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第10話 境界線

【俺は幼馴染が好きだ!!~だが変態紳士という二重人格のせいで自重します~】


今回は、変態紳士が“表に出かける寸前”まで行く回です。

ここから主人公の内面問題が、表の展開に直結していきます。

 俺は神谷(かみや)恒一(こういち)

 美咲に「はっきりして」と言われてから、一晩が経った。


 眠れなかった。

 正確には、眠ろうとすると“声”がうるさかった。


「神谷くん」


(……)


「思考が停滞している。これは良くない兆候だ」


(分かってるよ)


「では、提案しよう」


(嫌な予感しかしない)


 朝の通学路。

 いつもと同じ景色なのに、足取りはやけに重い。


「君は、選ぶことを恐れている」


(違う)


「選んだ結果、自分が“壊す”ことを恐れている」


(……)


 言い返せなかった。


「だから自重という名の停止を選んだ」


(……)


「だが、それは既に破綻している」


 変態紳士の声は、いつもより低く、静かだった。


「神谷くん」


(なんだよ)


「次に彼女と話すとき、君は耐えきれない」


(……)


「その瞬間、私が前に出る」


 背筋が凍った。


(やめろ)


「安心したまえ。私は“紳士”だ」


(それが一番信用できない!)


 教室に入ると、空気が張り詰めていた。

 桜庭(さくらば)美咲(みさき)は、こちらを一度も見ない。

 白石(しらいし)(りん)は、逆に一瞬だけ目を合わせてきた。


「神谷くん」


(頼むから今日は静かにしてくれ)


「既に三角形の張力は限界値だ」


(やめろって言ってるだろ)


 昼休み。

 机に突っ伏していると、声をかけられた。


「神谷くん」


 白石だった。


「……今、いい?」


「少しなら」


 その瞬間、胸の奥がざわつく。


「警告する」


(黙れ)


「今この状況で二人きりは――」


(大丈夫だ)


 白石は、俺の表情をじっと見つめてきた。


「……限界?」


「え?」


「顔」


 白石は、少しだけ眉を下げる。


「無理してる」


「……」


「今日、桜庭さんと話すんでしょ」


 核心を突かれた。


「うん」


「逃げないって、決めた?」


 その問いに、喉が詰まる。


「……分からない」


 正直な答えだった。


 その瞬間。


「――交代を提案する」


(っ……!)


 視界が、わずかに揺れた。


「神谷くん」


(やめろ……!)


「君の理性は限界だ」


(まだ……!)


 胸の奥が熱くなる。

 言葉が、勝手に喉元まで上がってくる。


「白石さん」


 声が、少し違う。


「……なに?」


「君は、非常に理性的で魅力的だ」


(やめろォ!)


 白石が目を見開く。


「え……?」


「だが今の君に応えることは、倫理的にも感情的にも――」


 歯を食いしばる。


(止まれ……!)


「――不誠実だ」


 ぎりぎりで、言葉をねじ曲げた。


 視界が、元に戻る。


「……今の、なに?」


 白石は困惑している。


「……ごめん」


 俺は深く息を吐いた。


「今日は、少し……調子が悪い」


「……そっか」


 白石は、それ以上踏み込まなかった。


「でも」


 静かに言う。


「無理は、しないで」


 去っていく背中を見送りながら、俺は震える手を握りしめた。


「神谷くん」


(……)


「今のは“前兆”だ」


(……)


「次は、止められないかもしれない」


 放課後が、迫っている。


 美咲と話す約束。

 選ばなければならない時間。


 ――そして、その境界線の向こうには、

 “俺ではない俺”が、立っている。

第10話を読んでいただき、ありがとうございました。

恒一の自重は限界に達し、二重人格の存在が現実に影響し始めました。

次回、いよいよ大きな選択の場面に入ります。

続きが気になりましたら、ブックマーク・評価で応援していただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。

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