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1-Ex5. 吟遊詩人は小鳥と詠う

約1,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「ふふーん♪ ふんふーん♪ ふん♪ ららあ♪」


 リッドたちが次の依頼に向けて支度をしている頃、吟遊詩人ハトオロはふらふらと目的地も定めずに村々を渡り歩いて、リッドの英雄譚を村人たちに弦楽器の音色とともに語っていた。


 さらに、彼は行く先々の村での困りごとを解決して路銀を稼ぐというその日暮らしを楽しんでおり、A級冒険者らしからぬ動き方や働き方、生き方をしている。


 しかし、彼は地位や名誉に興味のない自由気ままな吟遊詩人、A級冒険者になったことさえも自由と気まぐれの産物に過ぎない。


「ららー♪ ……うーむ、あまり良くありませんね。この前張り切りすぎて、声をおかしくしてしまったのでしょうかね」


 彼がリッドたちのいる国へと戻ろうかと歩いていたところ、一羽の真っ青な小鳥がピチチと鳴き声を発しながら彼の肩に警戒することもなく留まる。


「おやおや、これはこれは、小鳥さん。先日はどうも。おかげでリッドさんに会えましたよ。お礼にパンの欠片でいかがかな?」


 ハトオロがどこからか取り出した麻袋の中から、さらに小さな紙袋が取り出されて、その中から小鳥が食べやすそうなサイズにまで千切られたパンの欠片が出てくる。


 小鳥はそのパンをついばむこともなく、ハトオロの肩の上を数度トントンと跳ねた後に再びピチチと鳴いて、彼の前でホバリングを繰り返していた。


「おや、いらない? ん? 誘導ですか? ふーむ、こちらですか?」


 ハトオロが行き先を失ったパンの欠片をひょいと自分の口の中に入れて、彼を誘導したがっているように見える小鳥の案内に従って、弦楽器をポロロンと静かに鳴らして歩いていく。


「……ところどころ、人の手が入っていた形跡がありますね。さて、小鳥さんはどこへ連れて行ってくれるやら。まあ、楽園でないことは確かでしょうけどね」


 獣道でさえまだ歩けるのではないかと思えるような藪の中、ハトオロは周りを見渡し、草木を押しのけたり踏んだりしながら自分の向かう先に思いを馳せる。


 人の手が入っていた。


 彼のこの言葉のとおり、藪の中でも時折、土がむき出しな場所があったり、大きな岩が2つ休憩所とばかりに置いてあったりと自然発生とするには不自然な場所が点在している。


「……なるほどね」


 ハトオロがしばらく藪の中を右へ左へと小鳥の示す先へ、導かれるままに歩いていくと徐々に薄靄に包まれ始める。やがて、彼はある場所に辿り着いて、動かしていた足をゆっくりとした動きで止める。


 彼を誘導していた小鳥も疲れたと言わんばかりに飛ぶことをやめて、彼の肩の上に乗ってじっと留まっていた。


 彼の目の前に広がる光景は、薄靄に包まれ、さらに永らく人の気配がない様子で静かに佇む廃村だ。


「小鳥さん、ありがとうございます。しかし、これなら、私がいなくとも大丈夫でしょう。悲劇的な奇跡が起こるほどの何かは感じられない。リッドさんなら大丈夫でしょう」


 ハトオロはまじまじとしばらくの間、目の前の廃村を眺めていたが、何か理解したようにうんうんと肯きつつもそのような言葉を呟いた。


 それからしばらく彼はじぃーっと立ち止まっていたが、何かを閃いたのか、再び弦楽器を手にして鳴らし始める。


「近付いた来訪者たちに廃村は長き仮眠から目を覚ました。黄昏にいざと始まる隠れ鬼、逃げろや逃げろ、捕らわれるは死。廃村が求めるものは始まりか、はたまた終わりか、いずれも安堵………………うーむ、声の調子と同じように、今回はちょっと気が乗れませんでしたね。まずまずでしょう」


 ハトオロは弦楽器をしまい、今度は千切ったパンの欠片を取り出した。


「まあ、これは大した物語にならないでしょうね。さて、お礼にパンの欠片はいかがですか」


 ハトオロが肩の上の小鳥にパンの欠片を差し出したが、小鳥は意に介する様子もなく、ついには大空へと飛び立ってしまう。


 彼は「つれないですね」とぼそっと独り言ちてから、やはり、そのパンの欠片をひょいと自分の口に放り込んで踵を返して去っていった。

お読みいただきありがとうございました。

次回は第2話開始です。

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