4-14. 揺り起こされる嫉妬
約3,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
特別小隊の残りはジュイオの命令によって、リッドやオティアンに目もくれず、クレアやエミハマス、イライドと女性ばかりが集まる後衛側へと向かっていた。
すべてはジュイオの命令である「エミハマスを捕える」ためであり、もう失敗が許されないと冷や汗もかきながらの進撃でもある。ジュイオがリッドやオティアンを相手に立ち回っている間に、特別小隊の亡霊たちはどうにか目的を達成しようとエミハマス目掛けて動くだけに注力し過ぎた。
そう、自分たちが下位や低位と呼ばれる亡霊であることを忘れるくらい。
「GUUUUU!」
「GIIII!」
警戒もせずにクレアの攻撃範囲に入ってきた亡霊たちは、目の前で【屍霊浄化】を繰り出されてしまう。
【屍霊浄化】は、聖女や聖女見習いと呼ばれる特別な者たちだけが使える固有の魔法だ。亡霊およびアンデッドなどの屍霊系と呼ばれる魔物を浄化して存在そのものをこの世から消す魔法の一種であり、その効果は絶大的だが、効果のある魔物の種類が決まっているために使いどころが非常に限定的でもある。
「やった……」
クレアが青い瞳で亡霊たちを見据えて金色の髪を揺らしながら安堵の表情を浮かべる。彼女はエミハマスの数歩前に進み出ていて、この【屍霊浄化】が亡霊たちの救済となるように祈りながら発動していた。
「AAA……」
「VAAA……」
「OOO……」
亡霊数名は瞬く間に浄化されていき、何がしかの安堵を覚えた顔で消え去っていく。
「ねえ、クレア」
「はい、なんでしょうか。イライドさん」
クレアとともにエミハマスを守るべく並び立つイライドが少し不安げな様子でクレアに話しかけた。
クレアはイライドからの不穏な雰囲気を感じ取りつつ、次の【屍霊浄化】の準備で体内の魔力を練り込むようにしていく。
「……エミハマスも亡霊じゃないかしら?」
イライドが後ろを振り向きたくないとばかりに少し上ずった声でクレアにそう伝えた。
【屍霊浄化】の効果が継続していて、淡い光に包まれている2人に流れるしばしの沈黙。
エミハマスもまたダンジョンが遺している亡霊の一種である。
「……ああっ!? エミー!?」
「???」
クレアが思わず叫びながら後ろを振り向くと、エミハマスは【屍霊浄化】の淡い光に包まれつつも、何ともないかのようにニコニコニコとした笑顔のままで首を傾げているだけだった。
「あ……えっと……よかった……」
クレアはエミハマスに影響がなかったという安堵とともに、エミハマスに少しも影響がなかったことで困ったように俯き始める。
「あら、まるで効いていないようね。話せるような上位の亡霊だからかしら?」
「はい……そう……ですね。良くも悪くも、まだまだ研鑽が足りていないってことですね……」
イライドの歯に衣着せぬ言い方に、クレアは未熟者の烙印を自らに押してがっくりと肩を落としつつ、目的を順調に果たせているもどかしさに小難しい表情を浮かべていた。
そのクレア以上に面白くない者もいる。
「……聖女、見習いと言ったところか、ふんっ!」
ジュイオは、エミハマスはもちろんのこと、クレアやイライドもどこか格下に見ていたこともあって、この反撃を見て眉間にシワが寄っていた。
「はあっ!」
「でえええええいっ!」
リッドやオティアンが油断できないように、ジュイオもまた彼ら相手に油断などできない。全員が一挙手一投足のすべてに神経を鋭敏にさせるも、突破口を誰一人見つけられずに膠着状態にも似た様相を呈してきていた。
「ちっ! 何をしている! 早く捕えよ!」
だからこそ、戦況を変えるには亡霊たちがクレアやイライドを倒し、エミハマスを捕える必要があるのだが、誰と戦えど歯が立たない自軍の精鋭にジュイオが苛立ちを募らせていく。
その彼の苛立ちは八つ当たりのように、リッドやオティアンにぶつけられていった。
「いい【屍霊浄化】だ!」
「あ、ありがとうございます……」
クレアが青い瞳を少し曇らせて落ち込んでいることなど露知らず、リッドは短い言葉で褒めていた。
