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第二話「送ってみた」

 俺は恐る恐る目を開けた。

 まるでカメラのフラッシュのような光だったが、壊れてないだろうな!?


「……良かった。特に壊れてないみたいだな」


 一通りチェックしたが、問題はなかった。一応あとでウイルスチェックだけでもかけておこう。

 ブラウザに戻ると、開かれているのは例のマッチングサイトの画面。

 『ようこそ』といったシンプルな文字が表示されている。まさか個人情報をこれでもかと入力させて、情報を抜き取るだけの詐欺サイトなのかと思ったが、その文字にもリンクが張られている。しかしなんでこんな作りにしたのだろう? もっといろいろと装飾しなければ、利用者は増えないんじゃないか? そんな疑問を胸に、俺は先に進める。

 すると俺は開かれたページに、大いに驚かされることとなる。

 表示されたのは、色々な女の子の写真と、それに付随した簡単なプロフィール。

 これは他のマッチングサイトでも同じようなものだろう。このページの作り自体に驚きはない。

 驚いたのは、表示されている女の子がみんな美人、もしくは可愛いこと。

 それともうひとつ。むしろこっちが驚いていることのメインだ。


「すっげえコスプレだな……。というか、全員レベル高すぎ」


 そう、表示されている女の子全員、鎧を着ていたり、魔法使いっぽい恰好をしていたりしていたのだ。エルフのような長い耳をした子もいる。ケモミミをつけた子もいれば、瞳孔が縦に開いている子もいた。

 どれもこれも、本物かと見紛うものばかりだ。多分CGなんだろうけども。


「はー……。なんていうか、すごいな。こういう特殊な趣味を持った子たちばかりだから、メールのやりとりくらい無料にしないと人が集まらないのか? でも、何のゲームが元ネタなのかさっぱりわからん」


 恐らく海外のゲームなのだろう。見た目的に、日本人みたいな子は少なかった。

 別に俺はコスプレとか嫌いじゃないから、こういうような子と話すのも面白いかもしれない。ただ問題は言葉の壁である。


「えーっと、すごい美人とかばっかりだから、できればお試しでメッセージとか送ってみたいんだけど、日本語でいいのか? それとも英語? これはゴーグル先生の翻訳頼みか? でもサイト自体は日本語だし、というか女の子の名前も日本語になってるな。コスプレが好きとあって、みんな日本語が堪能なのか?」


 名前については、例えば『アリス』という名前だとしたら、英語ならば『alice』と表記するだろう。実際先ほど確認した海外向けのマッチングサイトはそんな感じだった。


「まあ、いいか。とりあえず試しにメッセージでも送ってみるかな」


 そうして俺は、表示されている写真をスクロールして眺め、一人の少女のプロフィールを開いた。

 その子の名前はアルム。歳は19歳。

 黒髪のボーイッシュな髪の毛を見るに、少年に見えなくもないが、プロフィール欄では女性となっている。肌は焼けているのか、汚れているのか、それとももともとの色なのかはわからないが、比較的黒い。顔立ちは少しエキゾチックな印象を受けるが、くりくりっとした目と小さな鼻に口。日本人によく似ていた。まあだからこそ、目に留まったのだが。

 写真ではバストアップの写真しか掲載されていないのだが、それでもクオリティの高さは窺い知ることができる。

 頭に着けているリング状の額当ては鈍い金属で、重厚な印象だ。傷ついた跡までも表現されており、まるで本物のように見えた。首元にはマントをしているのだが、これまた安っぽい生地ではない。これまた汚れ処理してあるのだが、ベルベットのような光沢をもった美しいものだ。そのマントの下には、金属の鈍い輝きが見える。恐らく鎧を着ているのだろう。

 一体、どれだけの金がかかっているのやら。


「職業は勇者か。うん。確かに勇者っぽい。つか、徹底してるな!?」


 その他のプロフィールを見ていくと、名前、性別、年齢、職業、身長、体重、利き腕などの欄に混じって、得意魔法やら、称号なんてものまであった。

 ちなみに得意魔法は『雷系』で、称号は『光降の勇者』である。

 勇者で得意魔法が雷系か。

 なるほど、そういえば恰好も、あの国民的ロールプレイングゲームの勇者に似ている気がしなくもない。多分この子はあの勇者の恰好をアレンジしたのだろう。 

 出身地も『アリムガン』と、なんとなく似ている。

 というか出身地も設定なのか!?


「なんだか、少し気分が萎えたな……」


 なんというか、これは手の込んだジョークサイトなのかもしれない。

 少なくとも、ちゃんとした――というマッチングサイトがあるのかはわからないが、少なくともこの子達と会える可能性は極めて低いだろう。


「……ということは俺、無駄に個人情報取られたってことか? うわー、やっちまった」


 まあクレジットカードとか、身分証明書を送ったわけではないので、せいぜい迷惑メールが来るくらいだろうから大丈夫だけど。あっ、でも顔写真は登録してしまった。


「まあしょうがない。なるようになるだろ」


 そう自分を納得させて、俺はこの勇者アルムに送るメッセージを考えた。

 ちなみに勇者アルムのひと言コメントは『こんにちは、私は勇者です。真剣な出会いを求めています』とのことだった。

 ……勇者で真剣な出会いってなんだろう?


『こんにちは、マサっていいます。プロフィール見ました。あなたが勇者様だと知って驚きました。任務はやはり魔王討伐ですか? 俺は日本でSEをしています。もし良かったら返信もらえると嬉しいです』


 文章自体はちょっと固いかもと思ったが、とりあえずファーストコンタクトはこんな感じで皮肉がきいていていいだろう。


「……よし、送った。返信はあまり期待できないけど、暇つぶしには丁度いいか」


 喉が少し乾いたので、席を立って冷蔵庫からペットボトルのジュースを出す。

 蓋をあけて一口中身を口に含んでタブレットに目を移すと、『新着メッセージがあります』と表示された小さなお知らせ窓が開かれているのに気が付いた。


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