第15話 踏み込む距離
【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】
今回は白石凛が距離を一気に詰める回です。
境界線を守りつつ踏み込む、彼女なりの本気を描いています。
俺は神谷恒一。
一週間計画が始まって、三日目。
自分でも分かるくらい、少しだけ呼吸が楽になっていた。
逃げない。
自重はするが、目は逸らさない。
――そんな、都合のいい状態が長く続くはずもなかった。
「神谷くん」
(……来た)
放課後、教室を出ようとしたところで声をかけられる。
白石凛だった。
「今日、少し時間ある?」
「……あるけど」
迷いは、なかった。
逃げないと決めた以上、断る理由はない。
「じゃあ、図書室」
いつもの場所。
静かで、人が少なくて、誤解を生みやすい場所。
「神谷くん」
(……)
「警戒を推奨する」
(今さら言うな)
図書室に入ると、白石は迷わず奥の席へ向かった。
窓際。
あの日と同じ。
「座って」
「……ああ」
二人きり。
距離は、机一つ分。
「期限、始まってるよね」
白石は、単刀直入だった。
「うん」
「私、待つって言った?」
「……言ってない」
「でしょ」
小さく笑う。
「だから、今日は“踏み込む日”」
心臓が、嫌な音を立てる。
「神谷くん」
(……)
「彼女は、本気だ」
(分かってる)
「だから、私も本気で行く」
白石は、椅子を少し引き、立ち上がった。
そして、一歩前へ。
距離が、一気に縮まる。
「……近い」
思わず口に出ていた。
「うん」
否定しない。
「でも、触らない」
白石は、両手を自分の胸の前で組む。
「安心して」
その言葉が、逆に心拍数を上げる。
「神谷くん」
(……)
「私ね、あなたが“壊れるの”を怖がってるの、分かる」
(……)
「だから、境界線は守る」
視線が、真っ直ぐだった。
「でも」
さらに一歩。
「距離は、詰める」
机の端に、背中が当たる。
(……っ)
「変態紳士」
(……)
「ここは非常に危険だ」
(言われなくても分かる)
「だが――」
(……)
「彼女は、紳士的だ」
(お前が言うな)
白石は、声を落とした。
「神谷くん」
「……なに」
「私は、選ばれたい」
直球だった。
「でも、無理やりは嫌」
「……」
「だから」
一瞬だけ、視線を逸らす。
「あなたが“逃げないでここにいる”ことが、私の条件」
胸が、痛い。
「それって……」
「プレッシャー?」
「……少し」
正直に言うと、白石は小さく笑った。
「ごめん」
「でも」
視線が戻る。
「本音」
沈黙。
逃げない。
今は、それだけで精一杯だ。
「……分かった」
「うん」
白石は、少しだけ距離を戻した。
「今日は、ここまで」
あっさりしている。
「神谷くん」
(……)
「今日、私が踏み込んだのは」
(……)
「あなたが“踏み外さない”って信じてるから」
その言葉は、優しくて、重かった。
図書室を出ると、廊下の先に見慣れた影があった。
桜庭|美咲だ。
目が合う。
何も言わない。
でも、見ていたのは分かった。
「神谷くん」
(……)
「三日目にして、計画は大きく揺さぶられた」
(ああ……)
「だが、君は踏み外していない」
(……)
「評価しよう」
(評価いらない)
美咲は、ゆっくり近づいてくる。
「……今日」
「うん」
「白石さんと、話した?」
嘘はつかないと決めている。
「……話した」
美咲は、少しだけ目を伏せた。
「そっか」
それだけ。
だが、その一言に、重さが詰まっていた。
一週間計画、三日目。
距離は、確実に詰まり始めている。
だが、選択はまだ先だ。
そして俺は、気づき始めていた。
――自重は、もう俺を守っていない。
守っているのは、覚悟だけだ。
第15話を読んでいただき、ありがとうございました。
白石の行動、美咲の沈黙、そして恒一の覚悟。
一週間計画は、想定以上の速度で動いています。
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次回もよろしくお願いします。




