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第七話「ごはん」

「ど、どうした?」


 ドギマギしすぎて、俺の声は震えてはいないだろうか。

 いや、きっと緊張していたのだろう。

 しかしアルムの質問によって、俺の緊張は霧散することになる。


「あの、送ってきてくれたものの中を見たんだけど、どうやって食べればいいのか、全然わからなくて……」

「え……ああ、そうなんだ」

「ご、ごめんね? だから、食べ方を教えてもらえるかな?」

「うん、いいよ」

「あ、ありがとう! じゃあ、早速これから――」


 そうして、俺はアルムに送った食べ物の説明を始めた。

 そりゃそうだ。こっちの世界でだって日本の食べ物は色々と特殊で、わからないものが多いらしいし、ましてやあっちは異世界なのだ。わからないのが当然だった。


「この四角くて白いのは、何? どうやって食べればいいの?」


 アルムが初めに手に取ったのは、カトウのごはん。四角くて平べったい容器に入ったご飯だ。


「ああ、それはお米を炊いたものだ。白い部分が下で……そうそう。で、上の薄い部分を端から剥がせば中身が食べられる。できれば温めたほうがいいけどな」

「あ、そうなんだね。……これってお米? なんだか私の知ってるお米とは違うんだけど」

「そうなのか? というかお米ってそっちでもあるのか」

「あ、うん。私が食べたのは、東の暑い地方の国だったかなあ。これよりはもっと細長い感じで、ちょっと独特の匂いがしたけど、これはいい匂いだね」

「なるほど。こっちの世界でも、そういう米はあるよ。ただ品種が違うだけで、同じものだ」


 アルムの言う細長い米といえば、多分タイ米とか、そういう米と一緒だろう。

 気候的にも、多分そっちが近いのではと感じた。


「ちょっと、食べてみてもいい?」

「おう、ぜひとも食べてみてくれ」

「じゃあ、ちょっとだけ……。あ、おいしい……」


 アルムは器の端っこから少しだけ指先でつまみ、口に運ぶ。そして咀嚼して飲み込んで、小さく笑みを浮かべた。

 どうやら気に入ってくれたようだ。


「これならいくらでも食べられそうだよ。でもこれ、いつまでもつのかな? いっぱい送ってくれたのは嬉しいんだけど、あまり日持ちがしそうにないよね?」

「それは封を開けなければ、十カ月はもつぞ?」

「え? ……えっ? 十カ月?」


 このカトウのごはんだが、賞味期限が意外と長いのだ。調べてみたら、なんと製造日より常温保存で十カ月ももつとのこと。

 まあ、だからこそ送る食糧に入れたのだが。

 カトウのごはんがなんでこんなにも日持ちが良いのか、その秘密を握るのは、ズバリ「無菌化包装」だ。なんでも餅業界で初めてとなる無菌化包装の技術を開発したカトウ食品は、その技術を応用し製造工程の自動化を実現させ、これにより微生物の混入を防げることから、炊き立てごはんをそのままパックし、常温保存で十カ月は美味しく食べられるカトウのごはんの開発に成功したのだ。

 ちなみに発売当初の賞味期限は八ヵ月だったらしい。しかパックの改良や無菌化包装技術の進化など、たゆまぬ企業努力のおかげで十カ月という賞味期限を実現できたのだという。

 アルムが驚くのも無理はない。何せ、俺でさえ驚いたのだから。


「えっと……十カ月って、一カ月の十倍、だよね? ……本当に?」

「おう。その通りだ。ちなみにそっちでは一カ月は何日なんだ?」

「一カ月は三十日だけど……。そっちは、一カ月は何日なの?」

「こっちも大体同じだな。十カ月だと、三百日くらいだ」

「そ、そんな……」


 なんだか予想以上にショックを受けているみたいだな。少し心配になってしまうほどだ。


「大丈夫か?」

「ご、ごめん。ちょっと驚いちゃって」


 それは見ればわかる。


「でも、すごいんだね。流石異世界って感じ。こっちでも食糧保存の魔法はあるけど、もってせいぜい一カ月くらいだし、時止めの魔法を食糧に使うことなんてないし。マサのところでは、すごく魔法が発達してるんだね」

「いや、魔法じゃないぞ」

「え?」

「俺の世界に魔法はないからな」


 俺の言葉に、アルムは更に驚くことになった。


「……え? え? どういうこと? 魔法じゃないなら、どうやって、こんな……?」

「これは技術だ。俺の国は、こういった技術が発達している国でな」

「ぎじゅつ……? それって、鍛冶とかと一緒の? でも、あれだって魔法は使われてるし」

「鍛冶に魔法? あー、そっちではそうなのか?」

「うん。だって、火をおこすことだってそうだし、ドワーフ達の鉄を打つ槌にも、場面によって使い分ける魔術式が施されてるって聞いたよ」

「そういった魔術式とやらが使われていないで、作られているものはないのか?」

「そう、だね。地域によっては原始的な方法……魔術なしで鍛冶をすることもあるけど、あまり聞かないかな」

「そうなのか。でもまあ、一応あるんだな」

「あ、でもマサは魔術の仕事をしているんでしょ? あれ? なのに魔法がないの?」

「あー、俺の職業について、説明しやすいように確かにそう言ってしまったんだが、正確にはちょっと違う」


 それから俺は技術について、コンピュータやら電気のことについて説明したが、アルムにはピンときていないようだった。


「えーと、ごめんなさい。私にはよくわからないや……」

「あ、いやこちらこそ、説明がうまくできなくてすまん」

「ううん。でも要するに、こっちと同じような魔法はなくても、マサの世界にはそれよりもすごい魔法みたいな技術があるってことだよね? それがこのお米の保存にも使われてるんだ」


 話をしていてわかったことだが、アルムは頭がいい。

 こんな風に細かい技術は理解できなくとも、それを置き換えておおよその概要を掴むことができているのだから。

 ちなみにゲームなんかではよくある、無限の収納袋のような魔法具はないらしい。

 まあそもそもそんなものがあるなら、アルムたちが食糧に困ることなんてなかっただろう。

 でも気になることがあった。

 実はアルムのやつ、俺と話をしながら、カトウのご飯を常に口に運んでいるのだ。

 モグモグと口を動かして、なくなれば次のパックを手にしている。アルムは常にモグモグタイムだった。

 それほど腹が減っていたのか? いや、それにしても限度がある。


「あのさ、アルム」

「もぐもぐ……なに?」

「お前それ、いくつ目だ?」

「……え?」


 手が止まり、恐る恐る視線を下へと向けるアルムは、何かを目にして固まった。


「あ、アハハ……」


 誤魔化すように笑うが、口元は引きつっている。


「アルム、そこにいくつ、空の容器が転がっている?」

「アハハハハ……」

「……アルム?」


 再度名前を呼ぶと、観念したように彼女は呟いた。


「えと…………七個」

「な、七個!?」


 よく食べるなとは思っていたが、まさかそれほどまでとは思わなかった。

 送ったカトウのごはんは全部で五十パック。すでに七分の一を消費してしまったということだ。


「いや……まあ、それはアルムのものだから、どう消費してもらっても構わないんだが」

「あ、そ、そうだよね!」

「でも、他の仲間たちはいいのか?」

「……はうっ!?」


 こいつ、今気づいたのか。

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