姉妹
誰にも分からない。
私達家族が、どんな気持ちでこの3年を生き抜いてきたか!
父は焼身自殺し、借金だらけで火の車。
お嬢様と周りに褒めそやされて学校でも地方の名士の娘として生きてきた。
それが突然何もかも失った。
皆に不憫だ可哀想だと憐れみの目で見られる人生へ。
専業主婦で働いたことの無い母と控えめで繊細な妹。
周りは受験だ大学だと話しているのに、美鈴には先生も誰もそんな話はして来ない。
家を売り、母の実家のある京都に行く事になっているので
周りは腫れ物のように遠巻きで眺めている。
私達家族だけ時が止まったような別空間にいるみたい。
携帯で見て楽しんでただけの動画。
自分もスパチャを投げて楽しんでたが、それを貰う事に決めた。
「私だって稼いでやる!」
涙なんか要らない。
楽しいワクワクする元気な動画を!
女子高生の制服動画は見てもらいやすい。
容姿は良い方らしいと言われていたので、思いっきり
アイドルやKポップ風メイクを勉強して、数字持ってる人の動画と似たダンス動画をまず上げた。
ショート動画で見てもらうには動きや音楽が、とても大事だ。
毎日毎日上げた。
スパチャも稼げたが、同時に変な誘いも増えた。
これじゃダメだと妹にも動画作りを手伝って貰って
撮影編集して本格的にユーチュバーデビューした。
交渉や企画は美鈴がやり、引っ込み思案な市子には
撮影や編集を手伝って貰った。
市子は京都の高校に3年だけ転校で色々人間関係も大変だったろう。
でも2人で受験勉強もしながら撮影編集しながらコツコツ稼いで
本当に2人3脚でやってきたのだ!
父が死んだ悲しみも苦しみも姉妹で乗り越えてきたのだ。
「あなたに市子の何が分かるのよ!」アキラに食って掛かる。
「お前にアイツの気持ちが分かるのかよ?
分からないから、アイツの部屋の扉が叩けないんだろ?」アキラに図星を突かれる。
動画が人気となると共にお金の心配が無くなると共に市子と美鈴の間には見えない壁みたいなものが出来ていった。
大学入学しても市子を守る為に偽名で他人になったが、市子は納得しきってはいなかった気がする。
2人で『ヒミコ』だと思っていたのに、急に部外者みたいな扱いにされたのだ。
美鈴は、市子に自分が出来ない普通の女子大生を体験させてあげたかっただけだが、
果たして市子がその気持ちを完全に分かっていてくれたのか?
美鈴にも自信が無いのだ。
家族でご飯を食べなくなってきた市子。
大学の友人と過ごす時間を増やしていた市子の気持ちは、
美鈴には根本的には分からない部分だった。
有名人として孤高の人生を歩みだした美鈴と
平凡な女子大生になろうとしてた市子
姉妹の心は微妙なすれ違いを始めていた所だった。
そこで急に市子の平凡な女子大生の人生が突然絶たれた。
姉のようなカリスマの道も普通の人生も、もう市子には無い。動画編集しか、もう自分の存在理由が見つからない。
友人に助けを呼んでも聞いてくれない。
良く知らない男の下に組み敷かれ、その男が飽きたら
次の男にそしてまた次の男に…
もう自分が人間のように感じられない。
モノなのだ。
私はモノ!
姉の都合で、友人の都合で、男の都合で、私は人間じゃない。
心が消えていく。人間じゃないモノが身体を支配していく。
深い深い闇の中に消えていく。
元々私はモノだったのかも…最初から…