4-7. 待ち構える忠義の騎士
約3,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
時はリッドがクレアたちと意図せず二手に分かれてしまった直後まで遡る。
リッドはハトオロとともにダンジョンの調査を行いつつも足早に最奥を目指していた。最奥こそダンジョンのボス級がいる場所であり、クレアたちと合流できる可能性の高い場所でもあった。
「KAKAKAKAKA!」
どこから出したかも不明な音を出すのは、白骨と化してもなお軽鎧を纏って動き回る白骨の戦士とう屍霊系の魔物だ。
魔力で動く白骨の戦士は骨だけの細い腕で両刃剣や戦斧などの武器を振り回している。しかし、白骨の戦士の動きはあまり速くなく、リッドの髪の毛一本さえも掠めることができない。
「URAAAAA!」
白骨の戦士とともに現れたのは、全身甲冑だけで中身がない動き出す鎧である。ただし、こちらも動き自体は緩慢なため、リッドの速さについていけずに多少動く的くらいにしかならない。
次々と現れる白骨の戦士や動き出す鎧などを相手に、リッドは1人で大立ち回りをしている。
一方のハトオロは、少し離れた場所で様子を窺っていた。
「邪魔だ! 犀角突!」
「UUU……」
「AAA……」
リッドは勢いよく敵の眼前まで駆け出して突き上げるように拳をアッパーカットで繰り出す。その拳を受けた骨や鎧が衝撃に耐えられず空中へと放り上げられて粉々になって分解していく。
ハトオロは小さな拍手とともに歩き出す。
「全く危うくはないですが、数が多いと骨が折れますね」
「骨を折れば動かなくなる。骨折り損にはならないさ」
「とはいえ、そろそろお疲れでしょう? 私も手伝いましょうか」
ハトオロの申し出にリッドは首を横に振った。
「いや、まだいい。身体もようやく温まってきたくらいだしな。もちろん、この後に強敵が出た時には頼むさ」
「なるほど。ご自身の骨は折らないようにしてくださいね」
「そうだな、気を付ける」
リッドとハトオロはギルドから指定されている調査ルートを丁寧になぞるように進んでいく。その間にも次々と屍霊系の魔物が現れるが、魔力の少なくなってきているダンジョンということもあってか、リッドたちが想定している数よりは若干少なかった。
「今日はいい天気ですねえ」
「あぁ、月が出ているな」
「そう、いい月ですね。こんな夜には一曲披露しましょうか?」
「俺は構わないが、感想は求めるなよ?」
「それは残念です。やめておきましょう。早くクレアさんたちと合流したいものですね」
「そうだな。やはり心配は募るからな」
ハトオロは沈黙に耐えられないのか、ことあるごとにリッドに話しかけているが、一方のリッドは沈黙も無言も気に掛けた様子がなく、あっさりとした返答ばかりを繰り返す。
「クレアさんの【屍霊浄化】があれば、もっと早く済むのでしょうね」
「まったくだ。聖女見習いの重要性を再認識できたな」
「まあ、リッドさんの潜るダンジョンが屍霊系の多くなるダンジョンばかりですからね」
「何かしらの強い想いに、屍霊は群がるものだからな」
リッドたちが扉を蹴破って次の場所へと移動すると、奥まで伸びる細い一本道で、今までと比にならないほどの屍霊系の魔物が群れをなしていた。
「HYAHYAHYA!」
「KOROOOOO!」
「KUUUUUTAAAAA!」
侵入者であるリッドたちに気付いた魔物たちが一斉にリッドの方へと向かっていく。
「狭い通路に密集してくるとは、敵も脳がない割に考えていますね」
「まあ、まとまっていた方が好都合だ。いくぞ、閃掌底!」
目にも止まらぬスピードで繰り出されるリッドの掌底が動き出す鎧の錆びた腹部に大穴を開けて吹き飛んでいく。吹き飛んだ鎧がいくつかの敵を巻き込んで奥へと消えて行った。
「SYAAAAA!」
