第三話「魔法?」
「新着メッセージ?」
もう一口ジュースを口に含み、俺はホーム画面をチェックする。
すると、ついさっき俺がメッセージを送った勇者アルムから、メッセージが届いていた。
「はやっ!?」
思わず声に出してしまう俺はきっと悪くない。
だって時間にして、多分一分くらいのことなのだ。
俺はその驚異の返信スピードに戦慄を覚えつつも、そのメッセージを開く。
普通はこうやって届いたメッセージを開くのに、課金が必要になることがほとんどなのだが、問題なく開いて読むことができるようだ。
「なになに? 『はじめまして、マサさん。メッセージをありがとうございます! 私は勇者アルムといいます。おっしゃる通り、私は魔王討伐の旅の中にいます。マサさんの職業はエスイーとありますが、どんな職業なんですか?』か。……なるほどなるほど。あくまでも設定を貫くということか。ならば――」
俺はブルートゥースのキーボードを取り出し、メッセージを作る。
やっぱり仕事柄パソコンを使うことが多いので、このほうが断然早い。
あっという間にメッセージは完成した。
あまり気負うことも無いので、内容は適当に自己紹介である。
『こんにちは、返信ありがとうございます! こんなに早く返信がもらえるなんて思っていませんでした。俺の職業ですが、正式にはシステムエンジニアという職業になります。色々なシステムエンジニアがいますが、俺の場合は社内SEというやつで、社内のシステムの管理が主になります。セキュリティや運用、端末の管理しています』
返事はまたすぐに来た。
この自称勇者な子は、文章を打つのが非常に早い。
タブレット端末なのか、それともスマホなのかは知らないが、これだけしっかり使いこなせていて、異世界出身はないだろう。
ちなみにこのメッセージ欄は、チャットのような仕様になっているらしい。
既読マークもしっかりついている。
『ちょっと私には難しく、マサさんの職業を理解することはできないかもしれません。申し訳ありません』
『いえいえ、気にしないでください』
このアルムという子は、なかなかサービス精神が旺盛だった。
あまり踏み込んだことも聞いてこないし、わからないことはわからないと素直に言うタイプのようだ。
それからは、会話がどんどんと続いた。
『マサさんのお仕事は恐らく、魔術に関するとても高度なことのように思いますが、違いますか?』
『魔術、ですか。まあ確かに似たようなものかもしれません。高度に発達した技術は魔法と同じだと言いますからね』
『やっぱり! そうならば是非貴方に助言をいただきたいのですが』
『助言ですか? 俺に答えることができるのならば、構いませんが』
『ありがとうございます!』
『いえいえ』
『実は私たちは今、魔王城の一歩手前まで来ています。しかし小高い山の向こうに、魔王城とみられる建物の屋根も見えているのですが、進むことができないのです』
『進むことができない? それは、どういう……?』
『恐らくは結界です。見えない壁のようなもの我々を阻むのです』
『結界、ですか。それは壊すことはできないんですか?』
『勿論試しました。しかしどんな攻撃を加えても、びくともしないんです』
結界、ねえ。魔王城を守る結界とは、またテンプレな感じだな。多分、魔王城の周りに結界を発生させるために設置された、三か所以上の装置があるはず。テンプレならば、多分塔のようなもので、そこには中ボス的なやつが守っているだろうなあ。テンプレならばそこの中ボスは、今まで倒した敵が蘇ったとか、因縁の相手だったりするのだが。
そんなことを伝えると、確かにそんなような塔が建っているらしい。数は五つ。
『ありがとうございます! 早速装置を破壊しにいきます!』
『いえいえ。でも気を付けてくださいね』
『はい! あっ、それで、是非ともお礼を』
『そんな、気にしないでいいですよ』
急にお礼とか言われても、どうやって受け取るんだ?
勇者アルムは魔王城の近くなんだろ? というか、この設定はいつまで続くのか。
意外と楽しいからいいけど。
「そもそも、今日は暇だったからな……って、返事か」
『そんなわけにはいきません! 貴方の知識のおかげで私たちは前に進める。世界が救われるのですから!』
俺が適当に答えたアドバイスで世界が救われるかもしれない。
……いや、明らかに持ち上げすぎだろう。
『本当に気にしないでいいですよ。俺は大したことはしていません。……ですがそうですね、本当に恩を感じてくれているのなら、何か貴方との繋がりを示すものが欲しいです』
我ながら無茶ブリだと思った。
そんなものがあるはずもない。送ることができるはずもない。サイトの会員登録の際に、電話番号はおろか、住所も入力していないのだから。だからメールアドレスか電話番号か、はたまたRINEのIDなんかを教えてもらえれば御の字だと思ったのだ。
だが返ってきたメッセージは、俺が予想もしていないものだった。
『わかりました。では私の持っている指輪を差し上げます。これはとある国の王から賜ったものなのですが、私には今や必要のないものですので。この転送機能というものを使えばいいのですね? やってみますので、少し待ってください』
「え? 指輪? 転送機能? 一体なんのことを言ってるんだ……?」
疑問を口に出してみるが、当然それに答えてくれる声はない。
果たしてその現象はすぐに起こった。
「……え? え? えええ!?」
最初、目の前に現れたのは小さな光だった。
真っ白い小さな光は、何もない空間に現れ、みるみるうちに大きくなっていった。
大体五百円玉くらいの大きさになるのに、二、三秒くらい。
そして突如光は光を失い、カツンと音を立てて床に落ちたのは、銀色の指輪だった。
茫然と床に落ちた指輪を見るしかなかった。
だって、急にこんなことが起こるなんて、予想なんてできないだろう?
なにもないところから、指輪が光とともに現れた。
まるで魔法だ。
俺が呆然としていると、タブレットに新着メッセージが届いたという通知があった。
『どうでしょうか? ちゃんと送れましたか? 魔法は作動していたので、大丈夫だと思いますが』