第一話「暇つぶしからはじめてみた」
随分前に別のPNで投稿したものです。
未完ではありますが消してしまうのも忍びないので、こちらで投稿します。
できれば続きを書いていきたい作品ですので、気長にやっていこうと思っています。
「あー……、暇だ」
久しぶりの休日。俺は朝飯にカップラーメンを食べた後、そんなことを呟いていた。
折角の休みだ。色々と普段できないことをやればいい。そう思うだろうが、どうにも気力が湧かなかった。さっき食べたカップラーメンが少し麺がのびていて、あまり美味くなかったことも原因の一つなのかもしれない。
映画を見ようとしたのだが、どうにも見たい映画が見つからない。
ゲームをしようとしたのだが、タイトルが表示されただけでおなか一杯だ。
読書をしても、最初の二ページで飽きてしまう。
何か気分が乗っていればこんなことはないのだが、俺は疲れているのだろうか?
疲れているのなら、寝ていればいいと言われるかもしれない。だが普段朝六時に起きている俺からすれば、今日はゆっくりと九時まで寝ることができた。いつもよりも大分寝ていられた。おかげで眠くはない。
友達とどこかへ出かけようとしても、今日は用事があるからと断られてしまった。それぞれに繋がりのない三人に別々に声をかけたというのに、だ。
俺はそれ以上別の友達に声をかけようとは思わなくなってしまった。出かける気力が失せたのだ。
「暇だ……。なんだか怠いし……」
この怠さはなんなのだろう?
何物も抗えない、絶対的な宇宙の力のような気さえしてくる。
「……このままではいかんな」
この無気力に対抗する為、何かネタはないかとタブレットを手にしてネットの世界に潜る。
はじめはいつもチェックしているサイトから始まり、気の向くままにニュースサイトなどをサーフィンしていく。
そして俺は、あるニュースサイトに表示されていた広告で、この気を紛らわすのに最適なものを見つけたのだ。
俺の目の先にあるのは、綺麗な女の子が笑顔を浮かべている広告。そこには素敵な女性との出会い。という文句が点滅していた。
「あー、マッチングサイトか」
ここ数年、俺に彼女はいない。
最後に付き合っていた彼女とは、結婚間近だったと思うが別れてしまった。
付き合っているときはなかなかいい感じだったのだが、結婚ということが現実味を帯びてくると同時に、色々と意見の食い違いが出てきたのだ。
結局、俺も彼女も互いの意見を譲ることができず、結婚はお流れ。今思えば、所謂価値観の違いというやつが大きかったのだと思う。
思えばひと肌が恋しく思う。
マッチングサイト。暇つぶしとしてはちょうどいいのではないかと思ったのだ。
とはいっても。
「マッチングサイトといっても、色々あるしなあ」
そう、単純にマッチングサイトといってもいろいろとある。
遊び目的の人たちが集まるサイトから、真剣な出会いを求めている人たち向けのサイト。年齢層なんかも結構違ってくるらしい。
「ああ、外国人とのマッチングサイトってのもあるのか」
検索して出てきたサイトの中には、外国人が多く登録しているサイトというものが出てきた。
「でも、うーん。外国人ねえ」
試しにそのサイトを開いてみると、確かに外国人女性が多数登録しているようで、多くの写真が表示された。
中にはとても美人な人も多いのだが、そうでもない人も当然多い。
「そりゃそうだよな。というかそもそも、言葉の壁があるから、なかなかなあ。日本語が堪能に話せるなら、全然いいんだけど」
そのサイトはどうやら英語圏の人たち向けのサイトらしかった。
見たところ、自己紹介文などもすべて英語なようだ。
なんとか英語を読むことはできるが、喋ることは難しい。
俺は金髪美女に後ろ髪を引かれながら、そのサイトを閉じた。
「やっぱり、日本向けのマッチングサイトがいいかな……」
狙いを絞り、俺はそこからどのサイトにするのかを吟味していく。
下手に大きなところだとサクラなんかもいそうな気がするし、年齢層や傾向を考えなくてはならない。
何しろ俺はもう今年で三十になる。今はまだギリギリ二十台だが、遊び相手を探す気はないのだ。
いや、まあ遊びたい気持ちももちろんあるのだが。
サイトの評判や、システム、金額を吟味していく。
ただ基本的にどのサイトも同じで、課金しなければろくに相手とのやり取りもできないようだった。
「課金かあ。さすがにいきなり課金は勇気がいるよな」
さっきからどうにも独り言が多い気がする。
一人暮らしが多くなると、こういうことが多くなるような気がする。
このままではやばい。こんな状況を早く打開しなければ、と、俄然やる気が出てきた。
そんな中、俺は検索結果一覧に表示された、あるサイトに目を引かれた。
「おっ! メールのやりとりが無料のマッチングサイト? ここいいじゃん!」
その踊り文句に思わずタップする。
そして開かれたのは、なんともシンプルな趣のサイトだった。
トップページにあるのは、白の背景に黒字で『Meet Different WorldS』とあるだけ。
リンクが張られているのはその黒字のみだ。
女性なりなんなりの画像が張られて、出会いたい気持ちを促進するような作りになっているのが普通だと思っていた。だがこのサイトにはそれがない。本当に出会い系のサイトなのか、疑わしいほどである。
「直訳すると、異世界との出会い、か? なんだか意味深だな」
とりあえず、リンクをタップする。
「まずは会員登録か? えーと、メールアドレスとパスワードだけ、か。最近はアカウントがメールアドレスっていうサイトが増えたよな」
俺は出会い系用に取得したメールアドレスを入力し、適当なパスワードを設定する。
すると確認用のメールが届いたので、メール内のリンクをタップして、会員登録を完了させた。
「次はプロフィールの設定か」
本名の『白井正孝』と入力し、その下にニックネームの入力欄があったので、『マサ』と入力した。
年齢は二十九歳。仕事はSE。趣味は読書と映画、あと旅行。
別に嘘をつく必要も、盛る必要もないと思ったので、サクサク進めていく。
「年収の入力とかもあるのか。あと、国籍とか、話す言語も。以外とインターナショナルなサイトなのか?」
なんだか、主食とかの欄もある。フリーワードだったので、米と入力しておいた。
結婚歴、子供の数、目の色、髪の色、髪質。髭の有無。……本当に細かいな。個人情報がダダ漏れじゃないか。最近はこんな感じが普通なのか?
「……やっと最後か。なになに? 自己ピーアールか。一番苦手な奴だな。適当に書いておいて、また修正すればいいか。『はじめまして、マサといいます。住んでいる場所は山梨県です。良い出会いがあればと思って登録しました。よろしくお願いします。』と。これでいいかな」
登録ボタンをタップすると、今入力した内容の確認ページが表示された。
特に問題はない。これでもう一度登録ボタンをタップすれば、登録が完了するはずだ。
「ポチッとな。って、うわ!?」
すると、一瞬強い光がタブレットの画面から放たれ、俺は眩しさに目を細めた。