女王ヒミコ
「何?今のは…???」グイグイと校門外にエスコートと言うか引っ張られながら美鈴はアキラに聞く。
がニヤニヤしながら完全無視だ。
後ろから走って付いてくる見波が、言いにくそうに話す。
「アキラはね、シャーマンみたいな能力あるんだよ。
まあ信じなくても良いけどね。
もし、ヒミコが望むなら携帯のデータ消させることも出来るよ。」
そこまで聞いた所でアキラはタクシーを捕まえて美鈴を押し込んだ。
「お前が目立てば、俺も動きやすくなる。
俺に命じろ!女王様。
まあ代金ははずんでもらうがな。」
とタクシーの扉を閉めようとしたが、ヒミコがアキラの腕を掴み、持っていたリュックサックを扉につっかえていた。
「危ないだろ!」アキラが怒鳴る。
「タクシーに乗りなさい!見波君も乗って!
ちょっとじっくり話し聞かないとね…」
美鈴の目がギラギラ光った。
美鈴と市子の住んでる場所は、太秦映画村の近くだ。
母の実家がそこにあるので、父が亡くなった3年前から
お世話になっている。
母はアキラの事を知っていたようで、
「まあ奈良の同じニュータウンの子なんて、
すごい偶然ね〜」とお茶を出しながら喜んでいる。
「なんで市子は知らなかったんだろ?同い年なのに?」
美鈴が首をひねると、
「知ってたと思うよ〜ただ、小学6年の時はスゴく有名だったけど、アキラ君中学高校と全然噂きかなくなって…
次、名前聞いた時は、水球の国体選手なっててビックリしたから。」
「へ〜そうなんだ。」美鈴は初耳だ。
「まあ、ニュータウンのお母さん達の情報網で聞いてるから、市子より私の方がアキラ君には詳しいかも?」
母が、すっかり居座って話してる。
「霊媒師として死者の声を聞いたり背後霊と会話できたり凄かったんだから〜」嬉々として過去のアキラの話をする。
「それより市子はどうなの?お母さん」美鈴が聞く。
母の顔が途端に曇った。
「軽井沢のお友達の別荘でテニスするって行ったのにね〜
まさか、そんな不良学生の溜まり場になってたなんて!
その子達の親って、どうなってるの?
こんなのレイプじゃない!」
「お母さん!声大きい。」美鈴が口元に指を立てる。
「ああ〜そうね〜、ゴメンね。しゃべりすぎたわ。」
そう言って母は部屋から出て行った。
「さて、元霊媒少年のアキラ君。
なんで私に近付いたの?で、何をしたいの?」
隣の部屋には妹がいる。出来るだけ小さな声で話す。
「こっちもビックリだぜ。お前、あの豪邸の娘だったんだな。
市子に姉ちゃんいるのは知ってたが。
まさか、それが『ヒミコ』とは。」アキラも驚いてキョロキョロしている。
「なんだ?市子知ってるの?」
「友達の友達くらいの距離かな?顔は知ってるくらいの感じ。」
地元が一緒だと知ると、何かリラックスしてしまう。
一気に和やかな空気になる。
「秋津島は、有間さんに付いて行くはずだったのになあ〜僕だけ仲間はずれだ。」見波が文句を言う。
「市子も部屋から出て来て話せたら良いんだけどね…」美鈴が小さな声で話す。
ふとアキラの眉間にシワが寄る。
「すごいヤバい気が集まって来てるぞ。
市子に取り憑き来てるんだろなあ〜」と市子の部屋の方の壁を心配そうに見てる。
「そういうの分かるの?」美鈴が聞く。
「悪霊だな。コイツも憑かれて死にかけたよ。」
アキラが見波を指さす。
「えっ、市子は大丈夫なの?」
「うん、集まってるのが違うな。女達だ。女達が集まって来てる。誓願寺行ってお祓いの札貰って来たほうが良いと思うぞ。」
アキラが清少納言で有名な女人往生寺の誓願寺を勧めた。
「ありがとう。母に話して御札貰ってくるわ。
でも、アキラ君は払ったりできないの?」
少し沈黙して、「俺だと払うじゃなく焼き殺してしまうから
市子の精神も一緒にやっちまうんだよ。」
アキラが済まなそうに言う。
さつき、広告研究会のヤリサー達も急に泣いたり喚いたり大変だった。
アキラの力は、人の精神を言葉で破壊する事も出来るようだ。
「あいつらの背後霊はなかなか強烈でね。
幼い頃に祖父や父親母親から、かなりのプレッシャー掛けられて育ってるんだよ。
あいつらの行動にすごく怒ってるから、ちょっと聞こえたり見えたり出来るようにしてやると
下手な悪霊より恐いんだろなあ〜知らんけど。」
「あ〜そう言うことか〜」美鈴は納得した。
我が子や孫がやってる愚行を見せられてるご先祖様の気持ちになったら…それは取り殺したいくらいかもしれん…
自尊心も高い人が多そうだし…
「えっ、いつまで見えるの?ずっと?」美鈴はヤリサー共が不憫になってきた。
「俺が離れたら半日くらいで消えると思うけど。
まあ、もう下半身は使いもんならなくなるんじゃないかな?」
またアキラがニヤニヤしてる。
「なによ!」気になって聞く。
「術かける時、『ヒミコ様の力を思い知れ!』って言ってるから、
明日から誰もお前に近付かないよ〜良かったな☆」
イジメっ子みたいな顔で美鈴を見た。
そうアキラは、小学生の時に有名なっていく自分が
怖くなったのだ。
それで力をセーブしてた。
夏休みに見波に会った時も出来るだけ目立たないように使いたく無さそうだった。
『安倍晴明の再来』なんか成りたくないのだ。
人を助けてもバケモノを見るような顔で畏怖される。
人は遠ざかり孤独になっていくのだ。
だが、ヒミコに全部なすりつけて下僕を装えば、やりたい放題だ。
アキラは、ヒミコを依り代に使う気なのだ。