第十二話「思いつき」
綺麗に揃った声に、俺は思わず苦笑するしかなかった。
まるで事前に練習でもしていたかのような完璧なハモり具合に、少しの圧力すら感じてしまう。
だがそれも悪い気はしない。皆、それぞれの思いを胸に、目の前のことに真剣なのだろう。
そうして約束を取り付けたことで満足したのか、ブルミスとミリア、それにフルタンの三人は、タブレットの画面の外へと消えていった。
画面に残ったのはジョリー一人。彼女も軽く会釈をして、立ち去ろうとしたその時、ふと気になることが脳裏をよぎった。
「――あっ、そういえばさ。ゴミってどうした? かなりの量が出たはずだろ?」
缶詰の空き缶に、ビニール包装、それにプラスチック容器の数々。
日用品を送ったことで、向こうにも相当なゴミが出たはずだ。
……こっちの感覚で考えれば、石油製品も金属も自然に分解されるものじゃない。向こうの環境に悪影響がないか、気になる。
ジョリーは俺の問いに、少し肩をすくめながら簡潔に答えた。
「ああ、あれなら燃やしてしまったけれど、いけなかったかしら?」
思わず顔をしかめてしまう。
「燃やした? ああー……まあ、問題はないけどさ、燃やすと有害な煙が出るから、あんまりオススメはできないな」
空気を汚すし、吸い込めば身体にも悪い。現代日本でも、野焼きは禁止されているし、正直ちょっと心配だ。
だがジョリーは至って平然としていた。
「有害……? そういえば、嗅ぎ慣れない変な臭いがしたわね。あれがそうかしら?」
「うん、多分それだな。別にすぐに影響が出るわけじゃないけど、吸わないに越したことはないよ」
「わかった。今度からは気をつけるわ」
軽く頷くジョリーの表情は変わらず落ち着いていた。慌てる様子もない。
まあ、実際に被害が出ていなければそれでいいけど、次からは処理方法を考えないと……。
「もし処分に困るようなら、ゴミを箱にまとめて送ってくれれば、こっちで処理するからさ」
「ええ、ありがとう。でも――」
ジョリーは一拍置いて、何かを考える素振りを見せた。
少しの沈黙。何か思いついたらしい彼女の目が、不意に輝く。
「有害ということは……つまり毒、よね? これを魔物相手に使えないかしら?」
その発想はなかった。思わず目を瞬かせる。
「うーん……いや、そんなに強力な毒にはならないと思うけどなあ」
「そう? でもそっか、有害って言うくらいだし、煙を吸った私たちに影響があるくらいなら……」
毒――魔物に効くかもしれない、という視点は面白い。
彼女たちにとっては日常の脅威なんだろう。少しでも勝機があるなら、どんな手段でも使いたいという気概を感じた。
そして「毒」と聞いて、俺の中にある知識が反応する。
「……あ、ひとつだけ思いついたものがあるぞ」
「え? なになに?」
ちょっとした化学知識が、こんな場面で役に立つとは思わなかった。
思いついたのは、洗剤。しかも、あの組み合わせだ。
「洗剤だよ。掃除用のやつで、塩素系のと酸性タイプのを混ぜると、有毒なガスが出るってのは有名な話でな」
俺の説明に、ジョリーは真剣な眼差しで頷いた。
「毒の煙、ということ? それは……どれくらい危険なの?」
「いや、自殺に使われるくらいには、って感じだな。密閉空間なら致死レベルだし、吸い込めば命に関わる」
少し言葉を濁しながらも、本気の危険性を伝える。冗談で済ませられるレベルではない。
でも、戦場での道具と考えれば、有用だろう。
「それは……武器になるわね。相手に吸わせられるならだけど」
「ま、取り扱い注意だけどな」
さらにもう一つ、俺は付け加える。
「毒じゃないけど、石油ってのもある。燃える液体で、引火すると一気に燃え上がるんだ」
「ふうん、燃える液体……。使いどころがありそうね」
ジョリーは何かを考えるように視線を落とし、小さく唇を動かす。
戦術として思い描いているのだろう。その真剣な顔に、思わずこちらも気が引き締まる。
「じゃあ、その二つも送ってもらうことはできる?」
「ああ、問題ないよ。ホームセンターに行けばすぐ手に入るし」
「助かるわ」
会話が終わる頃、ふとタブレットに映る背景が薄暗くなっているのに気づいた。
向こうも日が傾いているのだろうか。
「そういえば、アルムは?」
「まだすねているんじゃないかしら? そのうち復活するから大丈夫よ。それよりもさっさとお願いね」
くすっと笑うジョリー。
俺も苦笑しながら、「はいはい」と応じた。
――結局あの後、アルムは顔を出さなかった。
カトウのごはんを気に入っていたようだし、また送ってやればいいだろうか?
今度はふりかけも付けて。きっと喜ぶだろうな……。
ふと、顔を見ることができないことに、ほんの少し寂しさを覚える。
だが――彼女が笑う姿を想像すれば、胸が温かくなるのを感じた。
時計を見れば、もうすぐ午後四時。
俺は車の鍵を手に取り、玄関を出た。春の日差しが西へ傾き始め、街は柔らかな色に染まっている。
エンジンの音が響く中、自然と口元に笑みが浮かんでいた。
「よし、行ってくるか――」




