ボディーガード
大学にお願いして学生証の名前も「金子美鈴」と偽名にし
行き帰りはタクシーを使っている。
それでも顔が下手な芸能人より知れ渡っているので
大学の構内すら危ない。
今も教室に向かう通路を男子学生が数人で塞いで話しかけてくる。
「ねえねえ、ヒミコちゃんだろ?」
「スカすなよ?同じ大学だし仲良くしょうよ?」
「…」
無視して通り抜けたいが、数人で塞ぐので通れない。
「ジャマだよ。退けよ。」ガタイの良い学生が言いながら身体で通路をこじあける。
ピタッと後ろに付いて美鈴も通り抜けた。
ホッとしたのも束の間、通路を塞いでた学生が、ガタイの良い男の肩を掴んだ。
「おい!何ぶつかって来てんだよ!」
すぐさまその手を汚そうに払い学生が反論する。
「お前らが廊下塞いでるのがジャマなんだよ。
分かるだろ?子供じゃあるまいし!」
1人が突っかかろうとしたが、他の学生が止める。
「水球のアキラだぞ、ヤメとけ。勝ち目ないから…」
たむろってた学生はアッと言う間に散った。
ガタイの良い学生の後をピッタリついて美鈴が歩くと
スゴい風通しが良くなった。
いつもはジロジロと見られ、隙あらばにじり寄ってくるのに
今は、目線も合わないし十戎のモーゼが進むと海が割れて通路が出来たように人波も消える。
『この人、スゴい!』美鈴は半ば憧れの目でアキラの後頭部を見つめた。
「ねえ、なんでヒミコがアキラの後ろ居るの?」
見波が後ろの美鈴を見ながら横に座って講義を聞くアキラに聞いてる。
学内で使えそうな人脈は学長から仕入れてる。
大学入って最初のスポンサーに名乗り出たのが学長だったから。
タイアップ動画もすでに出してる。
見波が丹波の黒豆メーカーの御曹司なのも把握済みだ。
がアキラと呼ばれる学生の話は聞いてなかった。
スポーツ選手はあまり意識してなかった。
やはり金の匂いのする学生の情報ばかり仕入れていたから。
廊下からへばり付いてたら同じ講座を取っていたようだ。
階段教室の1番後ろ、アキラの背にピッタリ隠れていると本当にストレスが無い。
常にある人の視線が全然集まらない!
久々の快適さに美鈴は、このガタイの良い男と仲良さそうな横の丹波の御曹司をどう使うか?
頭を巡らせていた。
動画配信者の性なのだ。
携帯でアキラの情報を調べる。
この大学で学部も同じだった。学年が同じと言うことは妹と同い年。
妹とは学内で絶対関わらないので前の方の席で友人達と楽しそうにしてる。
動画配信者なって嫌なことも沢山あるが、父が生きてたら
きっと自分も妹もこうやって大学入って友達と楽しく大学生活送ってたはず!
父が死んで大学も行けなくて、大学生を横目に働くなんて!
絶対イヤだった!
そんな現実!絶対受け入れたくない!
それが美鈴のモチベーションだった。
自分は結局あまり学生生活エンジョイはできてないが、
妹が普通に暮らしてる様子みるとホッとした。
まあ、もう自分は会社経営者になってほぼほぼ心は社会人だが…
講義が終わり席を立つアキラに声を掛ける。
「あの水球部の有名なアキラ君だよね?
そして見波くん。」
急に声を掛けられて見波の方が、
「えっ、何で知ってるの?」とヒミコいや美鈴の方を見た。
「知ってるよ〜黒豆は毎年食べてるもの。特に見波くん家のは美味しいと(高くて)有名だもん。」
思いっきり媚媚の笑顔で話しかける。
アキラは振り返らない。前へスタスタ歩いていく。
「ねっ、さっきはありがとうね。助かったよ!
学内も安全じゃないんだよね。
アキラ君に引っ付いて歩いてたから安心して講義受けられたよ!」
走ってアキラの前に回り込む。
配信だって、ほとんど交渉と根回しが大事!
撮影許可取りから完成した動画も許可を貰ってからUPする。
そこらへんで手抜きした配信者はどんどん消えていった。
スポンサーや視聴者に好かれる動画内容も大事。
美鈴のヒミコは、小学生から大学生くらいがターゲットだ。
法令遵守しながらキャッチーで斬新でもある。
日本人形のような容姿で京都の美味しいお店でドカ食いしたり、職人の手伝いして大失敗したり、
5分の動画の中にストーリーとインパクトを仕込む。
海外の視聴者が多いのも強みだ。
英語でどこまでお店やホテルで通用するのか?
そんな企画もしている。
アキラは身体を使った企画で使える。
見波は飲食企画で使える。
何より安全な大学生活のために絶対取り込みたい相手なのだ!
さっき調べたら水球部のスケジュールがかなり立て込んでる。バイトの時間は無いはずだ。
見波は前から様子を探ってたが、夏休み明けからバイトしてる様子は無い。
「ねっ、バイト代はずむから2人でボディーガードなってくれない?
学内だけで良いの!講義がほとんど一緒だから、その時だけ!
そばに居て欲しいの!
もう大学出たらすぐタクシー乗るし私は!」
無視してガンガン前に進むアキラを手で押し止めて頭を下げた。