怨霊=神
「どこの家も大変なんだなあ〜
この頃殺人事件の半分以上が親子兄弟ってのも
分かるよ。」
なんか見波が納得してる。
アキラのそばにいるせいで霊や怨霊に慣れすぎてるのかもしれない…
「さあ、そろそろ覚悟できたか?
入鹿さんに遠回しに釘さされたが、それは市子自身が決める事だ。
怨霊は確かに神だからな。あながち間違ってないぞ。
天神様の菅原道真も怨霊だからな。
市子も怨霊から神になるかもな。」
アキラがニヤニヤしながらブヨブヨと姿を変える女達の集合体となった市子に手を伸ばす。
市子のような物はジリジリと後ろに下がる。
「お母さん、お姉ちゃん、助けて!」とやっと言ったが、それが市子なのか?
他のバケモノが言わせているのか?
もう分からない。
母も美鈴も何も言えない。
「全部悪霊を焼き殺す!残ったのが市子本体だ。
最悪死ぬかもしれないが、覚悟してくれ!」
アキラがまた低い空間が歪むようの発声をして何体もの人間の集合体のような市子に触れた。
ギャアギャアとあちこちから悲鳴が聞こえる。
だんだん身体が萎んでいく。
レンジで焼かれすぎた肉みたいに黒く小さく縮こまっていく。
死ぬかもしれない。でも、この姿で人を呪い殺し続けさす訳にもいかない。
ヒミコは母親を抱えながら、その様子を見つめるしか無かった。
全て焼き払われ、市子がグッタリ倒れている。
「市子!」と2人で抱き起こしたがうわ言のように
「私は神なの!万能の神なの!
愚かな民よ、ひざまずけ!」とドしょうもない戯言をほざいていた。
病院へ運んで、薬を飲むとやっと妄言はおさまった。
ついた病名は「統合失調症」
薬を飲めば、何とか正気を保てるらしい。
が、もう大学復帰は難しいだろうと。
まず本人に行く気がもう無かった。
奇しくも同じ病院に市子の友人が通院していた。
ノイローゼらしい。
九条の父親がヒミコの動画の件で弁護士を立てて来たが、なぜか引っ込めた。
祖母や妻が裁判を嫌ったらしい。
イタリア留学したメンバーは、日本人ドミトリーに住んだせいで村の祭りのトリィフ狩りでカエンダケを隠し取って来たルームメイトに盛られて殺された。
渋谷センター街で薬中仲間に刺されたのは仲間がヒミコの動画で市子と共鳴したせいだった。
そして、九条はクラブに居る時にすでに幻覚剤を飲まされタクシーが捕まらないと言われウーバーに乗せられ深泥池に沈められた。
九条の父は地道に探偵を雇い調べたが、親族に止められてしまった。
レイプに触れずに話を進められない以上、どこまで
争えるか?
殺人教唆を立証するのも立件するのも、加工した本人が精神病となり難しかったのだ。
九条の父親は、息子を守りたかったのだろうが、愛し方育て方を間違えてしまったようだ。
結局、後味の悪い事件?騒動となってしまった。
美鈴は、本名の「蘇我日美子」で学生証を作り直し大学に通い出した。
もうボディーガードも要らない。
ヤリサーの問題、あの不気味な連続事故とヒミコの動画のウワサは瞬く間に広がり登録者は激減した。
もう有名人でもカリスマでもインフルエンサーでもない。
惰性で動画を続けてるだけだ。
父に言われた言葉が気になって、まだ動画作りを辞めていない。
「ヨッ、ヒミコ元気か?」
アキラが馴れ馴れしくヒミコの肩を叩く。
「痛いなあ〜元気だよ。
今日から東山のお宅の下宿引っ越すから、よろしく〜」
肩をさすりながら頭を下げる。
妹の市子が東山のサナトリウムに入る事になった。
母や祖母祖父とも気まずくなり家を出る事にしたのだ。
アキラを連れてきた事、市子をあんな風にしたのは
やはりヒミコのせい?
そんな空気が家に漂うのだ。
命は助かったが、ただ生きてるだけ。
薬を切らすと暴れるので、やはり入院させることに
なった。
人を呪うと言う事は、こういう結果を生む。
死亡したヤリサー達の家族も元々そんな子供は居なかったかのように暮らし、
市子を誘った友人も大学を辞め通院していると。
これが現実、結果だった。
「ヒミコさんの憧れの学生生活じゃん。下宿も楽しいよ。
アキラはすぐキレるけどね。よろしく。」
見波が改めて蘇我日美子に握手する。
本当にポジティブで良い人なのだなと改めて思う。
「お前がチンタラしててKYだからだろ!
ヒミコに呪詛の力があると噂も充分広まったし、
僕は動きやすくなった。ありがとな。」
アキラは当たり前のように、ヒミコの前にドカッと座る。
コイツはムカつく!
が、本当に市子に殺されかけた時助けてくれた。
多分動画を作れなかったら殺されていた気がする。
悪霊に取り憑かれた市子は本当に怖かった。
「ねえ、市子はもう大丈夫なの?」
後ろの席からコソッと聞く。
「悪霊がついてもパソコンが無ければ何もできないはずなんだが…正直分からん!」
実家を出ておいて良かった。
いつか妹を本当に…
首を振って妄想を打ち消す。
『お父さんも、市子と母を見守ると言ってくれたし!
大丈夫!』
ふと、なんで自分は入ってないのか?娘なのに?と疑問がわく。
『私には要らないって事?』
前のデカい背中を見る。
さり気なく好奇の目にさらされないようにしてくれてる
その背中を。