る。
「ねえ」
「なに」
「……一週間って、長いよ」
同じ言葉。
でも、今日は違う意味で響いた。
「待つって言ったけど」
「……」
「正直、怖い」
美咲は、笑おうとして失敗した。
「このまま、戻れなくなったらって」
胸の奥が、熱くなる。
「美咲」
名前を呼んだ瞬間、何かが外れそうになった。
「……好き」
喉まで出かかった言葉。
「神谷くん」
(……っ!)
「今は、まだだ」
(分かってる……!)
歯を食いしばる。
「……ごめん」
「え?」
「今、答えを出すのは……違う」
美咲は、一瞬だけ目を見開き、すぐに頷いた。
「……うん」
でも、その声は少し震えていた。
「ありがとう」
それが、余計につらい。
屋上を出ると、今度は廊下で白石に呼び止められた。
「神谷くん」
「……なに」
「顔、赤い」
「……気のせいだ」
「違う」
白石は、静かに言う。
「今、踏みかけたでしょ」
図星だった。
「……少し」
「それでも、止まった」
白石は、少しだけ安心したように息を吐く。
「それでいい」
「……いいのか?」
「いいよ」
迷いなく言う。
「壊れるより、ずっと」
放課後、一人で帰る道。
夕焼けが、やけに眩しい。
「神谷くん」
(……)
「今のは、非常に危険だった」
(分かってる)
「だが、評価すべき点もある」
(……)
「君は、自重を破らなかった」
(……)
「正確には、“破りかけて戻った”」
足を止める。
「それって……」
「進歩だ」
変態紳士の声は、いつもより穏やかだった。
「だが」
(……)
「次は、戻れないかもしれない」
一週間計画、四日目。
自重は、薄氷の上にある。
だが同時に、俺は初めて――
本気で誰かを選ぶ覚悟を、意識し始めていた。
第16話を読んでいただき、ありがとうございました。
恒一は一歩、感情の核心に近づきました。
残りの期限は、もう半分を切っています。
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次回もよろしくお願いします。