吹き飛び瓦解する動き出す鎧を避けられた白骨の騎士たちの突剣が一斉にリッドへと迫るも、リッドは跳躍して上へと難なく避けた。
「踏潰連脚!」
リッドは足に力を込めていくつもの頭蓋骨を踏み岩のようにして動く白骨たちの波を渡り歩いていく。
「リッドさん、もっと派手な技も出せますか? このままじゃ英雄譚がパっとしません!」
ハトオロは敵の攻撃を右へ左へと避けつつも、リッドに戦闘中らしからぬ要求を言い始める。
「別にパっとしなくてもいい……って、主旨が変わっているんだが……」
リッドがハトオロに呆れた後、再び大きく跳んだ。
「GIGIGIGIGI!」
「砕けろ! 落雷踵」
リッドは落ちる勢いに加えて、白骨の戦士の頭蓋骨を目掛けて踵を振り落とした。
「GYA!」
「リッドさん、せめて舞のような技はありませんか?」
「……ったく、仕方ない。巨虎爪牙閃撃!」
迫りくる白骨の戦士や白骨の騎士たちの攻撃を静かに無駄のない動きで避けながら、正拳突きや足刀、回し蹴り、掌底などのいくつかの攻撃パターンを組み合わせて連撃を放っていく。
1つ1つが致命傷となる攻撃に魔物たちは為す術もなくただの骨へと変わっていった。
「おぉ! 1つ1つがしっかりとした一撃にも関わらず、流れるように繰り出されていく連撃はたしかに舞のよう! 躱す動きも無駄がなく、まあ、舞というよりは演武のようですがいいですねえ」
「そう大真面目に解説されると恥ずかしいものがあるな……」
「AAAAA……」
「で、お気に召したか?」
リッドが通路にいたすべての魔物を蹴散らし終えてハトオロに訊ねると、ハトオロは今までで一番大きな拍手
をリッドに送っていた。
「素晴らしい! ええ、ただ、もっと軽やかな感じのもお願いできますか」
追加の注文にリッドは嫌そうな顔を隠さない。
「……お前相手になら繰り出してやってもいいが」
「おぉ! では、今度安全な場所でぜひとも」
「……本気か、というより、正気か?」
リッドの手を取り、ハトオロが両手で握手をしながらぶんぶんと上下に振っている。
軽口のつもりで呟いたはずのリッドがうんざりした様子で目を背けていた。
「っと、そんなこんなでそろそろ最奥ですかね」
「そのようだな。思ったよりも進んで退屈もしなかったな」
「私との会話もよいアクセントだったでしょう?」
「会話というより、もはや後半はただの要求だったような……」
リッドはもはや乾いた笑いくらいしか出てこなかった。
「細かいことは言いっこなしですよ。さて、この扉を開けましょう」
「早くクレアたちと合流できるといいんだが」
リッドが力を込めて扉を押すと、扉は重そうな鈍い音を立てながら開いていく。
今までの通路や小部屋と異なる大きな部屋がリッドを待ち受けていた。
採光のために大きく取られていた窓には元々あったであろうガラスや木枠がなくなっていて、月の光が直接部屋の中に入り込んでいる。ここで舞踏会が開かれていたのかもしれないと容易に想像ができる場所だ。
ただし、今は華やかさの欠片もなく、激しい戦いの跡が色濃く残る戦場でしかなかった。
「ほう……今宵の求婚者は強そうだ。我が名はオティアン。エミハマス様を守るために立ちはだかる者だ」
扉を開けたリッドたちの前に、白髪の老騎士がさらに奥にある扉を守るように部屋の中央で仁王立ちしていた。
「きゅ、求婚者? それに……忠義の騎士オティアン? 思っていたよりも高齢のようだが……確実に強いな」
リッドは聞き覚えのある名前と想像していた風貌との違いに戸惑いを覚えた。しかし、立ちはだかる老騎士から放たれている並々ならぬ威圧感がリッドに余計な考えごとを許さず、リッドの額には一筋の冷や汗が伝っていった。
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