「次の【屍霊浄化】まで、イライドも頼むぞ!」
リッドがジュイオの猛攻を受け流したり躱したりしている中で、クレアとの連携を取るようにイライドにも声を掛ける。
しかし、イライドは魔力こそ練っていて準備万端だが、その表情が露骨なまでに嫌そうだった。
「リッド、あなたが私に指図をしていいわけじゃないわ」
「え? っと! くっ!」
リッドは思わずイライドを一瞥してから素っ頓狂な声を出してしまい、その隙をジュイオに狙われて危うく大怪我を負うところだった。
「私はウィノーさまの——」
「イライドォォォォォッ!」
ウィノーのいつになく甲高い声が大きな部屋中に響いた。
「は、はいいいいいっ!」
ウィノーが怒っていることは火を見るより明らかで、イライドはビクンと身体を大きく震わせてからビシッと背筋をこれ以上伸びないくらいに伸ばしてウィノーの方をババッと振り向いた。
「前にも言ったはずニャ! 戦闘時はリッドの指示もオレの指示のようなもんニャ! こんな状況で子どもみたいにごねるんじゃないニャ! 早くするニャ!」
ウィノーはジュイオとの戦闘に参加できていないものの、絶妙な距離感でいつでも【不本意な操り人形】を発動できるように動き回っていた。
そのような緊張の中でイライドの態度に腹を立てるのも無理はない。
「あわわ、はい! ウィノーさま! 仰せのままに! 【魅惑の果実】! からの【異界の剣客はよく魔力を喰う剣客だ】!」
イライドが【魅惑の果実】と叫んでから現れた赤茶色の魔力球を部屋の天井近くまで浮かせ、その上で別で練り上げていた魔力を指に込めてパチンと鳴らす。
次の瞬間、彼女の前に人が通れるほどの黒い穴が突如として現れ、その穴の中から勢いよく青白い人影が這い出てくる。
「GAHAHAHAHAHA!」
異界の剣客と呼ばれた人影が輪郭を明らかにしていくと、目が窪んでいて眼球が見えず、顔は骨に青白い薄皮の肌だけが貼り付いているような痩せこけたものだった。
剣客の装備は一般的な戦士職といった様子で、青白い金属製の鎧で顔以外の全身を覆い、大男と言っても差支えのない剣客の2倍はあるであろう刀身の大剣を両手で持って豪快に振り回し始める。
リッドは以前対峙した異界の剣客と少しばかり容姿が異なっていることに気付いた。
「異界の者か。どうして我の下には雑魚しか集まらないのだろうな。欲しい、あの力も貴様らのような有能な駒も、欲しいのに、なぜ手に入らぬ……」
不意にジュイオが歯をギリリと鳴らして、羨ましがるような素振りを見せた。
「いいわね、報酬は後よ。敵を早く蹴散らしてちょうだい。名誉挽回、ウィノーさまにいいところを見せるときなのよ!」
イライドは頭上に見える【魅惑の果実】を指差した後、次に目の前にいる亡霊たちを指差して「敵」だと異界の剣客に認識させた。
「GAHAHAHAHAHA!」
異界の剣客は承知したとばかりに大剣を振り回して、驚き突っ立つ亡霊たちの下へと横薙ぎの一閃を繰り出した。
「GUUUUU!」
「AAAAA!」
「HYAGUA!?」
大剣の届く範囲にいた3体の亡霊が瞬く間に腹部を境に上下に分かれて消え去っていく。異界の剣客はつまらなそうな顔で残りの亡霊たちを見る。
残りの亡霊は様子見とばかりに距離を取っているが、臆していることの裏返しでもあって、もはや覆せる戦況でもなかった。
「KI!」
「KYA!」
「YA!」
破れかぶれに残りの亡霊たちが一斉に異界の剣客へとなだれ込む。
負けることを覚悟しながらも、逃げることを選ばずに一撃でも与えようとする気迫。
だが、気迫で押し通せる実力差ではない。
「……NUOOOOO!」
これで終わりとでも言いたげに、異界の剣客が再び横薙ぎの一閃で残りの亡霊を掻っ攫っていく。
もう特別小隊は一人も残っていない。
あとはジュイオただ一人を残すばかりだった。
「……この雑魚どもが! なぜそこまで弱い? なぜ我の命令を遂行できぬ! どうして、我はこのような雑魚しか得られぬのだ!」
再びジュイオの怒りが見る見るうちに膨れ上がって露わになった。
お読みいただきありがとうございました。




